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美のデジタルアーカイブ〈1〉
美のデジタルアーカイブを先導する
「国立西洋美術館 デジタルギャラリー」

影山幸一
 
美術館IT情報
連載/歌田明弘
連載/影山幸一

はじめに

 美を集積する美術館や歴史的文化財を保存する博物館・社寺は、IT時代の現在、どのようなデジタル技術を生かしてあるいは生かさずに、それらの所蔵する作品を記録・保存、活用しているのであろうか。産業革命以来、初めて遭遇している革命ともいえる、同時代一斉デジタル化の中で、芸術作品の再定義をするべく、アナログからデジタルへの状況に適応した変換手法とその活用を知ることによって、新たな作品解釈やデジタルの特質が除々に明らかにされてゆき、デジタル技術を通してアートの新境地を開く可能性を感じている。
 その関心への具体的な行為が明らかにするものは、美術作品をデジタル化することに適切な一手法が存在するのかどうか。美術作品をモノとして捕らえ、利便性の高い記録情報に変換するためにデジタル化されていくだけなのか。それとも、オリジナルと見分けのつかないほど再現性に優れた複製技術を目指して、それでも尚オリジナルの優位性を語ることになるのか。という問いに回答していくことにもつながる。
一方、デジタル表現である現代美術作品では、デジタル技術が新しい画材として定着してきている。デジタルでの美の創造は、表現することが同時に保存ともなり、発光体から生まれた美意識を生み、我々の眼を進化させている。
 デジタルアーカイブされた古典名画とデジタル技術を利用して制作された現代美術作品とが、手軽にモニタ上で比較・研究できることは、時空を越えた美の鑑賞法であり、新しい習慣となるであろう。加えて現代美術作家の色、線、空気感へのこだわりや視座と、古典名画の名画たるゆえんをデジタルで抽出し、二者を考察することが、より高度なアート・デジタルアーカイブを創出し、かつ高品位のデジタル・イメージ作品を制作することにもなりそうだ。ひいてはアートの本質を発見する機会ともなって、美術史をも書き換えることになるのかもしれない。このようにデジタルアーカイブは、作品保存を補助するだけに留まらず、美の新たな探求を可能とした概念と技術として、また活用時の表現としてもますます領域を広げていくことになりそうである。
 デジタルアーカイブとは、美術品、文化財などを画像・映像データとしてデジタル化・データベース化し、永続性を兼ね備えたものにすることである。美術作品を保存する各美術館・博物館など、デジタルアーカイブ草創期にあたるであろう現場の様子を、シリーズ「美のデジタルアーカイブ」として美について考えながら“デジタルアーカイブ”の状況をお伝えしていきたい。

「国立西洋美術館」のデジタルアーカイブ

 美のデジタルアーカイブの先鞭をつけ、専門研究員を置く美術館“国立西洋美術館”は、2001年(平成13年)4月より独立行政法人となり、新たな一歩を踏み出している。1959年(昭和34年)3月に開館した歴史的建造物である美術館の建築は、戦後日仏間の国交回復・関係改善の象徴として、ル・コルビュジエが設計した。設立当時からの松方コレクション西洋絵画196点を中心に、2001年3月31日現在の所蔵作品数は、4,179点(うち版画3,440点, 委託含む)である。
 コンピュータの導入は、1989年(平成元年)に図書整理の目的で導入したのが始まりという。その後、1992年(平成4年)には一般来館者用に「アートハイビジョン:主要絵画検索システム」を公開運用(1作品あたり60MB)。1995年(平成7年)、全館的データベース化とLANによる美術館情報システムを構築(IBM Net Media)。1996年(平成8年)、ホームページ開設(プロフォトCD)。1998年(平成10年)、「デジタルギャラリー:超高精細画像検索システム」構築(1作品あたり12MB, Oracle)。1999年(平成11年)、デジタルギャラリー公開運用(超高精細ディスプレイ[取扱い]:日本無線、画素有効エリア: 2,048×2,048pixels、1,670万色表示、60Hzノンインターレース、 縦横比1:1, 28インチ)。と常にデジタル技術を時代の先端で採用し、またアート・ドキュメンテーション研究を牽引してきた美術館である。

