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多次元フォトコラージュを用いた
デジタルミュージアム制作ワークショップ


用の美システム研究会 丹治はるか 大武美保子

  1. 用の美システム研究会とは

1995年に著者の1人である大武が 日本民藝館ホームページを立ち上げてから、今年で7年が経つ。 インターネットというもの自体がまだあまり知られていなかった 当時、日本民藝館ホームページの制作は画期的な試みであった。 その後徐々に仲間が増え、現在は、6人のメンバーが 用の美システム研究会 として運営に携わっている。 2002年現在、来訪者数は一日平均約1000アクセスであり、 インターネット上の友の会であるネットワーク民藝の会会員は 300名を超えている。ページ来訪者とのコミュニケーションも盛んであり、 これまでやりとりしたメールは2500通にのぼる。 インターネットを取り巻く状況が刻々と変化していく中で、今何が求められているか ということへのヒントを与えてくれる貴重な意見が多く寄せられている。

たとえば、小中学校の先生方から民藝館ホームページを生徒たちの教育の教材 として利用したいという申し出を何度かいただいた。 また、現在のところ日本語版のみであるにも拘わらず、 日本語を母国語としない方からホームページを見て楽しんだという 感想をいただいたこともある。 より小さい子供、様々な言葉を母国語とする人に 面白さを伝えることのできる表現方法を探ることが課題になってきている。 さらに、インターネットが非常に普及した今、 よりインタラクティブな情報デザインが求められていることも分かってきた。

一方で、用の美システム研究会はメンバーは、2002年現在、 情報系大学院生、研究者、社会人で構成され、副業として研究会活動を行っている。 今後50年、100年タームで持続的に 運営しつづけるためには、学芸員が通常業務の中で その活動の一環として情報発信するのが理想的な形である。 次第に、コンテンツそのものの発信ではなく、 コンテンツ発信を支援する情報システムをデザインしたいと考えるようになった。

以上をまとめると、現在私たちに課せられている課題は以下の三点である。

1. 言語を超える表現方法の探求による、情報化時代の次のフェーズの美術館コンテ ンツのあり方の提案
2. よりインタラクティブな情報デザイン手法の創造
3. 誰にでも簡単に情報の持続的更新を行える仕組みづくり

私たち用の美システム研究会は、これらの課題を3本の柱として 活動を行っている。ここでは、以上の課題への取り組みの一端をご紹介したい。

2. 多次元フォトコラージュとの出会い

一般には、ホームページへの幅広いニーズに対応するために、 小さい子供にはひらがなのページを、 世界の人々に対しては英語のページを用意するという方法がとられる。 しかし、すべての情報について異なる版を用意するには手間がかかる上、 文字が読めない位小さい子供や英語を解さない人には対応できない。 年齢や母国語によらず、どのように世界を直接認識しているかという 根本に立ち返ってみると、視覚情報がその中心であることが分かる。 私たちは、観客が実際に美術館に行った時のように空間内を移動し、 直接見て作品を味わえるような言語を超える表現手法を探りたい、と考えた。

言語を用いることなくページを見る人を必要な情報へ導く手法を、 非言語ナビゲーション手法と呼ぶこととする。 従来、ウェブページを見るブラウザは、基本的に文字と絵の表示とリンクの機能しか 備わっておらず、非言語ナビゲーションは静止画像に頼るしかなかった。 しかし近年、ブラウザに機能を追加するPlug-inと呼ばれるソフトウェアが 目的に応じて数多く公開されるようになり、ページの表現手法は格段に広がり、 今やブラウザの上で動画やゲームを楽しむことは特別なことではなくなっている。 用の美システム研究会では、こういったPlug-inのなかでも特に、 VRML、X3D、QuickTimeVRという技術に着目し、採用に向けて検討を重ねてきた。 現在、web上で3次元空間を構成する手法としては、主にこれらが用いられている。 当初はこれらのうちのいずれかの技術を用いて日本民藝館の建物を モデルとして再現し、ページ来訪者に館の雰囲気を味わっていただいたり、 作品の写真を仮想3次元空間に配置して、言語を通さずにテーマを感じ取って いただくということを想定していた。

VRMLと、その次世代版であるX3Dは、コンピュータ上に構築された仮想3次元空間の モデルの中を自由に動き回るという体験を可能にする技術である。 しかし、VRMLやX3Dは3次元空間のモデルを人の手で一から作る必要があり、 民藝館の雰囲気をうまく再現するには非常に労力を要し、 民藝館ホームページでの採用は現実的ではない。 一方のQuickTimeVRは、広角レンズでとった写真を合成することで 全方位を見渡すことのできる映像を提供するPlug-inである。こちらはデータの作成が 容易であり、多くの美術館サイトでも採用されている。 建物の雰囲気を伝えるという点では有用な方法であるが、一つの視点から 景色が見渡せるというだけで、真の意味での非言語ナビゲーションとはなり得ない。

