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バーチャル・リアリティ色模様
歌田明弘
 
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連載/歌田明弘
連載/影山幸一

 7月に行われた産業用バーチャル・リアリティ展を覗いてみた。産業用VRなので、エンタテイメント的なものは少なかったが、おもだった技術は一通り並んでいるようだった。

 ウェアラブル・メガネもいくつかあった。メガネ型のディスプレイに、コンピュータ画面や画像が目の前数十センチのところにあるかのように表示される。しかし、ヘッド・マウント・ディスプレイではなく、フェイス・マウント・ディスプレイを唱っていたオリンパスの「Eye-Trek」は今年6月に生産を止めてしまった。また、現実空間とデジタル空間を重ねて見えるシースルー型のディスプレイ・メガネを出し、博物館や美術館での利用の宣伝もしていたソニーの「グラストロン」ももうニューモデルを出していない。両目を覆う形のものは日本バイナリーなどがいまでも出しているが、両眼用ウェアラブル・メガネの旗色はわるくなっているようだ。このようなメガネ・ディスプレイが必要な用途はまだかぎられているし、激しい動きの動画像を表示すると気持ちが悪くなるなどの問題もあるからだろう。

 エンタテイメントや一般向けの用途より、飛行機の整備など両手をあけて作業をする必要のある人々向けの片目のディスプレイ・メガネのほうが、堅実な需要があるようだ。現実空間とバーチャル空間の融合というのは、これからますます興味深くなる技術だし、ミュージアムなどで実験的な使われ方をするとおもしろいと思うが、ウェアラブル・メガネはまだ少し早いのかもしれない。

 現実空間とバーチャル空間の融合ということで、おもしろかったのは「ステージビュー」という装置だ。開発元はドイツのようだが、日本ではスピンという会社が販売している。

 舞台の上を女性が歩いてきて花を投げる。バーチャルな花のようにはまったく見えないが、ふっと消える。バーチャルなのはじつは花だけではなかった。その女性もまたデジタル画像らしい。しかし、ボールを投げたり動きまわっている様子は、バーチャル画像には見えない。舞台の上には二人の女性がいて、どうやら一人はなま身の女性のようなのだが、見ているほうには、どちらがバーチャルでどちらがリアルな人間か区別がつかない。
▼ステージビュー


 この装置は、VR用メガネも必要ない。メガネをかけて立体視できる装置はいろいろあるが、まったくの肉眼でこれだけリアルに見えるのはなかなかのものだ。この装置は誕生したばかりというわけではなくて、海外では、1995年のオーストリアを手はじめに、ミュージアムやアミューズメント・パーク、ビジネスショーのプレゼンなどに使われてきたそうだ。一昨年のハノーバー万博でも登場したという。

 この装置の価格は、システムだけなら1500万円だが、プロジェクターが3000万円と高く、しめて4500万円というところだそうだ。資金的な余裕があるミュージアムでは使ってみてもおもしろいだろう。

 ただ、何をどうやって見せるかというのはそうとうに頭をひねる必要がありそうだ。いうまでもなく、デジタル画像だから、現実にないものも出現させることができるが、リアリティがなくなってしまっては仕方がない。

 私が見たのは、この「ステージビュー」だけだが、Virtual Image System Solution(VISS:空間立体映像総合システム)と名づけられた一連の装置のなかにはもっとコンパクトなものもあって、箱のなかに立体画像が浮かび上がったり、飛び出して見える装置などもあるらしい。いずれもメガネなしで使えるようだ。

 大仕掛けのVRシステムとしては、このほか、天地と横面に立体画像を表示できる全天周型VRが、以前のようにワークステーションではなくパソコンでも動くようになってコストダウンが行われていたり、VR画像にあわせて座席ごと動く装置などが並んでいた。

 また、こうしたエキシビジョンではすっかりお馴染みになった、身体の動きをそのままキャプチャーしてコンピュータにとりこむモーション・キャプチャーの装置もいろいろ並んでいた。さらに、PHANToMと呼ばれる、触感を再現する装置は、いよいよリアルになってきたように感じられた。ペンの先で物体を突っついた感覚を再現するが、穴があいているところではぼこっとペンを突っこんだかのようで、ゴムや金属などの「さわり心地」のちがいもはっきりと感じとれる。

 アミューズメントで使われるVRと比べて、ミュージアムで使われるVRはおうおうにして見劣りがしたり、またエンタテイメントふうに使うとアミューズメント・パークと変わらなくなってしまったりしがちだが、こうした装置は、使うモチベーションさえはっきりしていれば、「装置負け」することはないのではなかろうか。


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