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ICCを使い倒せ──住友文彦
館全体がワークショップ「日本科学未来館」──内田まほろ
美術館利用の新しい動向 Withミュージアムの楽しみ方──岡部 あおみ
美術館利用の新しい動向 Withミュージアムの楽しみ方
岡部あおみ
 開かれた出会いの場として  Withともに
   ともに楽しむ         Enjoy
   ともに体験する        Experience
   ともに知る          Know
   ともに思考する        Think
   ともに話す          Talk
   ともに創造する        Create
   ともに与え合う        Give
   ともに変化する        Transform
   ともに批評する        Critic
   ともに生きる         Live

 ミュージアムは記憶のアーカイブだとされてきた。そのイメージはどこか脳や頭部のように思える。だが、今、私たちが夢見るのはミュージアムのボディ。万人を愛する幻想の肉体であり、心を通わせることのできる身体の奇跡のフォルムだ。分類されない未開のカオスを抱くリゾームのボディ。


 夕闇にかすむお堀端の東京国立近代美術館。4限の授業を終えて、小平市の[武蔵野美術大学]キャンパスから駆けつけた24人ほどの学生、院生、助手たちが待っていた。6時集合というのは、アフターファイヴのリラックスした雰囲気に満ちていていい。「ブラジル:ボディ・ノスタルジア」展担当学芸員の方のギャラリートークを聞くためだった。平時より観客の少ない夜間開館時間帯のせいもあり、トークに熱がこもる。静かな情熱を受け止めて涙を浮かべる学生もいた。気が付くと時計は7時半を回っている。

 国立美術館・博物館は金曜日夜8時まで開館している。しかもこの日は特別に、森美術館で深夜24時から入館料が半額になる「オールナイトMoMA」を開催していた。竹橋を満喫した学生の何人が、レイトショーで映画を楽しみ、真夜中の「モダンってなに?」展に挑んだのかは知らない。

 パリではよく、夕食を済ませてから夜10時ごろまで、ポンピドゥー・センターで展覧会を見る。最近はうれしいことに東京の美術館も夜が長くなった。ニューヨークにも負けず、眠らず、過激なサービス合戦を繰り広げる姿に、ふとため息も出る。

活発な美術館での教育普及活動
 2004年春から夏にかけて、武蔵野美術大学芸術文化学科の学生達と[美術館]のサービスの動向について調べてみた。アンケートや聞き取りなど、首都圏・関西などの100を超える美術館に協力いただいたが、驚かされたのは教育普及専門スタッフが非常に増えたことである。

 夏休みになると、各地の美術館・博物館で子どもや親子、小中学生などに向けた楽しいワークショップや講座などが目白押しになる。専門スタッフが必要になるのも当然だ。武蔵美の学生たちも、東京オペラシティアートギャラリーで開催される「夢みるタカラヅカ」展のワークショップの準備に余念がない。

 調査の結果については、近いうちに公表を考えているが、美術館の利用動向やサービスについて気づいたことを簡単に紹介しておこう。

 教育普及活動でもっとも盛んなのは、展覧会毎の特別な講演会で、次がワークショップ、ギャラリートークと続く。アンケートの記入欄で今後の抱負を尋ねると、さまざまな館から、レクチャールームの新設、ギャラリートークを週3回から毎日実施、子ども対象のギャラリーツアーの拡充、周辺施設と連携したワークショップ、社会教育機関や学校との連携といった記載があり、各種講座や参加型ワークショップなど教育普及へのさらなる意欲が語られていた。専門エデュケーター、友の会、ボランティアたちの活躍の場が、今後より一層広がる可能性を感じさせる結果であった。

 美術学習の比重が急に重くなってきた背景には、1998年以降の小中学校における図画工作と美術の授業の激減、さらに2002年の完全学校週5日制の実施と「総合的な学習の時間」の開始、「小中学校での図工・美術における鑑賞教育の充実と地域の美術館の活用」をうたった学習指導要領の施行がある。それにともない、国立美術館・博物館では、中学以下あるいは高校以下と65歳以上などに対して、常設展を無料にする措置を実施しており、とくに公立美術館・博物館では、児童・学生などに対するさまざまな無料入館の設定が始まった。

市民とともに新たな美術館像を構築
 芸術文化政策の転換が、ミュージアムを従来の作品収集・研究・企画展開催以外の活動へと押し広げてゆくのと同時に、予算と人員削減の折、マネージメント的には矛盾する施策によって学芸員や職員たちの負担が増してくる。そして期待が高まっているのは、市民や民間団体による財源支援であり、市民ボランティア、友の会、NPO団体などの活躍だ。折しも、「指定管理者制度」という地方自治法の改正で、美術館の運営は民間企業やNPOに委託することさえ可能になった。

 一方、美術館側は市民とのコラボレーションを深めるために、学校・会社・福祉施設などへの出前サービスも行ない、乳飲み子をもつ母親に授乳室を用意するなど、美術館に来ることが難しい障害者や高齢者、あるいは来ることのできない病人や服役者など、美術館マイノリティへのサービスにも気を配るようになった。

 厳しいサヴァイヴァルの季節だからこそ、市民が利用しやすいだけではなく、気持ちよく参加し交流し、熱心に支援したくなる美術館像の形成、強い連携と双方向の信頼感にもとづいた新たな美術館像の構築が、21世紀型美術館には欠くことができない。両者が可能なかぎり新たなサービス手法を考え出すこと、それは何にも増してクリエイティヴな営為ではないだろうか。

 エントランスでコンサートを聴き、すてきなカフェ・レストランで憩い、ショップでかっこいいグッズやアートの本を購入する。美術館の魅力は、すばらしい作品やアーティストや展覧会との出会いに始まり、「観る」ことを越えた豊かな「With」の創造へと進んでゆく。そのためにも、希求するのは手ごたえのあるミュージアム・ボディなのだ。そして今ほど、人々が、世界が、ミュージアムが、アートを必要としている時代もない。それはアートやアーティストが、ともに生きることの愛を教えてくれるからである。


★集計結果については近日公表する予定です。
[ おかべ あおみ ]
ICCを使い倒せ──住友文彦
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