美術館IT情報:歌田明弘…2002.10.15.
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データベースが活きるときがやってくる!?
歌田明弘
 
美術館IT情報
連載/歌田明弘
連載/影山幸一

 このコラムを担当するようになって、美術館に立ち寄ると、AVコーナーを意識して覗いている。しかし、愕然とすることがあまりに多い。
「意識して覗く」と書いたが、ひと気がなくて意識しないとまず近づく気になれない。来館客の順路からはずれて隅っこにひっそり置かれている。「勇気を出して」近づいてみると、ひとが来ないようなところに設置されているのはもっともだと納得させられる。ハードはいかにも高そうで検索のシステムなどもできているのだが、ともかくコンテンツが少ないのだ。
 先日訪れた県立美術館もまさにこのパターンで、ハードも検索システムもあるのだが、肝心の展示物の画像コンテンツはいくらもない。これでは検索するより、全部表示してしまったほうが早い。そもそも高価なコンピュータは不要で、収蔵品のカタログがあれば十分である。それなのに高価なハードが何台も置かれていたりする。誰が見ても役に立たないデータベースとなれば来館者は近寄らず、また美術館側も遠慮気味に設置することになる。地方財政が苦しく、「税金の無駄遣い」が問題になる時勢であればなおさらだ。
 少し前に田中康夫長野県知事にインタヴューする機会があった。ダムを始めとする既存の公共事業に対し厳しい見直しをしている知事は、「ITが新たな箱もの行政になっている」と吐き捨てるように言っていた。現状はまさにそのとおりで、ITとつけば予算がつきやすいことからハードとシステムをともかく導入したのだろう。「機械」に予算はつくが、それに「命」を吹き込むためのスタッフの人員は財政難で減っていく一方だ。高価なハードと貧弱なコンテンツの取り合わせは、コンテンツを作成する人的・資金的余裕がないことを雄弁に語っている。
 けれども、じつのところ必要なのは、予算以前にまずモチベーションだろう。こうしたデータベースを美術館のなかでどう位置づけるのか。それをはっきりさせなければ利用方法も見つかるはずはない。「美術館での展示というフロー情報と、作品の収集・蓄積というストック情報の位置づけが変わってきて、人々が見ているのは膨大な情報世界から切り取られたフロー情報であるということが感じ取れる見せ方がこれからの美術館には求められる」といったことを以前この欄で書いた。そうなるためにはデータベースが重要なわけだが、現実には、そうしたことが意識されていないのだろう。
 しかし、IT技術を新たな「箱もの」として予算のばらまきをしてきた国のレベルでも、変化の芽は少しずつ出てきてはいる。
 国立国会図書館では、昨年10月の関西館開館にあわせて、ウェブで検索できる対象を本だけでなく雑誌記事にまで拡大し、コピーを郵送で受け取れるサービスを始めた。11月からはさらに、ウェブ・ページの保存をする実験的なプロジェクト「WARP」を開始している。ウェブ上の電子雑誌も対象にしているが、著作権の問題もあって苦慮しているようで、テーマ分類で「芸術」を検索すると7件しかない。しかもそのうち4件は分類の都合上からか「スポーツ」の電子新聞でコンテンツが乏しい。ウェブのアーカイヴとしては、このコラムでまえに紹介したように、世界中のサイトを対象にした「インターネット・アーカイヴ」というサイトができている。しかし、長期的な保存ということを考えたときに、外国のサイト頼みというわけにはいかないのだろう。実験段階の現在は、行政府などごく一部のサイトが保存されているだけだが、いずれはjpのドメイン名がつくホームページすべてを保存する計画もあるという。
 同じく11月から、国会図書館のサイトで、「データベース・ナビゲーション・サービス」(Dnavi)というデータベース検索もできるようになった。こちらのほうは、検索対象のデータベース数が4500件あり、検索システムとして機能している。企画展示を見に来る来館者が多い現状では、各ミュージアムが館内の閲覧のためだけにデータベースを作っても「宝の持ち腐れ」になってしまうことのほうが多い。しかし、このような検索システムがあれば、特色のあるデータベースを持った美術館を家庭やオフィスで「発見」することができる。収蔵品のデータベースは、陽の目を見ることの少ない収蔵品や常設展示物で来館者を呼べるツールにもなりうるだろう。
 ただし、国会図書館の「Dnavi」紹介ページにも書かれているように、このシステムは、データベースの中味を横断検索できるわけではない。どんなデータベースがあるか、データベースの「入り口」までナヴィゲートするものだ。将来的には、各ミュージアムのデータベースを横断検索できるシステムも必要だ。
 各施設のデータベースを横断検索するといったものではないが、フランスの「ジョコンダ」という検索システムでは、80のミュージアムにある13万5千点を超える作品をウェブから検索・表示できるようになっている。
 日本でも、文化庁などが中心になって美術館・博物館収蔵品の共通索引システムの作成が進められている。現在は試行版の1.3版がウェブでも公開されている。国立のミュージアム7館と県立美術館2館が参加し、12500件の収蔵品を共通検索できるようになっている。総務省はさらに、全国の図書館、博物館、美術館の収蔵図書・収蔵品をネットで横断的に検索できるシステムを作ることを決め、2年間の実証実験をするための予算を2003年度に要求している。このシステムでは、解説や画像もネットで呼び出せるようにするという。作品名や作家名で検索できるばかりでなく、「湘南の海岸の風景」といったような内容や、「空に鷺が飛んでいる風景画」といった画像イメージで検索できるシステムも必要だろう。
 このように、少しずつではあるが、各ミュージアムが作ったデータベースを活かす試みが進められている。これらは、ネットを通して「いつでもどこでも」ミュージアムの収蔵品にアクセスするというもので、ミュージアムのなかに立派なAVコーナーを作って装置にお金をかけるという方向のものではない。著作権の問題などもあっていきなりネットで公開するのがむずかしいとしても、岐阜県の「Virtual Museumや鹿児島の「デジタルミュージアム」のように、少なくとも近接のミュージアムのコンテンツを相互に参照できるぐらいのことをしなければ「税金の無駄遣い」の非難を免れることはできないだろう。

[うただ あきひろ]



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