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欧米の美術館でのマイノリティへの対応[3]
ワシントンDC「女性芸術美術館(NMWA)」の活動

大月ヒロ子

 地域に開かれた美術館とは、子どもに限らず、マイノリティ(社会的弱者)も気楽に活用できる館ではないかという考えが広まってきたのは、比較的近年のことです。当研究会では以前、研究会誌で視覚障害者に対する教育活動を特集しましたが、前回より5回にわたって、聴覚障害者、精神障害者、エスニック・マイノリティ等、様々なマイノリティに対する欧米の美術館の取り組みを紹介したいと思います。
第3回目の今回は、残念ながらいまだにマイノリティの側面を持つ「女性」に提供される教育プログラムを取り上げます。ご紹介するのは、アメリカのワシントンDCにある女性芸術美術館(NMWA)の活動です。

 NMWAは、国籍や時代を超え、女性芸術家によって生み出された作品を主軸に据え、展示活動・教育プログラム実施・ライブラリー運営・出版活動・ネットワーク作り・研究など幅広い活動を行っています。館がスタートしたのは1981年。最初はヴィルヘルミナ・コール女史による非営利の個人博物館でしたが、活動の広がりとともに場所を移し、最終的には1983年にホワイトハウス近くに館を構えることとなります。名称The National Museum of Women in the Artsからも分かるように、今では国家規模の活動をするミュージアムへと成長しました。

 このミュージアムが扱うのは、女性によって創造された美術を中心に、工芸、ダンス、文学、映像、演劇、音楽などなど。今夏は、ジェンダー問題を扱う「フェミニズムと芸術」と題された展覧会が開催されました。
 NMWAを教育的な側面から眺めて見ると、大きく分けて以下のようなプログラムが浮かび上がってきます。

 1)女性の芸術家自体をサポートする活動
 2)女性の芸術家が生み出す作品を通して、人々が様々な気づきを得る活動
 3)女性の芸術家その人に出会うことで、得られるものに重点を置いた活動
 4)グループ活動をしている女性たちに向けてのアートプログラム
 5)女性の芸術家に関するデータベースの構築とネットワーク作り

 このなかで特に注目したいのは3)です。
 これは、ティーンエイジャーの少女に現役のアーティストを紹介するというユニークな活動です。現役のアーティストに会い、目の前にいるアーティストから話しを直接聞くのは、刺激的な体験。この試みが少女たちにとってどれほど有意義であるか、想像するに難くありません。アーティストとしての活動を行ううえで踏んでいくべきステップに関するアドバイス、外からではなかなか分からない芸術分野における専門的な情報の提供も行われます。またさらに、若い女性が自分の創造性を自覚し表現できるようなフォーラムも実施されます。人から人へ、最もシンプルかつダイレクトな教育活動の典型といえるでしょう。現役のアーティストにとっても、作品そのもので自分の考えを世の中に発信していくこと以外に、自分は、自分の経験を次の世代にこういった方法で伝えることも出来るという新たな発見をもたらすのではないでしょうか。

 また、女性アーティストが地域の学校に直接出向き、こどもたちの作品作りをサポートし、ディスカッション等を行うワークショップもあります。これは美術館と公立の学校との共同作業によって実現したプロジェクトです。アーティストと一緒に身の回りを写真やビデオで記録したり、アートブックを作ったりという、一見地道ですが、この長期にわたる活動は、複雑な事情を抱え分断されがちなコミュニティー同士に橋をかける事を目的に行われています。

 つぎに、他の美術館などではほとんど見受けられないものとしては4)があげられるでしょう。これはガールスカウトにターゲットを絞った教育プログラムです。ガールスカウト運動発祥の地はイギリスですが、アメリカでも大きく花開きました。ガールスカウトは、すべての少女と若い女性に開かれた世界最大の社会教育運動体です。女性が自分自身と他の人々の幸福と平和のために責任ある市民として考え、行動できる人となるための様々な活動を行っています。少女たち自身が活動したいことを見つけ、自主的に計画・実行するという方針は、この美術館が行おうとしている教育活動とも大きくオーバーラップするものです。
 この美術館は1994年に、アメリカのガールスカウト組織とパートナーシップを結び、積極的な受け入れ、情報提供を行っています。美術館が作成した、女性アーティストの作品に関して学ぶためのリソースパッケージは学校だけでなく、ガールスカウトの女性リーダーへもターゲットを絞って販売されています。また、ガールスカウトが美術館を訪れた際に使用する、ミュージアムガイドの簡易版も作られ有償で頒布されており、このように理念が重なる大きな組織との提携は、ミュージアムの顧客確保にもつながり、経営上から見ても新しい試みといえそうです。

 女性のアーティストに焦点を当てること、女性の団体と提携すること。これらはやはりいまだマイノリティとして、社会的に不利な立場に立たざるをえない女性の、男性優先社会に対してのささやかな抵抗と言えるでしょう。一番有効なのは、今後そういう社会を生み出さないよう、次世代を担う子供たちへの平等な教育だということが、館の活動からうかがえます。すばらしい笑顔で生き生きと表現活動を行い、地域の人々とも積極的に交流する女性アーティスト。今後、彼らと接する中で、自分が抱える課題をひとつずつ解決していこうと奮起する女性や少女が増える様子を見守りたいと思います。

欧米の美術館でのマイノリティへの対応[1]
欧米の美術館でのマイノリティへの対応[2]

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