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構成主義理論に基づく博物館
 
 前々回より「美術館教育研究」でも随時掲載していた海外の動向レポートとして、先日スペインで開催されたイコム大会をとりあげています。3年に一度世界中の博物館関係者が集まるこの大会では、様々な会議が開催されるほか、各国の博物館関係資料なども入手でき、世界の博物館の動向を知るにはまたとない機会です。第三回目は、第二回目に引き続きCECAの会議で筆者が耳にした新しい言葉、constructivism(構成主義)について報告します。

構成主義理論に基づく博物館
 構成主義的博物館では、観覧者は展示から個人的な知識を組み立てる。展示の内容や方法の論理的な構造は、展示の特質や展示物の性格によってではなく、来館者の教育的ニーズよって左右されることになる。そのような博物館では、展示内容はそれ自体のなかに来館者から独立した秩序があるとはみなされないし、来館者が学習するために採用するべき最良の方法はただ一つであるとも考えられていない。構成主義的博物館の展示は決まった入り口も出口もなく、来館者自らが自分と資料とを関連づけられるようになっていて、さまざまな方法で学習することを勧めるものである。

 前回の構成主義に関する要約に沿ってもう少し具体的に博物館の展示やプログラムの問題点を見てみよう。

 現在、博物館教育者の多くが学習者は能動的であることが必要であり、体験型、参加型の展示が重要であるとの考えを認めている。しかしもっと大切なのは、手を動かすと同時に頭も働かせなくてはならないということである。すべての経験が教育的であるとはかぎらない。来館者に何か活動をさせても、その意味を彼らが理解していなければそこから学ぶことはできない。その一方、見るだけの展示であっても学習者が見たものから様々な思考を展開することができれば、それはインタラクティブな展示といえるだろう。学習者が何か行為をすることも重要であるが、それはハンズ・オンであると同時に精神活動を伴う「マインズ・オン」でなくてはならない。

 学習は社会的なものであるという観点から構成主義では会話、他者との相互作用などを重視する。来館者が議論し、知識を分かち合い、共に発見することを促すような要素を展示に取り入れたかどうかが問われねばならない。美術館は概ね静かで、来館者に討論やにぎやかな会話を遠慮させるような雰囲気があるが、例えば展示室の近くに来館者が見た作品の複製、参考資料などを置き、それらを前にして話し合えるような部屋を用意することもできよう。

 われわれは孤立した事実を学ぶのではなく、他に知っている事柄、信念、偏見、恐れなどとの関係(文脈)の中で学習するのである。その文脈は個々人で異なるのであるから、展示は学習者を惹きつけるために様々な知覚方法、異なる種類の刺激による異なった「入り口」をもつべきである。

 学習するためには知識が必要である。構成主義における課題の中でもっとも問題なのが、いかに学習者にとって適切な知識のレベルを見出すかということであろう。
人は自分の知識を越えながら学習するわけだが、それは自分の知識と技術によって把握できる範囲内においてのみであることを忘れてはならない。

 学習は時間を要する。したがって深く考えたり、ある事柄ついてもう一度考える時間や機会を提供することが重要である。ところが来館者は何時来て何時帰ろうと自由であり、さらに彼らの大部分は二度と来ないかも知れない観光客であるから、博物館の教育者にとってはこれがもっとも難しい問題といえよう。博物館の展示室は人々が長くとどまるようにはできていない。もう少し長く考えていたい人のためにはどうすればよいのか?たとえば、来館者が翌日になって、あるいは1週間後に展示のある事柄について興味をおぼえたときのために持ち帰れるような補助資料をどれだけ提供しているか?

 以上、大変な駆け足で博物館における構成主義についてG. ハイン氏の説を基に述べてみた。伝統的な博物館のありかたとの違いがおわかりいただけただろうか。今回はこれで筆を置くが、構成主義については今後しばらく注目していきたいと思っている。

[河野哲郎]



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