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デザインの多様性を見せる──21_21 DESIGN SIGHTの開設
柏木博
 六本木の旧防衛庁の跡地に「東京ミッドタウン」が3月30日にオープンした。赤坂にあったサントリー美術館がこちらに移転した。「東京ミッドタウン」内につくられた「21_21 DESIGN SIGHT」も同時にオープンした。森美術館国立新美術館などが六本木周辺に次々につくられ、上野に対する新たな美術館集約都市が形成されたともいえよう。
 ミッドタウン内にデザイン施設が計画されたのは03年のことである。設計を担当した安藤忠雄の『悪戦苦闘』(安藤忠雄建築展実行委員会、2007)は、この施設ができあがるまでの記録であるが、この記録は「初めの構想」として03年6月からはじまる。
 「21_21」の構想は、三宅が朝日新聞に「造ろうデザインミュージアム」の原稿を書いたことを契機としているという。実際にはそれよりずっとはやくからデザイン施設の構想が三宅のなかにあったのではないだろうか。
21_21 DESIGN SIGHT 21_21 DESIGN SIGHT
左=21_21 DESIGN SIGHT、外観
右=同、内観
Photo=MASAYA YOSHIMURA/NACASA&PARTNERS Inc.
ミュージアムからサイトへ
 まずは、この施設の活動目的についてみておこう。当初、三宅には「デザイン・ミュージアム」を実現したいという気持ちがあった。それは、デザイン・ミュージアムがいまだ存在しないという日本の現状が彼のなかで気がかりだったからだろう。実際、産業先進国でデザイン・ミュージアムを持っていないというのは、むしろめずらしい状況である。したがって、公的な機関がデザイン・ミュージアムをつくろうとしない現状に対して、それなら自らという思いも三宅のなかにあったのではないだろうか。しかし、デザイン・ミュージアム設立という構想は、自治体や国あるいは大企業などによるしか実現はなかなか難しいところがある。それは、規模の大きさや、コレクションやキュレイターなど考慮すべき多くの要素を含んでいるからだ。
 ちなみにヨーロッパにおいてデザイン・ミュージアムのモデルとされたのは、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアム(V&A)である。V&Aは、世界で最初のデザイン・ミュージアムとされている。1851年の第1回のロンドンでの万国博覧会に集められた品々とともに国立デザイン学校のコレクションを基礎として、翌52年、デザインを学ぶ学生への刺激を生むためとしてマールボロ・ハウスに、製造品(マニュファクチャー)のミュージアム「産業博物館」が設立される。その後、1857年に文化施設建設用地として指定されたサウス・ケンシントンに装飾美術館として移され、さらにヴィクトリア女王の亡夫アルバートを記念する美術館として現在の名称へと改められた。当初、産業博物館は、デザインを学ぶ学生のためにはじまったが、V&Aでは、産業家、デザイナー、デザインを学ぶ人、そして生活者にデザインを啓蒙することを目的とした。専門家と同時に市民にむけてのデザインの教育的施設として位置づけられたのである。
 その前例からも、個人でデザイン・ミュージアムを設立することは、あまりにも重荷になる。そこで、「21_21 DESIGN SIGHT」という名称にして、その機能を方向づけたのだろう。博物学的思想から出現した博物館(ミュージアム)の機能である膨大なコレクションを持つことを切り離し、むしろ、デザインを広くとらえ、さまざまな展示、あるいはワークショップや講演など多様なプログラムを展開する空間として、「21_21」を位置づけている。博物館ではないがそれは、それは、「産業家、デザイナー、デザインを学ぶ人、そして生活者にデザインを啓蒙する」施設として機能するのではないか。そうした意味で、この施設の設立は喜ぶべきことだといえる。


3人のデザイナーがディレクションする多彩なプログラム
 「21_21」は、三宅一生、佐藤卓、深澤直人の3人のデザイナーがディレクターとして、今後の活動を展開していく。
 「21_21」オープニングでは特別企画「安藤忠雄 2006年の現場 悪戦苦闘」展(〜4月18日)を開催した。以後、深澤直人のディレクションによる「チョコレート」(4月27日〜7月29日)などの企画展が続く。
 ところで、「21_21」の建築は、屋根に意匠の特徴があり、三宅の「一枚の布」という衣服の考え方を引き取るコンセプトにして、一枚の鉄板による折り紙あるいは伝統的な折り型のような形態が、外観を印象づけている。地下一階、地上一階、つまり平屋である。高層ビルが建ち並ぶ東京の中心、そして「東京ミッドタウン」の中にあって、平屋は、空の広がりをつくり開放された気持ちにさせてくれる。
 建物の地下には2つのギャラリーがある。 平面プランでは、地下一階は、一部変形になるが、メインになるギャラリー・スペースは方形になる。壁を斜めに入れることで、動きをつくっている。こまやかなプログラムが見られる。
「安藤忠雄 2006年の現場 悪戦苦闘」展 会場風景
「安藤忠雄 2006年の現場 悪戦苦闘」展、会場風景
Photo=MASAYA YOSHIMURA/NACASA&PARTNERS Inc.
[ かしわぎひろし・デザイン評論 ]
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