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息を吹き返したアルル国際写真フェスティバル

竹内万里子

多彩な顔ぶれ――回顧展から新鋭写真家まで

 さて、そこで具体的にどのような展覧会が登場したのだろうか。特定のテーマを掲げなかったことからもわかるとおり、その顔ぶれはじつに多彩だ。そのなかで特に注目を集めていたのは、日本でも人気の高いヨゼフ・クーデルカの大回顧展。街中の3ヶ所の会場を使って「ジプシー」「プラハ68」「エグザイル」「カオス」のシリーズを展示した。もうひとつの目玉はマーティン・パーのポストカード・コレクション。近年Phaidon社から出版された『Boring Postcards』が話題になったことは記憶に新しいが、20年近くものあいだにわたって収集されたそのポストカード・コレクションは、パー自身の作品に大きな影響を与えてきている。今回はそのポストカードの展覧会と、「セルフポートレート」シリーズとそのポストカードの両方をスライドショーで上映し、観客から喝采を浴びていた。

ヨゼフ・クーデルカ回顧展会場風景 「Here is New York」会場風景↑●「Here is New York」会場風景
←●ヨゼフ・クーデルカ回顧展会場風景(エグリス・デ・トリニテール)

 さらにもうひとつとりわけ観客を集めていた展示が、「Here is New York」。日本のマスメディアでも取り上げられていたので覚えている方もおられるだろうが、昨年の同時多発テロ事件の舞台となったツインタワーを撮った写真をアマ・プロ問わず展示して、各25ドルで販売しチャリティーにまわすというもので、先日ニューヨークで開催されたものがそのままアルルに巡回した。なおインターネット・サイトでも作品が販売されている(http://www.hereisnewyork.org)。

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アントニオ・ビアシウッチ
アントニオ・ビアシウッチ
リネケ・ディジクストラ
リネケ・ディジクストラ
ヨゼフ・クーデルカ
ヨゼフ・クーデルカ
アレックス・マックリーン
アレックス・マックリーン
ラリー・スルタン
ラリー・スルタン
アレクセイ・ティタレンコ
アレクセイ・ティタレンコ
 そのほか、若手作家の特に印象に残った展示をいくつか挙げてみたい。まずはじめは1962年レニングラード生まれのアレクセイ・ティタレンコによる「サン・ペテルスブルクの四つのムーヴメント」。ドストエフスキーの作品と絡めながらサン・ペテルスブルクの街を撮ったものだが、長時間露光というオーソドックスな手法をきわめて洗練された形で用いており、一枚一枚の作品のなかに時間の多層性を絶妙に浮かび上がらせることに成功していた。
 また1961年イタリア生まれのアントニオ・ビアシウッチによる「牛」は、「身体」「マグマ」に続くその三部作の最後を飾るシリーズにあたる。ほの暗い中で撮影された牛の姿は、もはや単なる家畜としての牛の存在を超え、あらゆる動物=生命の原型であるような神秘的な魅力をたたえていた。古い教会の一室で、まるで墓石のような黒い大きな箱に一枚ずつ作品が入れられ、それが床に40点近く整列しているという荘厳な展示も印象的だった。
 1959年オランダ生まれのリネケ・ディジクストラは、日本で作品を展示したこともあるので覚えておられる方も多いだろう。浜辺に立ってカメラを見つめる水着姿の若者のシリーズが特に有名だが、今回彼女が展示したのは、兵隊訓練を受ける前からその後までの青年の微妙な変化を追った数点のポートレート。薄いブルーの背景の前できわめてストレートに写された大判の肖像写真は、これ見よがしな誇張を避けているだけにかえって写真家のまなざしの強さを大変際立たせていた。
 
 じつはこの写真祭の正式名称は「アルルにおける国際的な写真の出会い」(Rencontres Internationales de la Photographie d' Arles)という。つまり、これは単なる専門家のためのフェスティバルでも単なる町おこしでもなく、写真をめぐるさまざまな出会いの場を提供するものなのだ。今年はその意義に立ち返るために、スライドショーに関して毎日行われる記者会見が、一般公開のかたちで公園のなかで実施されることになった。そこで誰もが気軽に写真家の意見を聞いて質問ができるようになり、じっさいさまざまな人がその場で発言をしていてとてもよい雰囲気を作り出していた。
 またシンポジウムも盛んに行われ、なかには日本でもおなじみのフィリップ・ラクー=ラバルト、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン、ジャン=リュック・ナンシーら錚々たる哲学者・美術史家による「イメージを問う(Interroger l'image)」というシンポジウムも開かれた。また正式なプログラムではないが、若手作家による作品の野外スライドショーなどが毎晩遅くまで無料で行われていた。
 
 このように今年、「出会いの場」としてのアルル国際写真祭はふたたび息を吹き返したような感がある。20年以上もここに通い続けているというアメリカの写真関係者によれば、今年は70年代にアルルがもっとも輝いていた時期を思い出すほどだという。もちろん、問題はまだまだ山積している。たとえば毎晩古代劇場で行われるスライドショーでは、観客から喝采を受けるものがあるいっぽうで、ブーイングが起き観客の半数ほどが途中で帰ってしまうようなものもあった。またワークショップの数が増加したとはいえ、参加費は相変わらずかなり高めに設定されている。そのため、参加したいが高すぎて払えないとこぼす人たちにも少なからず出会った。予算上の限界があるとはいえ、写真祭の本来の意義を考えれば、もう少し改善の余地があるだろう。
 また物理上致し方ないことではあるが、「国際的な」写真祭とうたっているわりにはヨーロッパのフランス語圏からの参加者が圧倒的に多く、アジア圏からの参加者・関係者はほとんど見かけない。そもそもこの写真祭の33年の歴史の中で、フランス以外の国籍の人間がディレクターに就任したのはたった2度だけとか(もちろんヨーロッパ圏から)。今年からは主催者側が完全に英仏二ヶ国語を徹底すると宣言しているだけに、今後少しでも多くの人がヨーロッパ圏以外の地域から参加し、さらにシーンが活性化することを期待したい。
 もっともアルルは南仏プロヴァンス、地中海文化の香りが色濃く漂う魅力的な街である。地元の人たちはみな親切で、料理もかなり美味ときている。ぜひ一度、南仏へバカンスついでに写真祭というプランを立ててみてはいかがだろう? 少なくともこのローマ時代の遺跡に彩られた街のなかで、東京で写真を見るというのとはまったく異なる新たな経験ができること請け合いである。


[たけうちまりこ 写真批評]



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