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「電気ショック携帯電話」に
「パチンコ携帯電話」‥‥ ――メディア芸術祭デジタルアートインタラクティヴ 部門大賞受賞作 歌田明弘 |
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「電車のなかで携帯電話をかけてなぜ悪い」と新聞に寄稿したら、カミソリの刃が送られてきたという話を聞いたことがある。人づてに聞いたので真偽のほどはわからないが、いかにもありそうなことだ。ペースメーカーに影響をあたえるとか、携帯の発する電波が身体にわるいといった「実害」以上に、携帯電話は心理的な拒否反応を引き起こす。夢中で話している本人は気づかないが、周囲の人間には着信音や話し声はうるさいし、何より「いまここ」の空間にともにいながら「あちら側の世界」に行ってしまっている人間はそれだけで不愉快だ。理屈っぽくいえば、ひとつの空間がいくつにも分裂するというこれまでにない現象を引き起こす道具が携帯電話である。 そうした携帯電話の存在に触発されて「アート」に仕立て上げた人々がいる。先月開かれたメディア芸術祭で発表されたデジタルアートインタラクティヴ部門の大賞は、「ソシアル・モバイル」と名づけられた作品が受賞した。「SoMo1」から「SoMo5」まで5つの携帯電話のプロトタイプが発表されている。 「SoMo1」は「電気ショック携帯電話」。大きな声でしゃべると、話し相手は電気ショックを受けてびりっと痺れる。こうした携帯電話ならば、大きな声で話す迷惑人間はいなくなるというわけだ。大きな声で話した当人ではなく、相手が電気ショックを受けるのは理不尽な気もするが、作成されたデモ・ビデオでは、電話ごしに怒鳴られた人間が怒鳴り返して、2人の話し声が小さくなっていくユーモラスな場面になっていた。 「SoMo2」は「話す携帯電話」。静かな場所で携帯に電話がかかってくると話ができない。そこで、携帯電話についているジョイスティックをまわして返事をする。どういうわけか「モー」という牛の鳴き声のような音がし、気乗りがしないときには曖昧な鳴き声になり、いい話のときには「モーモー」と二つ返事になるという設定になっていたのがおもしろかった。 「SoMo3」は「ミュージカル携帯電話」。携帯電話を吹きながら番号ボタンを押すとさまざまな音が出る。トランペットのように吹きながら両手でボタンを押して携帯電話を「奏でる」。 「SoMo4」は「ノッキング携帯電話」。相手の電話番号を押して、木製の携帯電話をたたくと、ノックした音が相手に伝わる。ノックの仕方で誰がかけてきたかを判別したり、どれぐらい緊急な電話かがわかるというわけだ。 「SoMo5」は「パチンコ携帯電話」。携帯の下に、ひっぱって手を離すとぱちんと戻るパチンコのような装置が付いている。携帯電話に向かって大きな声で話している人に向けてパチンとやると、「うるさい、黙れ」と迷惑電話の主（ぬし）の携帯電話が叫ぶ仕掛けである。 こんな携帯電話が実際に出回ったらケンカが絶えなさそうだが、アイデアとしてはとてもおもしろい。 メディア芸術祭で受賞作品が発表されるのは今年で6回目だが、デジタルアートインタラクティヴ部門の大賞は、これまで「ドラゴンクエスト」や「ゼルダの伝説」などのゲームや、ソニーのロボット「アイボ」など、アートというよりコマーシャル・ベースにのったものが多かった。しかし、今年の受賞作は、社会的な批評と機知に富んだデジタルアートらしい作品が受賞したといえる。 「ソシアル・モバイル」を作ったのは、イギリスのフリー・デザイナー、クリスピン・ジョーンズとデザイン会社IDEOだ。こうした作品を作ったのは、携帯電話をかけることで引き起こされるフラストレーションや怒りに興味を持ったからだと動機を語っている。「ソシアル・モバイル」のデモ情景のビデオは、メディア芸術祭のサイトでもIDEOのサイトでも見ることができる。 これを見て思い出したのはウェアラブル・コンピューターの創始者スティーヴ・マンが提案した「時間泥棒 対策装置」だ。これはマスクのように顔をガードする装置で、「私は知らない人と話さないので、ＩＤカードを顔のうえのスロットにさし、“もし私にものを売りつけたいなら1のボタンを、書類に記入を求めるなら2のボタンを‥‥”」というメッセージが出る。自分の時間を奪う人を撃退する装置である。やはり一種の社会風刺になっているメディア・アート的なアイデアだった。 機械にどっぷり浸かっている現代人の生活を逆手にとり、自分たちの置かれている状況を浮き彫りにしてくれるのは、デジタル・アートならではだろう。 ［うただ あきひろ］ |
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