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学芸員レポート
福島/伊藤匡東京/住友文彦豊田/能勢陽子|福岡/山口洋三
九州国立博物館 開館記念特別展「美の国日本」/阿部守「火焔鉄」
福岡/福岡市美術館 山口洋三
太宰府天満宮境内
太宰府天満宮の境内を通って……
九博入口
九博に通じるトンネルが見える。
虹色のエスカレータ
虹色のエスカレータがお出迎え。ダン・フレイヴィンの作品を飾ってみたい!
九博外観
トンネルを抜けると九博の外観が見える。開館記念のイベントも開催中。
九博ロビー
ロビー。博多祇園山笠もすっぽり収まる高さ。エレベータで展示室へ向かう。左手は「あじっぱ広場」。子供たち向けのコーナーや、民芸品をさわって体験できるスペースがある。従来の博物館にはない「ライブ感」を謳っている。
九博文化交流展示室
文化交流展示室の展示の一部。照明はかなり暗いが、広々としていてゆったり鑑賞できる。他に映像展示や再現展示もあり、飽きさせない。
 このサイトを見ている人の多くはきっと現代美術に関心の高い方であろうから、このニュースにはさほど興味を示さないかもしれないが、地元のみならず日本の美術界全体にとっては、かなり大きなニュースのはずである。それは、10月16日の九州国立博物館の開館である。国立の施設としては、昨年は国立国際美術館の大阪市内への移転再オープンが話題となったが、今度は、東京、京都、奈良に続く新しい国立博物館のオープンであり、新しい国博の設置は、1897(明治30)年の帝国京都博物館(現・京都国立博物館)設立以来なんと108年ぶりなのだ。……こう聞くといまの「美術館冬の時代」なんてもしかしたら一瞬のつむじ風のようなものなのではないか?と思わずにはいられない(指定管理者制度への移行などの問題で苦労なさっている方々から怒られてしまうだろうか?)。
 岡倉天心が九州への博物館設置を唱えたのが1899年で、それ以来、地元では国立博物館設置は念願であり、その「100年の夢」が今年、ようやくかなった、というわけだ。まさに念ずれば通ず、である。とはいえ、100年前の「制度としての博物館」の黎明期とくらべれば、現代はほぼすべての都道府県が自前の博物館・美術館を持つ時代である。今ひとつありがたみが薄い……? いや、あえて今新しい国立博物館を持つことの意義について考えてみる必要がありそうである。
 九博の所在地となった福岡県太宰府市は、福岡市の南東に隣接し、かつて大宰府政庁のおかれた場所である。一般的には菅原道真ゆかりの太宰府天満宮で知られるだろう。大陸との交流拠点であったことに鑑み、九博の活動の方針も「日本文化の形成を、アジア史的観点から捉える」ことを基本コンセプトとし、同時に文化財の保存と教育普及活動に力点を置いたものとなっている。「博物館」といいつつ、実は収蔵品はまだ100点前後と少ない。たとえは「漢委奴国王」で知られる国宝「金印」は、大陸との交流史を示すうえで無くてはならない史料だが、ご存じの通りすでに福岡市博物館の所蔵となっているなど、収集活動においては完全な遅れをとっている。約30年前、地方美術館がブームとなりかけた頃、「建物は立派でも中身は……」と陰口をたたかれたもの(いや今もか?)であったが、作品収集ばかりが博物館・美術館の使命ではないことは、いまや美術館関係者なら当然誰でも認識しているだろう。作品の活用とその伝達−観客の立場から見れば、この部分こそ、もっとも充実させてほしい分野であるに違いない。
 開館記念展として開催された「美の国日本」(この展覧会名にはかなり恐れ入りました。同じ題名の現代美術展やりません?)は、中国、朝鮮、そして西洋との文化交流をしめす国宝・重文級の作品が並ぶ。うーん、堪能したかったが、すごい人出! ケースには大勢のお客がひしめき合ってほとんど見えない。特に先述の「金印」と、その同型の金印2つ(いずれも中国からの出品)がならぶ「金印3兄弟」(勝手に俗称してしまってスマン)のケースにはまるで近寄れない! 3つとも消しゴムほどの大きさだからのぞき込まないと細部がわからないのだが、こういった展示は、たとえば1列にならんで、という風にはいかなかったものか? せっかくの名品も、あまりゆっくりと鑑賞できなくて残念。しかしその分、通常の博物館の常設展示にあたる「文化交流展示室」での展示は楽しんで見ることができた。