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ICCの現在とリニューアルオープンについて
畠中実
 さる6月6日、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]がリニュアールオープンした。
 1997年より施設としての活動を開始したICCは、2005年までの活動をもってひとつの区切りとしてこれまでの活動の見直しをはかり、「Art×Communication=Open!」という新たな活動コンセプトのもと、NTTグループとの協力体制をより強化し、そのリソースを活用しながらふたたび新たな活動を展開していく予定である。
活動の基盤となる運営母体の技術的サポート
 新生ICCの活動コンセプトについては、極端な方向性の変更がはかられたというわけではなく、基本的にこれまでのICCの活動を踏襲したものである。世界でも数少ない、より広義のテクノロジー・アート専門施設として活動を展開してきたICCは、90年に日本の電話事業100周年記念事業として、きたるべき電子情報社会における芸術表現の可能性、そして科学技術と芸術文化の対話による「豊かな未来社会」を構想するものとして企画され、91年に首都圏の電話回線を利用し電話やFAXを通じて、さまざまな美術家や小説家、批評家など、広範な分野から作品やメッセージなどを発信した『電話網の中の見えないミュージアム』によってその活動を開始した。この物理的な「場」に依存しない「見えないミュージアム」という構想は、物としての作品を収集展示するのではなく、「出来事としての情報」を集積しながら新しい情報を生み出していく「ソフト・ミュージアム」を、NTT(当時)のもつ情報インフラを活用するということによって実現したものである。
 このような、ある種の特異性を背景にして出発したICCは、その当初より、従来の美術館モデルとは異なる活動方針と意義、そして新しい文化施設のモデルを提示する可能性を持つものであった。また、施設開館時から2000年まで展示されていたICCのコレクション作品である、三上晴子の作品《存在、皮膜、分断された身体》はNTT基礎研究所の協力によって実現されたものだが、その他いくつかの企画展示やワークショップおよびそのネット中継など、そうした通信技術や研究所との協力体制によって実施された企画も多い。
これまでの活動方針を4つのセクションによって再構成
 今回のリニューアルでは、このような構想当初からの活動を確認したうえで、その柱となっていたがセクションとして区分されていなかった複数の要素をより明確に提示するために、「アート&テクノロジー」「研究開発」「ネットワーク」「アーカイヴ」という4つの展示エリアを設定した。それを、これまでの常設展示に相当するものと位置づけ、年度ごとに更新される長期展示としてメディア・アート作品および技術を応用した作品やデモンストレーションを無料で公開することになった。
 「アート&テクノロジーゾーン」では、藤幡正樹、岩井俊雄、クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノーら国内外のメディア・アートを代表する7作家による作品を展示する。展示作品は、メディア・アートが常に伴走し、言及してきた技術やコンセプトを明解に提示し、かつ体験的に理解しやすいものが選ばれ、インタラクティヴ、デバイス、VR、人工生命、ウェブ、映像、アニメーションといったテーマ/キーワードに沿って解説されている。その他、1990年以降のメディア・アートとその周辺の社会的文化的動向を概観する年表、音を吸収してしまう無響室、若年層を対象としたプレイルーム、若手クリエイターの紹介を目的とした発表の場「エマージェンシーズ!」などを擁する。また、同ゾーン内に併設された「研究開発コーナー」では、NTTサイバーソリューション研究所の開発した、仮想の触覚を伝えるインターフェイスや、情報処理推進機構(IPA)未踏ソフトウェア創造事業、IAMAS(情報科学芸術大学院大学+国際情報科学芸術アカデミー)における、ソフトウェアや教育用ツールの開発など、企業や公的機関や大学など、産・官・学の分野からの研究事例を紹介している。「ネットワークゾーン」は、ネットワーク技術に触発されたアート作品、あるいは新たなコミュニケーションや表現を促すような技術を紹介する。未踏ソフトウェア創造事業で開発された、世界の言語を発音による近似によって検索し、異なる国の言語間における意味の相違を抽出するインスタレーションなどが展示されている。せんだいメディアテークと接続した双方向のリアルタイム映像配信では、将来的にブロードバンド技術による、こうした文化施設間の情報配信やイヴェントの連携が視野に入れられている。「アーカイヴゾーン」は、図書室およびシアターにおける資料の閲覧や映像作品の視聴、コンピュータ端末から閲覧するICCの過去の映像記録アーカイヴ「HIVE(ハイヴ)」によって構成される。
クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー《A-Volve》 鈴木由里子+小林稔《風インタフェース》
左:クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー《A-Volve》1994
ヴァン・ゴッホ美術館(アムステルダム、2006年)における展示風景
右:NTTサイバーソリューション研究所
鈴木由里子+小林稔《風インタフェース》
アーティストとエンジニアの交流の場
 これらによって、来館者への多角的な理解を促し、幅広い多くの利用者にアクセス可能な施設モデルとして、より社会に開かれたあり方を模索し、かつ、異分野の成果が複合的に関係できる、たとえばアーティストとエンジニアとの交流の場ともなるような活動の展開が構想されている。さらに、今までICC内のみで閲覧可能だったHIVEは、クリエイティヴ・コモンズ・ライセンスに準拠した利用許諾条件のもと、ウェブを通して公開されている。それによって、遠隔地からも個人や教育機関における教材などとしての利用、およびその他の創造的な利用が可能となる。その他、ポッドキャスト「チャンネルICC」では、作家本人による作品解説が聞けるなど、さまざまなネット活動を強化している。
 また7月から8月にかけての夏休み期間には「キッズ・プログラム」として、若年層を対象にした企画が、そして従来通りのテーマ展やアーティストの個展などによる企画展も、本年9月より開始が予定されている。
[ はたなかみのる・ICC学芸員 ]
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