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カタログのPDA電子書籍化の長所と短所
歌田明弘
 
美術館IT情報
連載/歌田明弘
連載/影山幸一

 前回は、ミュージアムのカタログを電子書籍化するにあたっての現状と問題点を書いたが、このところの「トレンド」は、小型の携帯端末PDAで表示する電子書籍だ。
 要因はいくつかあるが、まず電子機器をめぐる環境の変化だ。携帯電話もパソコンも売れ行きが頭打ちになったこともあり、電機メーカーは、PDAに熱い視線を向けている。これまでのようにPDAを電子手帳として使うだけでなく、テキスト、静止画、音声はもちろん、テレビなどの動画コンテンツまでダウンロードして表示する、高性能で多機能なネット機器として普及させようとしている。そうしたとき、電子書籍はさしあたり手ごろなコンテンツに見える。
 また、ブロードバンドのネット接続が急速に普及する一方で、ノートパソコンやPDAで使うカード型データ通信デバイスも定額性のものが出てくるなど、無線データ通信でもそこそこのスピードでリーズナブルに接続できるようになってきた。
 さらに出版界全体の売り上げが5年連続でさがり、今後5年でまた10パーセント以上さがるという予測もある。その一方で、パソコンやネット機器を使う人は増える一方だから、出版社のほうも、新しいマーケットに期待する空気が出ている。
 というわけで、PDAを対象にした電子書籍ネット書店ができ、次々と発売されるPDAに、電子書籍を読むためのビュアー・ソフトがプレインストールされるようになってきた。
 さて、ミュージアムのカタログだが、こうした本では図版がとりわけ重要だから、PDAではディスプレイが小さすぎるのが気になるかもしれない。とくに、紙のカタログのレイアウトそのままで電子書籍化するのであれば、パソコンのディスプレイぐらいの大きさがなければ無理だろう。
 しかし、これまでのカタログとは発想を変えて、PDAならではのカタログ電子書籍を作ってみるというのもおもしろいのではないか。
 カタログの冒頭におかれていることの多い館長のあいさつとか解題など、文章が主の部分はPDAでもさして問題はあるまい。
 問題は、本編の作品解説だが、ここは、説明なしで、まず図版をPDA画面全面に表示し、クリックして現れる次のページに説明を載せるというふうにしたらどうだろう。表に作品があって、裏返すと解説があるといった感じだ。絵葉書を束ねたようなカタログ、といったイメージになる。
 こうすると、まず作品が出てきてそのインパクトを味わい、それからそれが何なのか、説明が来るといった具合になる。1点1点をじっくり鑑賞していく感じになるのではなかろうか。
 同じページに図版と説明があるというのはわかりやすくはあるが、たちまちわかったような気になってしまうという難点がある。作品を作品だけで活かすためには、ページをあらためて解説を表示するページ割りはかえって都合がいいようにも思う。
 残念ながら、電子書籍を読むという習慣はまだ一般化していないから、そう多くの販売部数は見こめない。紙のカタログとはまた別に多くの手間ひまをかけて作るわけにはいかない。このページ割りはたしかにとくに芸があるとはいえないが、レイアウトをあらためて考える必要もない。しかし、見やすくはある。シンプルでありながらこれまでのカタログとはちがったコンセプトのものにもなるのではなかろうか。
 こうしたページ割りは、もちろんPDAだけでなく、パソコンでも有効だ。ただし、デスクトップのパソコンなどで距離をもって作品を眺めるのと、PDAのように手に持つのは同じこととは言えまい。作品に対する親近感が強くなるのはPDAのほうだろう。
 このように考えると、一概に画面の大小で、どちらがいいとは言えないところがある。
 PDAではなく、パソコンの電子カタログにももちろん利点はある。電子書籍では、拡大の機能があるものも多い。拡大すれば細部をじっくり見ることができる。実際の展示や紙のカタログではできないことが可能になるわけだが、そのためにはやはり、大きな画面のパソコン電子書籍のほうがいいかもしれない。
 PDAとパソコン、いずれも一長一短がある。結局は、何をとり、何を捨てるかということだろう。 


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