国立西洋美術館 デジタルギャラリー
 国立西洋美術館のデジタルギャラリーは、美術作品をデジタルアーカイブした画像データを超高精細画像検索・表示するものとして、一般来館者用の検索・閲覧と学芸員研究用の機能を兼ねた先端システムであり、1999年5月9日に開始された。高速LAN(ギガビット・イーサネットによるローカル・エリア・ネットワーク)上で恒常的に公開するのは、世界の美術館の中でも先駆的という。また、そのコンテンツはアートハイビジョンで使用した154点(2000年3月現在)の元データ(1作品あたり60MB)より各作品5画像(BMP形式:解説付き画像,部分拡大画像3種類,全体画像)ずつを作成している。画像がモニタ全面に表示される場合は、約12MBのデータ量となる。初期のコンテンツ元データは、4×5カラーポジフィルムを外部の印刷製版用スキャナー(ダイナミックレンジ:4.0以上)で作成し、TIFF形式のMO保存を行っていた。同時期に現在は使用頻度が激減しているScitex CT2T形式でMT保存されていた元データもある。そして、その後の追加コンテンツデータは、4×5カラーポジフィルムを外部のRGB専用ドラムスキャナーに掛けて、Photoshopを使用してデータ縮小・補完し、TIFF形式でMO保存を行っている。国立西洋美術館での作品画像のデジタル保管媒体は、主にMO(スタンドアロンシステム)とプロフォトCD(全館的統合システム)の2通りに分けられている様子で、それら活用目的に適応した媒体が選択されている。
 一般公開用のデジタルギャラリーは、暗室に2台の端末機が据えられている。自由に利用できるが順番待ちもあり、落ち着いて鑑賞できないところが改善を要する点であろう。スペースを拡張し、端末機を5台ほどにしてはいかがだろうか。204点(絵画:155点、素描:24点、版画:10点、彫刻:15点、2001年11月現在)のデジタルギャラリー収容作品というのも数が少なく、デジタルの特性を生かして他館所蔵の作品を取り入れることも念頭に入れてほしい。著作権処理という問題があるとは思うが。また超高精細モニタが小さく、可動式操作パネルの輝度がこのモニタより高いためか、モニタに表示される絵柄が操作パネルの発光により反射して見えにくい場合があった。しかし、美術館に暗闇という異空間は、何か想像を越えた美しさに出会えるような魅力がある。暗室に目が慣れてきて、ルノワールの「帽子の女」などを部分拡大表示で見ていると、筆致が鮮明に浮かび上がり、原画とは異なった細部の重ね塗りが鑑賞できた。
 ここで注目したい機器は、高性能表示の超高精細モニタである。航空管制塔でも使用するソニー製の特殊モニタで世界最高レベルのモニタといわれる。アートハイビジョンモニタ(ソニー, 水平線走査線数1,125本,縦横比9:6, 対角線36インチ)と超高精細モニタとの解像度の比較では約4倍、超高精細モニタの方が解像度に優れている。凸版印刷(株)などとの共同研究では、このモニタがエッチング等の細線の繊細な表現に有効であることや、作品画像の最適視認距離が176cmであることを限定条件下ではあるがランドルト環(視力測定の一箇所が切れたドーナツ型の黒い輪)を使用した試験により提示している。だが、実際のデジタルギャラリーでの椅子とモニタとの設定距離は、約130cm。これは多種の作品表示や空間の物理的な制約の中で経験的に得られた結果であるという。超高精細モニタを活用し、最高画質を求め、よりよく見せることに対するこのような研究や試験が、一般公開のほかに研究員を中心に行われている。
 国立西洋美術館のデジタルアーカイブがすべての美術館に適用するわけではないが、指標となるのは確かである。今後も美術作品の画像とテキストを含めた入力から再現まで、高品質な一貫したデジタルの記録・保存・展示に向けた先導的役割を担い続けていかれることを期待している。
