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美のデジタルアーカイブ〈9〉
コンテンツのビジネスモデルとして注目される 「元離宮二条城」
影山幸一
 
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連載/影山幸一

 1994年(平成6年)、ユネスコの世界遺産リストに登録された京都・二条通りにある元離宮二条城は2003年、築城400年を迎える。1603年(慶長8年)徳川初代将軍家康が造営し、当初は京都御所の守護などの宿泊所であったが、3代将軍家光の大改装により現在の規模となって1626年(寛永3年)に完成した。1867年(慶応3年)15代将軍慶喜の大政奉還によって、二条城は朝廷に移管され、1884年(明治17年)離宮となった。そして、1939年(昭和14年)京都市に下賜され、所有権が皇室から京都市に移り現在に至っている。築城当時の姿を残す武家書院造りの二の丸御殿(国宝)は、車寄、遠侍(とおさむらい)、式台、大広間、蘇鉄の間、黒書院、白書院の各棟からなり、部屋数33、畳約800畳、うぐいす張りの廊下(床板を踏むと、目かすがいと釘が擦れ合い音がする)を通って一周すると約450mの広さがある。各部屋の障壁画は、部屋の目的に応じて江戸幕府の御用絵師・狩野探幽の一門が描いたもので、重要文化財に指定されている。建築・絵画・彫刻など桃山時代の様式が総合的に保存されており、年間入場者数は約120万人にのぼる。
▲二条城二の丸御殿

 貴重な歴史・文化資産の宝庫である京都は、創造的に再生を繰り返しながら世界に誇る伝統文化を受け継いで進化している。二条城二の丸御殿の障壁画のデジタル化は、総務省(旧自治省)の取組みによるデジタルミュージアム構想が機となり、京都市の主導で進められた。「障壁画は京都市所有のものであり、著作権に関係なく使用できることや作品の歴史性・芸術性が高い点から、デジタル化の対象として選出された」と京都デジタルアーカイブ研究センター(京都市、京都商工会議所、大学等の連携により組織、略称:KDARC)のサブマネージャー治田嘉明氏は言う。

 3,411面ある障壁画は、研究及び保存のため模写が続けられてもいるが、30年で半分程しか進まないようだ。1999年(平成11年)から開始したデジタル化は、京都の日本写真印刷(株)により、傷みが進んでいる障壁画327面をフィルムとデジタルカメラによる2つの方法で新規撮影を行い、デジタル化をスタートさせた。フィルムでは、8×10大判フィルム(カラー)を高精細ドラムスキャナーによって1,200dpiの解像度に、同じくデジタルカメラ(フェーズワンFX、1億3千万画素)では、最高解像度の撮影により、解像度をフィルムと同等の1,200dpi相当とした。デジタルカメラでの撮影が基本であるが、長時間露光等の要因で、直接デジタルカメラでの撮影に作品が耐えられないと判断した若干のものをフィルム撮影で補っており、フィルムとデジタルカメラの重複はしていない。また、いずれもTIFF及びVFZ(Vector Format for Zooming)形式によりDVD-RAMに記録保存している。この解像度の設定理由を日本写真印刷(株)デジタルソリューション事業本部企画制作部長の大橋正清氏は次のように説明する。「カラーフィルムの画像分解能力、カメラの光学系解像度などの総合的な解像度を推定し、有意な入力解像度を1,000〜1,500dpiとした。一方、高解像度デジタルカメラの最高解像度撮影による一画像は、約380MB(RGB-TIFF換算)の画像データ量である。2つのデジタル化手法において、被写体に対する解像度がほぼ同等で最も高い解像度を算定した結果、1,200dpiとした」。また、保存媒体をDVD-RAMに決めた理由は「一画像のデータ量が約380MBと大きいこと、データ消失やエラーが少ないこと、一般的なPCで読み出しが可能であること、耐久年数が長いこと」を挙げており、飛躍的に優れた特性を有し、かつ一般的に普及する汎用的なメディアが出現しない限り、現行のDVD-RAM媒体のまま媒体は更新しないという。色の管理にあたっては、日本写真印刷(株)のカメラマンとプリンティングディレクター(印刷物作成などにおける色再現性の管理を行う専門職)がグレースケール、カラーチャートなどのデジタル画像の数値から適正な再現性を確認・管理を行った。327面のデジタル化は無事終了したが、問題点としては被写体となる障壁画は、一般公開の場所に設置されているため移動ができなかったことで、撮影は閉城後の作業となって、限られた時間内での撮影となった。

 このほか、二の丸御殿のデジタル化は、平成13年度に(株)日立製作所が、DIS(Digital Image System)を使った障壁画復元プロジェクトで、障壁画の一部分をデジタル化したほか、凸版印刷(株)がPCベースのバーチャルリアリティ の技術を開発し、金箔の質感表現などにその技術を活用して、二の丸御殿のコンテンツを制作するなど、いくつかの事例がある。「元離宮二条城」という優れた素材が、デジタルアーカイブによりコンテンツとして生かされ、可能性を広げている。

