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電子ペーパーの時代は来るか
歌田明弘
 
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連載/歌田明弘
連載/影山幸一
 
コンピューターのディスプレイは読みにくい。いったいいつになったら、紙と同じぐらいに読みやすいディスプレイが出るのだろうか、と思う。
 しかし、コンピューターのディスプレイは、そもそも読書装置として生まれてきたものではなかった。ディスプレイは、マン・マシン・インターフェイスのひとつ、つまりコンピューターと人間の接点に位置し、コンピューターの操作をするための表示装置にすぎない。それがインターネットの登場で、コンピューターで読む必要がどんどん大きくなり不満が高まってきた。
 液晶ディスプレイもずいぶん読みやすくはなったし、ノートパソコンは軽くもなったが、それでも本のようにかかえて読むことはなかなかできない。そうしたなか、読みやすい装置の決定打になるのではと期待されているのが、電子ペーパーだ。
 凸版印刷が米イーインク社と提携し、世界に先駆けて、来年の夏に電子ペーパーを使った端末を出すことを発表した。イーインク社の電子ペーパーはマサチューセッツ工科大学メディアラボの研究がもとになって、研究のパトロン企業は多かったが、本格的な開発投資を行なったところはそうはなかったようで、凸版印刷の投資をうけて量産化をはじめている。具体的なタイムスケジュールがはっきりしてきて、電子ペーパーにいよいよ注目が集まるようになってきた。
 というわけで、話題になることが多いのはイーインク社・凸版印刷の電子ペーパーだが、開発を進めているところは数多い。
 8月の末に、画像学会というところが2日間にわたる電子ペーパーのセミナーを行なった。イントロダクションの講演を頼まれて筆者も行ってきたが、セミナーにあわせて各社で開発中の電子ペーパーのデモが行なわれた。そこでも、凸版印刷以外にも、ソニー、富士ゼロックス、大日本インキ、NTTデータ、リコーなどが電子ペーパーの試作品のデモをしていた。また、本サイトを運営している大日本印刷も電子ペーパーを作っているようだ。
 電子ペーパーは「紙のようなディスプレイ」をめざしているとはいえ、現状ではなかなかそこまではいっていない。モノクロ液晶画面とおなじくバックが青緑色をしているものもあるし、厚さや手触りはセルロイドの下敷きといった感じである。つまり、「紙」ではないわけだ。それでも、ここ数年で進歩したことはまちがいない。数年前に、メディアラボの研究者が見せてくれた電子ペーパーは、文字の大きさが5センチ角ほどの低解像度で、白地に青色の文字でコントラストにも難があった。現在は、少なくともぱっと見たぶんには、液晶ディスプレイと変わらぬコントラストで、小さい文字も表示できるようになっている。
 もちろん「液晶ディスプレイと同じ」ではメリットがないわけで、大半の電子ペーパーの特徴としては、薄く軽いといったことのほかに、視野角が広く(斜めからでも見える)、電流を流すのをやめても表示し続け、バックライトがいらず電力もくわないなどといった長所がある。クリアしなければならない問題としては、表示を変えるのに時間がかかるとか、電源を切ったあと、より長時間表示を変えないようにすることなどだ。
 「紙のようなディスプレイ」には利用価値が多そうに思える。たしかに液晶ディスプレイに遜色なく、軽くて薄いということならば、携帯電話とかPDAのディスプレイとしては重宝されるだろう。しかし、もし、電子ペーパーが紙の代わりにもなる技術だとしたら、それ以上のものであるはずだ。2000年近い歴史のある紙のありようが変わるということがもし起きれば、それはまさに文化のありようが変わることにほかならない。
 とはいえ、そうしたことがほんとうに起こるのか。そのための用途はいったいどのようなものか。それが現状ではどうも見えてこない。画像学会のセミナーも、そうしたことをめぐってさかんに議論されていた。デジタル機器に対応した「読みやすい装置」は必要だし、また環境問題を考えれば「何度でも使える紙」というのは貴重な存在になるにちがいないが、それをいかにして生み出すか。これからまだしばらくそうした「生みの苦しみ」の時代が続くだろう。
 このような「未来の紙」のミュージアムでの用途を次回は考えてみたい。


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