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バーチャルとリアルな展示の地位が逆転する?
歌田明弘
 
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連載/歌田明弘

 巨大なアーカイヴのサイトは充実の一途をたどっている。サイトのデザインも、シンプルでありながら効果的で、サイト・デザインの現在の到達点を見ることができる。
 アメリカの歴史を表すドキュメントや映像、音をデジタル化してアクセスできるようにしたアメリカの議会図書館のサイト「アメリカン・メモリ」は有名だが、議会図書館での実際の展示にあわせて作られているウェブ・ページもなかなかの見栄えである。最近では、浮世絵や人類学者のマーガレット・ミードの展示が行われ、サイトでもグラフィックがたっぷり入って、デザイン的にも凝ったページが作られている。
 このふたつの展示についてはウェブを通して見ただが、かつてのナチズムのポスター展などを見たときには、メディアでは取り上げられたものの、広大な議会図書館の中であまりひと気がなく、もったいないような印象を受けた。それに比べてバーチャル化されたミュージアムは期間が無期限だし、自宅でじっくり見ることができ、あわただしく歩き回って見たとき以上のインパクトがある。
 フランスの国立図書館「ビブリオテク・ナショナル」も、サイトで、「アラブの書物展」をやっていて、こちらの出来映えもすばらしい。
 パピルスで作られた現在知られる最古の冊子体の本だとか、中世イスラムの天文学の本とかが次々と現れる。これらも、通常のミュージアムのように立ったままで見るよりも、一点一点丁寧に見ることができるバーチャル・ミュージアムの方がむしろふさわしいだろう。費用的なことを考えても、たとえば動画などを館内で見せるためには高価なモニターが必要だったりするが、サイトで見せるにはそれも不要で、安上がりでさえある。
 また、「インターネット・アーカイブ」のサイトは、インタヴューなどインターネットの歴史をたどる貴重な資料を集めたり、世界中のウェブサイトをそのまま保存したりしてきたが、ムービーのコーナーも作られた。このコーナーには、宣伝・教育・プロパガンダなどのために作られた1927年から1987年までのフィルムが45000本集められている。映画やニュース、テレビ番組の映像とはちがい、これらの映像はほうっておけば破棄されただろうもので、そのエフェメラルな性格はウェブサイトと共通のものだと、サイトには書かれている。これらの映像を集めたコレクターの協力を受け、「インターネット・アーカイブ」がデジタル化して公開したものだ。
 少し見ただけでも、原子力を宣伝する企業のフィルムとか、ワールド・フェアのドキュメントなど、多様な映像が含まれていることが見てとれる。ブロードバンドの普及にともなって、映像資料のアーカイヴも、ますます充実していくにちがいない。
 これらのサイトを見て回っていると、リアルな展示をしているミュージアムとバーチャルなミュージアムの位置づけが変化していくことが予感される。これまで、バーチャルなミュージアムは、リアルな空間展示の補完的な存在だったが、より広範囲の人に永続的に見てもらえるという影響力の点から言っても、バーチャルな展示のほうがメインになる時代が遠からず来るのではなかろうか。リアルな展示は、バーチャルなアーカイヴをある断面で切ったものになっていくかもしれない。
 ミュージアムの運営においても、早晩、「ついでにウェブサイトも作る」という考えは根本的に変える必要に迫られるだろう。


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