そこで出会ったのが、東京大学空間情報センターの博士課程学生である 田中浩也氏が開発し、国際特許出願中の新技術、多次元フォトコラージュである。 これは、写真群をつなぎ合わせることにより、奥行きを持った空間を構築する 手法である。 重なり合う写真をクリックすることで、奥へ奥へと進んでいく感覚を 味わうことができる。 2枚の写真の共通部分を囲む4点をそれぞれの写真から選択すると、 写真同士の相対的な関係をソフトウェア(STAMP)が計算し、 3次元空間が構築される。 原理が至ってシンプルであるにも関わらず、「視界のフレーム」のダイナミックな 変形によって、撮影者の身体移動や姿勢を観客が追体験できるのである。 これは、QuickTimeVRのデータ制作の容易さと、X3Dにはない表現力・再現性を 併せ持つ点で、今後の普及が期待されている。 そこで、私たちは、多次元フォトコラージュを、非言語ナビゲーションを行う ための手法として用いることにした。

3. デジタルミュージアム制作ワークショップ

多次元フォトコラージュは、前にものべたとおり、非常に新しい技術であるため、 まだ確立した「使い方」というものは存在しない。 また、元来GIS(地理情報システム)研究の中で生まれた手法であるため、 デジタルミュージアムを目的として開発されたわけではない。 したがって、この技術を用いてデジタルミュージアムを制作する方法を探るためには、 いろいろな実験を重ねる必要がある。 このことと私たちに課せられている2つ目の課題である、インタラクティブな情報デ ザインということを 考え合わせたとき、外部から参加者を招いてワークショップを開き、 そこで様々な手法を探っていくことが一番よい方法ではないかと考えた。 つまり、最終的に、観客が作るミュージアムの空間を見て、興味を持った人が 実際の美術館を訪れ、その人がまたフォトコラージュによって 別のミュージアム空間を作り…というサイクルができれば、 インタラクティブな情報デザインのひとつとなり得るのではないかと考えたのである。 これには、多次元フォトコラージュの大きな特徴の一つである、 作る人の視点を再現できるということが生きてくる。 元の現実の空間が同じでも、作る人によって、全く異なる仮想空間が 出来上がるのである。

ワークショップは2回行った。 第1回目は昨年2001年11月に、 東京芸術大学先端芸術学科の学生及び東京大学大学院生を対象に試験的に行い、 第2回目は本年2002年6月に、一般参加者を対象に行った。 特に第2回目のワークショップは、 第1回目のワークショップで制作した作品を インターネット上に展示することで参加者を募った。 一般参加者がバラエティに富んでいたことは特筆に価する。 年齢は、13才から57才まで、 職業は、メディアジャーナリスト、未来生活プロデューサー、マルチメディアコンサ ルタント、 プロダクトデザイナー、映像制作者、考古学者、研究者、主婦、会社員、フリーラン ス、大学生、 留学生、中学生であった。 参加者約20名、スタッフと見学者を含めて約30名となった。 第1回、第2回ワークショップの様子を以下の写真に示す。

ワークショップの様子ワークショップの様子

第1回目のワークショップの結果をふまえ、第2回目の 当日スケジュールは三段構成とした。 まずスタッフがワークショップの全体概要と多次元フォトコラージュ技術に関する説 明をし、 参加者が簡単に自己紹介しあった。 次に、参加者が、日本民藝館において作品鑑賞をし、学芸員によるギャラリートーク を聴講し、 二人一組になって、閉館時間後に展示空間の撮影を行った。 最後に、当日参加者が撮影した写真の一部をスタッフがコラージュした作品を鑑賞し ながら、 全員でディスカッションした。 興味深いのは、鑑賞体験を記述しようとしながら鑑賞することにより、 普段無意識に鑑賞する時よりもより深く、面白く鑑賞することができる、ということが 明らかになった点である。 デジタルミュージアムを作るプロセス自体が一種のエンターテイメントとなるのであ る。

制作された作品のスナップショットを以下に示す。 ワークショップで制作された多次元フォトコラージュによる作品は、 用の美システム研究会ホームページ内、 SpEx2(スペックススクエア) において鑑賞することができる。百聞は一見に如かずであるので、 実際に観て頂きたい。なお、多次元フォトコラージュ作品をウェブ上で観るためには Shockwaveプラグインが必要である。

