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オルタナティヴスクール──アートを学ぶ場所
暮沢剛巳
オルタナティヴスクールの現状
 今年もまた4月を迎えた。都内の桜はすでに散ってしまったが、それでも多くのキャンパスでは意を新たにした多くの新入生で賑わいに満ちている。ところで、ありきたりの話だが、学ぶということはなにも若い学生だけの特権ではない。たとえ日々多忙な社会人であっても、本人の意欲次第ではなかを学ぶことは十分可能であるし、そうした人々を対象としたカルチャースクールも多くの受講者によって盛況を見せている。もちろんアートもその例外ではなく、朝日カルチャーセンターや池袋西武コミュニティカレッジのような大手のスクールでは、絵画教室をはじめとする多くの講座が開講されている。そこで今回は、アートに特化して精力的なプログラムを実施しているカルチャースクール(それをここでは、便宜上オルタナティヴスクールと呼ぶことにする)をいくつかピックアップして紹介していきたい。
第一線で活躍する専門家を講師に招く
BankARTSchool
BankARTSchool
上:山田うんwith CAT
「子どもたちのためのダンスワークショップ」
下:大野慶人ワークショップ「魂の糧」
提供=BankART1929
 この場合のオルタナティヴとは、既存の大学や専門学校とは違う役割を担っているという意味なのだが、してみるとまずユニークさにおいて傑出しているのが横浜BankARTSchoolであろう。ご存じない読者のために最低限の説明をしておけば、横浜BankARTとは、近頃再選を果たした中田宏市長の音頭のもと、横浜市が2004年に開始した文化芸術創造のプログラムであり、みなとみらい線馬車道駅の周辺に建つ旧第一銀行と旧富士銀行のビル2棟(この2つは、いずれも1929年に建設されたものだ)を改装して、展覧会、ラボ、ショップ、カフェ&パブなどのさまざまな展開を図っている。Schoolもその一環を占めているのだが、その対象領域は美術に限らず演劇・音楽・建築・写真・ダンスなど文化の各分野に及び、いずれの分野においても第一線で活躍する専門家を講師に招いて、バラエティ豊かな講座を開講している。2カ月全8回の各講座はいずれも少人数制で、講師と受講者のコミュケーションを重視したその運営はさながら寺子屋のようであり、その親密な雰囲気に惹かれてか、同時に複数の講座を受講する熱心な受講者もいる。講座のレベルは大学・大学院と比べてもそん色なく、昨夏に開催された国際展講座が実はartscapeの公式記録集である『アートスケープ・クロニクル』にも収録されていること(ウェブサイトでは講座の様子を動画で見ることができる)、また人気講座のひとつである飯沢耕太郎ゼミの受講者による写真展が開催されたことなどを挙げておけば、内容の充実振りが窺えよう。なお母胎の横浜BankARTは、この3月末をもって実験期間を終了し、NPO法人を発足させて(現在申請中)、今後3年間に渡りまた新たに事業を継続することが発表された。2006年度BankARTschoolは6月開講予定。また充実したラインナップの講座が開講されることだろう。
日本全国を美術館に
アートアカデミー・にっぽんミュージアム
アートアカデミー・にっぽんミュージアム
上:BankART1929「食と現代美術展」での朗読会
下:メールマガジン・アートシンクタンク通信公開録音
提供=にっぽん ミュージアム

 ついで取り上げたいのが、東京・月島のタマダプロジェクトを拠点に活動する 「アートシンクタンク」が開講する「アートアカデミー・にっぽんミュージアム」(NPO法人)である。これは、「日本全国、美術館になったらおもしろい」というコンセプトのもと、日々の暮らしのなかに積極的にアートを取り入れることによって芸術文化大国の創造性を目指すというスケールの大きな目標を掲げて開始された事業であり、この4月より開講された「写真」「子供向け絵本」「美術書朗読」「地域ソムリエ」といった講座のラインナップからは、「美術・建築などアート界をとりまく社会的課題を具体的に解決していく」「社会そのものの意識を変えるための刺激」という2つの方向性を強く意識していることが伝わってくる。事務局によれば、「一般の方々からの反応はよい。個々の受講者のスキルアップだけではなく、そこで得た技能や知恵が社会的に還元されていくような流れを作り出したい」とのこと。現状では試行錯誤の面も多いようだが、メールマガジンを配信し、展覧会や映画上映会など、母胎である「アートシンクタンク」との他の事業との積極的な連関を図っているようだ。発足したばかりの「にっぽんミュージアム」の今後の活動にも注目したいところである。
より実践的な大学の課外授業
 一方、オルタナティヴスクールの観点からはなにかと硬直化が批判されることの多い大学教育の現場でも、今日ではそうした視点を意識してか、学外の社会人を対象とした課外プログラムが開講される事例が増えてきた。そのなかでも今回は東京工芸大学の課外講座として設けられている「プロを目指す・アートライター養成講座」を取り上げてみよう。これは、「『一億総表現者社会』の到来と言われていますが、果たしてリテラシー(読み書き)は本当に大丈夫なのか。またアートのような単純なメッセージではなく、『多重のメタメッセージ』ないし『非意味』を発信してくるものに対する高度なリテラシーを身につけることは、今の複雑な社会を生きるうえで必要ではないか」との意識にたって、民間の出版社と共同で企画した事業であり、プロ志向を前面に押し出す分、受講者の作文添削などのプラクティカルなサポートも行なうとのこと。課外講座の場合、正規の教育課程とは異なり受講しても学位や資格が取得できるわけではないので、それに代わるモチベーションが必要という配慮でもあるのだろう。大学の持っている設備や人材の専門性は他の機関の追随を許さないものであり、社会人向けとしては、従来ならば夜学や通信教育がその資源の有効活用の役割を担ってきた。だが少子化が進行する半面、生涯学習熱が高まる昨今の情勢下では、さらに自由度の高い課外講座の重要性がいよいよ増していくことになるだろう。
 スペースの都合もあり、ここでは首都圏のわずかな事例しか取り上げられなかったが、もちろん他にも数多くのオルタナティヴスクールが各地で営まれている。関心のある読者には、是非各々の興味に応じて積極的に参加の機会を探ってもらえたら、と思う。また私自身の経験も踏まえて言うならば、ここで取り上げたいくつかの事例が、いずれも講師による一方通行の講義ではなく、受講者の積極的な参加を前提とした双方向型の形式となっていることにも留意しておきたい。ことは美術館のワークショップ(これもまた、一種のオルタナティヴスクールと考えることができる)などでも同じだが、このような好機になにをどう学ぶのかは、結局のところ受講者の意欲の問題なのである。
[ くれさわ たけみ・美術批評 ]
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