 二条城をデジタルアーカイブしたデータは、編集後CD-RとWeb配信用サーバーに記録され、運用される。主に、文化財管理者、研究者、美術家、出版社などが、障壁画の劣化・傷みの進行状態の比較、修復・研究の参考、模写の下図、あるいは出版物や複製品の制作に、そのデジタルデータを使用している。デジタルデータの商業利用の推進を積極的に行い、先鞭をつけているのが京都市である。全国3,224の自治体でも初めてのことで、収益は文化財の保全に充てられる。デジタルアーカイブのビジネスモデル(「二条城モデル」とも呼ばれている)を構築するものとして注目が集まっている。これまでに風呂敷、打掛けなどが商品化された。

 ビジネスモデルの一例を示す。インテリア業者Aが、ホテルに二条城障壁画の複製品を内装用として100万円で販売した。インテリア業者Aはその販売価格の40%の40万円を売上げとして受取り、障壁画のデジタル化を行った印刷会社Bに画像使用料の60万円を支払う。印刷会社Bは、販売価格の20%の20万円を売上げとして受取り、40万円を画像使用権許諾料として二条城に支払う。そして、二条城は、販売価格の20%である20万円を受取り、障壁画の所有権を有する京都市へ、販売価格20%の20万円を支払う。京都市はこの20万円を文化財の修復・保全に充てるという仕組みである。

 画像フォーマットVFZを開発した(株)セラーテムテクノロジー(本社大阪)から、昨年独立した京都の(株)アーテファクトリー越谷匠邦社長は、二条城の障壁画の複製を含め、デジタルアーカイブコンテンツの活用により、初年度の2003年7月期には5,000点以上の画像許諾権を集め、2〜3億円の売上高を目標にするという。複製画をいくつか見せてもらったが、表装や彩色に職人の手作業を加えており、紙質といい金彩色といい一見では本物と区別がつかない。その上複製画の利点で、好みの絵を飾る環境に合わせたサイズと額装で、オリジナル性の高い複製画を必要数だけ入手することができる。デジタルアーカイブは構築・蓄積する時代から活用・流通する時代へと、緩やかにだが次のステージに入ったようである。ADSLの加入者が400万人を超えるなど、市場の環境整備が進んだことも営業的には好条件が整ってきているのだろう。デジタルアーカイブが、ビジネスにも生かされることを京都市が示しているように、公に具体化されていけば、他の自治体や地域の発信するコンテンツにも活気が出てくるにちがいない。研究や教育利用だけでなく、産業や雇用の創出にも関与してくるデジタルアーカイブとは、多彩な可能性を秘める深遠な美しいものである。


■元離宮二条城障壁画デジタルアーカイブデータ
デジタル化年 1999年(平成11年)より開始
デジタル化手順 (1)フィルムによる撮影 a. 8×10インチ大判フィルムによる撮影 b.高精細ドラムスキャナーによるデジタル画像化 c.DVD-RAM記録
(2)デジタルカメラによる撮影 a. デジタルカメラによる撮影(ダイレクトデジタイジング) b. DVD-RAM記録
デジタル化機器 (1)フィルムからのデジタル画像作成 高精細ドラムスキャナー (2)高解像度デジタルカメラによるダイレクトデジタイジング フェーズワンFX
デジタル化の業者 日本写真印刷株式会社
保存形式 TIFF及びVFZ形式
解像度 原稿カラーフィルムに対して、1,200dpi相当
保存媒体 DVD-RAM
運用データ記録媒体 CD-R,Web配信用サーバー
デジタル媒体の更新頻度 デジタル媒体の更新頻度:飛躍的に優れた特性を有し、かつ一般に普及する汎用的なメディアが出現するまでは、現行のまま
色認識者 カメラマン、プリンティングディレクター
活用目的と方法 (1)障壁画の劣化・傷みの進行状態を比較把握する (2)修復時の参考にする (3)研究などに活用する(デジタル技術によるシミュレーション等) (4)模写の下図にする (5)出版物や複製物の制作
利用者 (1)文化財管理者 (2)研究者 (3)模写などの美術家 (4)出版社や映像ソフト等の製作者
一般公開 (1)2000年(平成12年)12月より、KDARCホームページから画像のインターネット公開 
(2)2001年(平成13年4月)よりデジタルアーカイブ研究センター所内及びイベント貸し出先におけるレプリカ展示 
(3)2001年(平成13年9月)より応用品の試験販売(東京「京都館」での風呂敷)
(4)2002年2月より二条城ホームページの公開
  (2002年12月現在)

■参考文献
DAM推進協議会『ブロードバンド時代の新画像フォーマットVFZ―高品質な画像保存からデジタル・アセット・マネジメントまで』2001.12, 日経BP企画

[かげやま こういち]



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