多次元フォトコラージュ多次元フォトコラージュ

4. 美術館を取り巻くメディアの融合

ここで、本ワークショップについて、美術館メディアという観点から整理してみたい。 美術館を取り巻くメディアには、大きく分けて以下の三つがある。 美術館を舞台に行うワークショップ、美術館の所蔵品を電子化したデジタルアーカイ ブ、 観客に展示案内をするネットワークである。 1995年から1996年にかけて、大日本印刷(株)が主催していた「美術館メディア研究 会」(第二期) では、これらの三つに対応する分科会、ワークショップ分科会・CDROM分科会・ インターネット分科会 に分かれて活動していた。 これらは従来、個別に行われたり作られたりしてきたのである。 ところが、今回の試みでは、 ワークショップでデジタルアーカイブを制作し、 これをインターネットにおいて公開し、これを用いてワークショップの参加者を募る、 というひとつの循環を作り出した。 即ち、美術館を取り巻くメディアを有機的につなぎ合わせる手法、デザインプロセス をデザインしたと言える。 そして、このプロセスの中に観客を取り入れた、真にインタラクティブな 観客制作参加型デジタルミュージアムは、世界初である。

そこで用の美システム研究会は、田中浩也氏の研究グループとの共同研究という形で、 ワークショップを通じて得られた知見を、 2002年6月末にロンドンの大英博物館で行われた ACM SIGCHI Designing Interactive Systems (DIS2002) という学会において発表した。 この学会は、アメリカ計算機科学会の「コンピュータと人とのインタラクション」部 門が 主催するもので、インタラクティブなシステム、 具体的には新しいヒューマンインターフェースやデザインプロセスについての議論が なされた。 ここで、研究成果は多くの参加者の注目を集め、 スペシャルハイライトのパネルディスカッションのパネラーに選ばれた。

5. 今後の展望

世界中から集まった学会参加者から、実際に鑑賞しているかのように感じられて、 非常に面白いという感想が寄せられた。 また、学会参加者の2歳児の子どもも作品に興味を示し、 作品を観るためにマウスボタンを何度もクリックする様子が観察された。 すなわち、実際の美術館に訪れた観客の鑑賞体験を、 母国語や年齢によらず追体験し、楽しむことができるようになった。 当初の目的である、 言語を超える表現の具体的な方法、非言語ナビゲーション手法の一例が 示せたといえるだろう。

これと同時に、写真のつながりだけでは、実際の空間がどのようになっていたかを 把握するのは困難であるという点についても、多くの人に指摘された。 異なる参加者が制作した作品を比べると、 展示空間を記述しようとせずに、観客の視点と身体の移動を素直に再現した作品は、 たとえ空間構造が把握できなくても、 作品を観る人にとって自然に感じられることが分かった。 一方、展示空間をできるだけ忠実に再現しようとした作品は、 空間構造がより把握しにくく、むしろ不自然に感じられるという、 逆説的な事実が明らかになった。 実際に美術館鑑賞をする際に、美術館の空間構造を把握することは稀であり、 空間は展示品を鑑賞する流れを作り出す場として働いている。 そもそも鑑賞体験とは何か、観客が展示空間をどのように体験しているのかという 根本が問われる結果となった。 以上の問題が、撮影と編集の工夫により、解決可能な問題であるのかどうかは、 現時点においてまだ明らかではない。

いずれにせよ、今回のワークショップで作り上げたデジタルミュージアムは、 ネットワークを通じ世界中の人々が観ることになる。 一度も来たことがない観客が、実際に行ってみたいと思うようになるのか? 一度来たことがある観客が、また行ってみたいと思うようになるのか? 地理的な事情により、なかなか来ることができない観客が、 インターネット上で何度も観たいと思うようになるのか? これらは、チャレンジングな課題である。 実際に訪れた観客、インターネット上で訪れた観客と共に探っていきたい。 そして、デジタルミュージアムの作り方だけでなく使い方を含めた トータルなループをデザインしていきたい。

用の美システム研究会では、ワークショップを開催する以前から、 美術館を運営する学芸員が用いるための、情報更新支援システムを開発している。 今後は、ワークショップを通カて得られた知見を活かし、 美術館を楽しむ観客をもが、 より簡単に、そして効果的に情報発信し、共有することが可能なシステムを 独自に創出していきたい。 それは、持続可能なデジタルミュージアムにとって不可欠なものとなるであろう。 デジタルミュージアムのデザインプロセスを出発点として、 広く情報デザイン一般に応用できるような考え方を発見し、 提案していきたいと考えている。




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