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良質の専門書は最良の入門書である──暮沢剛巳
ネット上の美術館──四方幸子
ネット上の美術館
四方幸子
 ネット上の美術や美術館は、おおまかに二つに分けられる。ネット上においてのみ存在しうる作品やプロジェクト、そして既存の作品や美術館の補足・拡張としてネットが利用されるものである。前者はネットというメディアの特性を利用したネット・アートやプロジェクトであり、90年代半ばの批評的な実験に始まり現在はデジタル・コミュニティやコモンズなど社会的な実践にまで広がりつつある。後者は、いまや世界のほとんどの美術館が開設しているウェブサイトであり、現実の作品や美術館に接する前にどこからでもアクセス可能な情報源となっている。
 そもそも「美術館」は、文化・歴史的価値があるとみなされるものの収集・保存・普及を目的とするが、そこでは施設が特定の場所にあり、展示作品が空間や物質として存在し、人々が訪れることが前提となっている。このようにモノを基盤として成立してきた美術館や美術のシステムに対して、インターネットは非場所的な、情報として偏在しうる美術や美術館という新たなトポスを開いたといえる。

情報のリンクによる「空想美術館」
 しかし、空間を超えた情報による美術や美術館は、じつはインターネット以前にも存在していた。複製技術によってである。たとえば写真は一種のテレプレゼンス・メディアであり、本人が実際に行かなくてもその場所を見ることができるだけでなく、世界のあらゆる空間を二次元的なイメージの断片としてだれもが任意に選び、「所有」することを可能にする。個人的なデータベースとして任意に組み合わされることで、つねに新たな意味の生成へと開かれている。アンドレ・マルローが1947年に提唱した「空想美術館」という概念は、美術作品だけでなく、世界のあらゆる事物を写真としてキャプチャーし等価に並べることにより、それまでの美術館というシステム、空間的な枠組みを破壊しその境界を問うものといえる。
 ではネット上における美術や美術館のあり方とは何なのだろうか? ネット上においては、情報は特定のモノとしての支持体に搭載されることなく流通する。それらデータは、すでにコピーとして各自の端末に届けられる。そのような「流出」(F.キットラー)的な特性に加えて重要なのが、リンク機能である。そこではネットワーク上にあるデータが潜在的なリソースと見なされ、リンクされることによって、膨大なデータへのリファレンスが可能となるだけでなく、だれもがリンクを行なうことによって、個人的な「美術館」「美術展」が可能になる。「空想美術館」は、いまやモノとしての映像の所有にとどまらず、さまざまな情報へのリンクという連結可能性へと拡張されたものといえるだろう。

美術館をとらえる新たな視点
 公共的な組織としての美術館と、原則的にだれもが任意に形成できるネット上の「空想美術館」とは、その背景そして使命がまったく異なっている。ただこのような情報の広がりと流通が実現したことで、「美術館」というもの自体のあり方が変化しはじめていることは確かである。わたしたちは美術館を、世界に存在する膨大な量の作品をリソースとした一種の結節点とみなす視点を獲得しつつある。情報の編集・提供者として、新たな作品やプロジェクトを生み出していくこと、ライヴ性と機動力を持ち人々とのインタラクションを行なうこと。日常とつながりながら人々のコミュニケーションを誘発していくこと。そこで生み出されるのは、ベンヤミンがかつて近代美術についてのべた「展示的価値」ではなく、「連結的価値」、「コミュニケーティヴな価値」といえるだろう。
 以下、地域社会に根ざしながらグローバルなネットワークを持つ美術館、アートセンター、文化組織を中心に紹介したい(順不同)。ネットを介した「美術館」の可能性を追求し、メディア・ラボやコンペティションの開催など、新しいヴィジョンを開いていくアーティストを支援する活動を積極的に行なっていることを基準にセレクトした。

rhizome(NY)
www.rhizome.org
3月末に「Game」をテーマにした企画コンペ「Rhizome Net Art Commission」の受賞者を発表。筆者は審査員の一人として参加。
Walker Art Center
(ミネアポリス、米国)
www.walkerart.org
ネット黎明期における、特に現代美術アーティストのプロジェクトを推進したAda Webをコレクションとして公開。2003年に「Translocation」をテーマに企画コンペを行ない、筆者も審査員として参加。
eyebeam(NY)
www.eyebeam.org
メディア・アートを推進する機関として、展示やワークショップ、製作など幅広い活動を展開。筆者はアドヴァイザーの一人。
ホイットニー美術館(NY)
www.whitney.org
2002年の「codedoc」展など、ネット上の展覧会を実施。
アルス・エレクトロニカ・センター(リンツ、オーストリア)
www.aec.at
メディアセンター、フェスティバル、コンペの3つで構成された世界最大のメディア・アート組織のサイト。フェスは今年25周年を迎えた。
ZKM
(カールスルーエ、ドイツ)
www.zkm.de
大規模のメディア・センター。ジャンルを横断した企画展は高いクオリティを持つ。研究所や大学、コレクションも併設。
V2(ロッテルダム、オランダ)
www.v2.nl
隔年のメディア・フェス「DEAF」開催の他、メディア・アートにおける実験の最先鋭でもある。
C3(ブダペスト、ハンガリー)
www.c3.hu
ハンガリーのメディア・アーティストの支援、グローバルなコミュニティ活動の両面を実施。
Sarai(デリー、インド)
www.sarai.net
地域社会支援および地域とグローバルなコミュニティを結ぶ場。デジタル・コモンズのためのオンライン・プロジェクト「OPUS」も展開。
Art Center Nabi(ソウル)
www.nabi.or.kr
モバイル・プロジェクトを推進。オンライン・コンペティションやプロジェクトも実施。
NTT インターコミュニケーション・センター(東京)
www.ntticc.or.jp
メディア・アート展だけでなくアーカイヴHIVEやイヴェントのストリーミングなども実施。
山口情報芸術センター(YCAM)(山口)
www.ycam.jp
メディア・アート、パフォーマンスの発表だけでなく、新作製作のためのメディア・ラボを持つ。
[ しかた ゆきこ ]
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ネット上の美術館──四方幸子
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