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「第2回大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003」
総合ディレクター:北川フラム氏に聞く
村田真
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▲川俣正
写真=安斎重男
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▲草間彌生
草間彌生
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▲ヘリ・ドノ
tezuka
▲トビアス・レーベルガー
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▲原広司┼アトリエφ「十勝ステージ越後妻有交流館」
原広司+アトリエ・ファイ
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▲MVRDV「雪国農耕文化村センター」
MVRDV

どこから金を引き出してくるか

「大地の芸術祭は3年に1度のアートイベントですが、作業としてはずっと続いているんです。延々と」と語るのは、この7月に開幕する「第2回大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003」の総合ディレクターを務める北川フラム氏。

 世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県南部の越後妻有地区で、「第1回大地の芸術祭」が開かれたのは3年前の夏。十日町市、川西町、津南町、中里村、松代町、松之山町の6市町村にまたがる762平方キロの広大な山間部に、32カ国150人近いアーティストが作品を繰り広げるという破格の規模で話題を集めた。
 これはもともと6市町村が新潟県と連携し、アートによる地域活性化を推進する「越後妻有アートネックレス整備事業」の一環として始められた公共的なプロジェクト。つまり、公共工事にアートが参入していくハード事業のソフト化であり、基本予算は公共事業費から計上される仕組みだ。
 第1回展では、参加アーティストはそれぞれ現地を訪れ、その地域の地理的条件や歴史的背景を踏まえ、その場ならではのサイトスペシフィックなインスタレーションを実現。そのため地元の人たちとの協働を重視し、また作品の半数近くを恒久的に残して地域の財産にしている。こうした点が、「大地の芸術祭」をほかの野外展や国際展と一線を画す大きな特色となっている。
 では、第2回展はどのようなものになるだろう。まず、参加アーティストは、磯辺行久、逢坂卓郎、河口龍夫、川俣正、クリスチャン・ボルタンスキーら前回の参加組が10人前後。新たに小沢剛、草間彌生、田甫律子、中川幸夫、パルコキノシタ、彦坂尚嘉、日比野克彦、カールステン・ニコライ、キキ・スミス、ファブリス・イベール、ヘリ・ドノ、ジェニー・ホルツァーらが加わって、現在150人強。すでに多くのアーティストが越後妻有を訪れて現地を調査し、制作に入っている。北川氏によれば、「前回よりアーティストたちは地域の人たちとかなり深くつきあい、一緒に仕事をしてますね」とのこと。
 それに対して、基本予算は3億円(3年間)と変わらない。しかも前回は企業からの協賛などを募って総額6億円としたが、「今回は協賛が壊滅状態」なので、実質的に予算は減っているのだ。「公共事業の予算で30人分くらいの作品が賄えるんですが、ほかの予算を入れても45人を超えちゃいけない。それが150人を超えちゃいましたね。それに3億といっても運営費で3分の1は使っちゃいますから、アートに回るお金は約2億。異常ですよね。いったいどこから金を引き出してくるのか」
 そういいながら、涼しい顔をしているのがいかにも北川氏らしい。なにしろ彼は、「アパルトヘイト否!国際美術展」(1988-90)では作品をトレーラーに積んで全国190カ所を巡回し、ファーレ立川(1994)では109点ものパブリックアートを設置するなど、無茶を承知でやってしまう男なのだから。

