美術館IT情報:歌田明弘…2002.10.15.
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「もの」としての存在感を失わず、デジタルの特質を活かす
歌田明弘
 
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連載/歌田明弘
連載/影山幸一

 ミュージアムに来てくれた人も、帰宅してしまえばそれっきり。何か覚えていてくれるような仕掛けはできないか。ミュージアムで仕事しているひとは、そんなふうに思ったことがあるのではないだろうか。
 また、ミュージアムを訪れたひとたちも、気に入った絵や情報を持ち帰って家でも見たいと思ったことがあるだろう。
 いうまでもなく、ウェブ・サイトを使うというのは解決策のひとつだ。作品や情報をサイトにアップし、家からもアクセスできるようにする。ただし、家に帰るまで画像がほしい作品や情報を覚えていて、コンピュータの前にすわってそれを見つけだすことまでするひとは実際のところ多くはないだろう。
 しかし、ミュージアムで「これ、いいな」と思った直後にそれが手に入るとなれば、利用する人は多いはずだ。
 富士ゼロックスが開発した「光書き込み型電子ペーパー」と呼ばれる電子ペーパーは、そんな利用方法を想定しているようだ。コピー機のような大きな端末を使って、コンピュータのプリントアウトの形で電子ペーパーに情報を転写する。電子ペーパーは紙よりも高価なので、ユーザーが購入しなければならないだろうが、書き換え可能なので一枚あれば何度でも使える。
 いつどこででも情報を呼び出せる装置と言えば、いまの携帯電話もそうである。iモードを始めとする携帯電話は、インターネットにアクセスしてウェブ情報を引き出せる。しかし、なんといっても画面が小さい。そういうわけで、PDAと呼ばれる少し大きめのサイズの携帯端末が表示媒体として注目されているという話を以前このコラムでも書いたが、タバコケースを一回り大きくしたぐらいでは、絵画や地図を表示するには、まだ小さい。
 今回とりあげたような形の電子ペーパーなら、サイズは自由である。厚さ0.3ミリで、薄く軽くフレキシブルで、複数枚持つこともできて壊れにくい。
 富士ゼロックスの電子ペーパーは、用途としてほかに、案内図や商店でのショッピング情報の表示、工場での生産管理表示、病院内の医療情報の伝達、学校での教材表示、行政サービス情報表示などを想定しているという。つまり、すぐにまぎれて所在がわからなくなってしまいがちな紙よりももう少しあらたまった形で渡したいが、パーソナライズしなければならず大量印刷には向かないものが適している、ということなのだろう。
 電子ペーパーというと、ディスプレイの代わりとして書類や本を表示するといった用途がまず思い浮かぶ。しかし、このような「書き換え可能な紙(リライタブル・ペーパー)」としての用途のほうがマーケットは大きいのかもしれない。オフィスでは、コピー機やファクス、コンピュータなどのOA機器の普及により、紙の使用量が膨れあがっている。しかしながら、繰り返し読むのではなく、一度だけ、そのときだけの用途も多い。
 製紙会社は、再生紙を使ったり植林をしたりと環境保全に熱心だが、急速な経済発展が始まった中国を筆頭に、OA機器がまだ十分に普及していない国々では紙の使用量が爆発的に増える余地が大きい。「一度しか使わずに捨ててしまうことに紙を使うのは贅沢」と考えなければならない時代は遠からず来ようとしている。
 とはいえ、「読みやすさ」の点で、ディスプレイはまだ紙におよばない。また、紙で読むのは「もの」としての実感をともなっており、ディスプレイで読むのとは比較にならないインパクトがある。電子ペーパーは「もの」としての存在感を失わず、何度でも容易に書き換えできるデジタルの特質を活かすことができる。
 富士ゼロックスの電子ペーパーも、またほかのリライタブル・ペーパーも、本格的な製品化はまだ始まっていない。しかし、紙の使用を地球規模で無限に増やし続けるわけにはいかない以上、代替技術が求められ利用される必要があることは明らかだろう。

[うただ あきひろ]



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