会場が実に広々として、また順路が指示されていないために、空いている場所に先にいったり、興味のあるコーナーなどを散策気分で鑑賞することができる。「日本文化の形成を、アジア史的観点から捉える」展示は、ここに実現されている。映像展示の他、遣唐使船を再現した部屋では展示物(再現品)に触れることもでき、五感を刺激する楽しめる展示である。しかし、先述した通り、九博収蔵作品数はきわめて少ないため、この「常設展示」もほとんどが地元、他館、他府県、所蔵家からの借用でまかなわれている。それ故に他では見られないような組み合わせの展示も実現されているのだが、展示替えごとに苦労をされることになるのでは、と人ごとながら気になってしまった。しかしその一方で、こうした「常設展示」の可能性も感じた。特別展をゼロから企画するのは大変だし予算もかかるし、なによりわずか1〜2カ月で終了してしまうが、例えば自館のコレクション展示に欠けた部分を積極的な借用や寄託でまかなうことは、逆に美術館、博物館のコレクションをより際だたせることにもなるのではないか? そんなことを考えながら、ぴかぴかの博物館を後にした。
 しかし、地方美術館の予算減が続くなか、国家の力を見せつけられたような気もしたのも事実(いや〜こんな名品よく借りられましたね……とため息が聞こえそうだ)。また、先行する近隣の博物館・美術館との活動内容の競合もやや気になる。つい先日、旧福岡玉屋の創業者・田中丸善八氏所蔵の九州古陶磁コレクション、通称「田中丸コレクション」が、福岡市美術館と九博に分割寄託 されたことがニュースとなったが、その質の高い陶磁器の名品は、当館と九博 のどちらの収集・展示方針とも合致する。また、「アジアとの交流を示す」、という九博の活動方針は、福岡市博物館の常設展示とかなり似通っているし、「あじっぱ広場」はまさに市博の「体験学習室」を彷彿とさせる。まさかまねしたわけではないだろうが、妙な競合とならないことを祈るのみである。

この登り窯の中で、鉄の作品が焼かれた。
すでに火はないが、まるで火を形象化したよう。
ライトアップされた内部。鉄のオブジェがたたずむ。
薄暮の九博を後にして、向かった先はそこからやや離れた北谷というところ。陶芸家・佐々木厚さんの窯を利用して開かれた彫刻家・阿部守氏の展示を見る。阿部氏は鉄のインスタレーションで知られ、現在は福岡教育大で教鞭をとるが、ギャラリーだけでなく自然環境や都市空間などあらゆる場所で展示を可能にしてしまう作家である。今回はなんと窯の中での展示である。それほど大きくはない窯をのぞき込むとすでに高熱に焼かれたとおぼしき鉄のかたまりが見える。なるほど「火焔鉄」の名称の由来がわかってきた。
 佐々木さんによれば、窯に火を入れ、自作の陶器とともに熱せられる阿部氏の鉄の彫刻の変化こそがもっとも見せたいものであったというし、そしてその過程こそが、本展の主旨であったことだろう。すでに鉄は冷め、窯はその仕事を一時休めている。私はただ、その場にたたずんで、かつて燃えたであろう窯と鉄のことを想像するのみだが、結局私たちは、その現場に居合わせなければ、物や記録をたよりにそれを想像上で追体験するほかはない。それは数日前であろうと数千年前であろうと同じことなのではないか? 九博で見た「交流」をしめす作品群が、そこに重なって見えた。
 ……次回こそ福岡市美術館のことを……。












会期と内容
●九州国立博物館 開館記念特別展「美の国日本」
会場:九州国立博物館 特別展示室 福岡県太宰府市石坂4-7-2 TEL. ハローダイヤル0570-008886
会期:2005年 10月16日(日)〜11月27日(日)
開館時間:9:30〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:会期中無休
●阿部守「火焔鉄」
会場:北谷の窯 福岡県太宰府市北谷79-5
会期:2005年10月1日(土)
〜31日(月)
企画:川上繁治、佐々木厚、宮原裕美
主催:宇久画廊
協力:北谷の窯
問い合わせ:0940-35-1443(阿部) kanetetsu@hotmail.co.jp
[やまぐち ようぞう]
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