底辺の美術教育から変えていく

 今回はいくつかの新しい試みも計画されている。そのひとつが「ステージ」と呼ばれる建築プロジェクト。これは6市町村にそれぞれひとつずつ建てられる公共施設で、地域の特性を生かしコミュニティの核としての役割を担っていくものだ。今年は十日町に原広司┼アトリエφによる「十勝ステージ越後妻有交流館」、松之山に手塚貴晴+由比による「越後松之山『森の学校』キョロロ」、松代にオランダの建築家グループMVRDVによる「雪国農耕文化村センター」の3つが竣工する。
「たとえば雪国農耕文化村センターは、建物内部に雪国の農耕文化のアーカイヴがあるほか、地元の食材でおにぎりを出したり、グリーンツーリズムのグッズを販売したりする。これによって、実際にどのように地域づくりをしていくかということが見えてきます。それが各市町村の将来の農業とか町づくりとかの基本になっていく。しかもそのなかで、地元の高齢者たちの協力を得て『真実のリア王』を上演したり、松之山では『オーストラリア・アボリジニー現代美術展』を開いたり、いろいろな活動が組まれてます」
 ふたつめは「短編ビデオ・フェスティバル」の開催。内外から一般公募して1次審査を通った40-50本の作品を上映し、会期中におこなわれる2次審査で賞を決めるというもの。おもしろいのは上映場所で、「レストランとか駅とか病院とか、ふだんの生活のなかに流していきます。1カ所でダーッと見せる劇場型ではない」とのこと。
 3つめは、大学の美術教育系のゼミが参加すること。北川氏は昨年、千葉県の4つのニュータウンを舞台に、23大学の美術・建築系39ゼミにコミュニティ・デザインを任せる「菜の花里美発見展〈アートユニバーシアード〉」のディレクターを務めたが、今回はそうした美術家や建築家を養成するゼミとは別に、美術教育を担っていく教育学部の美術コースのゼミに声をかけたという。その結果、現在まで13大学30ゼミが参加を表明している。しかしなぜ「美術教育」なのか。
「いままでぼくが戦略的にやってきたことというのは、要するに文部科学省ルートではなく、国土交通省ルートで美術市場を開拓することだった。だけど単純な話、全国に美術の先生が何人いるかを考えると、何万人単位なわけでしょう。その多くは公募団体に属すか、地元の美術界のボスになるか、当りさわりのない学校教育をやってるわけ。われわれが関わっている美術の世界とはまったく別の世界なんですよ。それをシャッフルするというのがぼくの第2期の課題になってる。とにかく美術に関してはこのままじゃダメだから、子供たちに美術を教える先生から変えていくしかない。そこが美術を支える最大底辺だし、ねらいはそこだと思ってます」

圧倒的な反対派も賛成派に

 このように常識をくつがえし、新たなアイディアを次々と打ち出していく北川氏だから、反対派も少なくない。というより、第1回展ではほとんど全員を敵に回していたといっても過言ではない。過疎の地域で3億円もの大金を「わけのわからないもの」に費やしたことも槍玉に上げられた。その結果、「芸術祭は見直し、ステージ事業(ハードの公共工事)はストップ、北川はクビ」の3本立てを突きつけられたという。
「やる前は、なにやるかわからないから反対するのは当たり前。ぼくだってわからないんだから。これが東京の青島前都知事とか長野県の田中知事だったら本当にストップになってますよ。だけど実際にやってみたら、積極的に反対する理由はなにもない。やってみて見えてくるものがあったんです。前回はこの地域の200くらいある集落のうち、自分たちのところでやりたいと手を挙げたのは2カ所しかなかったのに、今回は50以上の集落が手を挙げてくれました。すごく変わりましたね」
 住人の意識を変えていくのは並大抵のことではない。そのためには実際に体験してもらうことと、継続していくことがなによりの力になるはず。開催を2年に1度の「ビエンナーレ」ではなく、3年に1度の「トリエンナーレ」にしたのも正解だったようだ。
「ビエンナーレだともたないですね。ただ芸術祭をつくっていくだけならビエンナーレでもいいけど、地元との関わりのなかでやっていくとなると3年に1度がちょうどいいですね」
 ちなみに、「大地の芸術祭」の手本となったドイツ・ミュンスターの彫刻プロジェクトは、10年に1度という長いスパンで地域にアートをなじませていこうとしている。それを考えれば、3年というのはむしろ短すぎるくらいだ。お金に関しても、3億円というのはたしかに「巨額」だが、年間に直せば1億円。過疎とはいえ全域で78,000人を数えるのだから、決して多すぎるというわけではない。ましてや第1回展のときの全国的な宣伝効果を考えれば安いくらいだ。いずれにせよ、前回の「圧倒的な反対派」は熱烈な賛成派に回らないまでも、「積極的に反対する理由」を失ってきている。それもこれも北川氏の強靭なねばり腰によるところが大きい。
「やることはやれちゃうんですよ。終わってからワーッと請求書が上がってきて、どうしようかって感じ。公共予算は絶対それ以上出ませんからね。余裕があって事業をするんじゃなくて、事業をしたあと3年間かけて借金を返していく。順序が逆だね。そこが破綻型とちゃんとした人との差だと思います」
 なるほど、冒頭の言葉にはそういう意味もあったのか。

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会 期 7月20日〜9月7日
会 場 越後妻有6市町村(新潟県十日町市、川西町、津南町、中里村、松代町、松之山町)
問合せ 東京事務局:アートフロントギャラリー tel 03-3476-4360
※詳細は1月31日に記者発表
総合ディレクター
北川フラム

[むらた まこと 美術ジャーナリスト]
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