 2002年3月15日、国立西洋美術館地下1階に研究資料センターが開設した。約22,000冊の図書、約1,400タイトルの逐次刊行物、マイクロ資料8種、CD-ROM10余タイトルが、12の座席と4台のOPAC端末機などと共に、ミュージアム関係者・研究者を対象として整備されている。大きな窓ガラスから入る外光が地下にいることを感じさせない。事前予約制で日時に制約はあるものの、開館以来40年以上かけて収集されてきた、内外の貴重な美術関連資料が国立の美術館によって公開された意義は大きい。デジタルアーカイブと充実した現物資料が共存・公開されていく。そのことを、最後に付け加えておきたい。
デジタルギャラリー基本データ
基本構成 クライアント・サーバー型
サーバー 1台
クライアント 3台(うち2台一般来館者用)
表示系 超高精細ディスプレイ:日本無線NWU-91A(画素有効エリア:28インチ, 2,048×2,048pixels, 1,670万色表示, 60Hzノンインターレース方式)タッチセンサー付検索用液晶ディスプレイ:三菱電機エンジニアリングTSD-T15-M(サイズ:15型TFTカラー液晶パネル, 1,024×768, 1,670万色表示)超高精細画像ビューワ(自由拡大):PFU Gigaview(編集用のみに導入)
処理系 超高精細処理用(3台):日本無線 NWP-654(Windows NT Workstation 4.0;Pentium II プロセッサ/400MHz)主記憶:1,024MB, HDD:13.1GB 2K表示ボード(JRC CKA-106)PCIバススロット装着 表示時間:0.79秒/画面(=12MB BMP形式) 検索用(3台):COMPAQ AP-200(Windows NT Workstation 4.0;Pentium II プロセッサ/350MHz) 主記憶:64MB, HDD:6.4GB
蓄積系 (1台):日本無線 NWP-6000(Windows NT Server 4.0+Oracle8;Pentium II Xeonプロセッサ/400MHz) 主記憶:1,024MB, HDD:163.8GB(RAID/5)
伝送系 画像転送:ギガビット・イーサネット
命令系 10/100 Base-TX
コンテンツ 国立西洋美術館所蔵主要絵画作品:154点 情報量:超高精細画像=各作品5画像(BMP形式:解説付画像, 部分拡大画像3種類, 全体画像各12MB) 検索用画像画像=各作品2画像(インデックス画像:256×256pixels, 拡大部分指示用:640×640pixels)
元データの作成1):スキャンニング:印刷製版用スキャナー(ダイナミックレンジ:4.0以上)
データ保存1):Scitex CT2T形式(60MB/作品;MT保存)〜TIFF形式(MO保存)
元データの作成2):スキャンニング:RGB専用ドラムスキャナー
データ保存2):TIFF形式(MO保存) 使用データ:上記TIFF形式のデータをPhotoshopを使用してデータ縮小(補完)全体画像:12MB/作品(BMP形式)
 
(2000年3月現在 『国立西洋美術館年報』No.33より)

■参考文献
波多野宏之「国立西洋美術館情報システム」『国立西洋美術館年報』No.31, 1997.11, p.21-23. 国立西洋美術館
波多野宏之「デジタルギャラリー:超高精細画像検索システム(情報資料に関わる活動報告)」『国立西洋美術館年報』No.33, 2000.3, p.34-39. 国立西洋美術館
波多野宏之,山田奨治,吉田成,加茂竜一「超高精細モニタによる作品画像の最適視認距離についての研究」『国立西洋美術館研究紀要』No.5, 2001.3, p.57-70. 国立西洋美術館
波多野宏之「国立西洋美術館」『デジタルアーカイブ白書2001』2001.3, p.152-153. デジタルアーカイブ推進協議会
『独立行政法人国立西洋美術館 国立西洋美術館要覧2001』2001.5. 国立西洋美術館
波多野宏之編著『デジタル技術とミュージアム―情報・機器展示、セミナーによる公開プログラム―』2001.11, p.12. 国立西洋美術館

[かげやま こういち]



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