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50回を迎えるヴェツィア・ビエンナーレ
日本館コミッショナー:長谷川祐子氏に聞く
村田真


金沢21世紀美術館のプレゼンテーション

▲長谷川裕子氏
1895年に第1回展が開かれて以来足かけ3世紀、今年50回を迎える国際展ヴェネツィア・ビエンナーレ。その日本館コミッショナーに、金沢21世紀美術館建設事務局学芸課長の長谷川祐子氏が選ばれた。長谷川氏にその経緯と日本館の構想を聞いた。
「最初にコミッショナーのお話をいただいたのは昨年の10月なかばごろです。私としてはここ(金沢)に勤めているので、お引き受けするまで少し時間をいただきました」
 来年11月に開館予定の金沢21世紀美術館は、金沢市の中心部、兼六園のすぐ近くに建設中の市立美術館。妹島和世設計のユニークな建築といい、現代美術中心のコレクションや活動方針といい、いまもっとも期待される美術館のひとつだ。
「美術館の建築のほうも細かいツメが終わって、オープニングの展覧会の準備をしはじめたときだったので、時期的にはちょうどよく、ラッキーでした。やっぱりお国の代表となるとぜんぜん違いますね。市長を含めて上の人たちも喜んでくれて、全面的に応援してくださることになりました」
 金沢21世紀美術館の最初のプレゼンテーションも、ヴェネツィアで開かれることになった。一石二鳥というわけだ。
「私ひとりが突出して外で仕事をしますということではなくて、こういうチャンスをいかにうまく美術館のアピールに生かせるかということをいつも考えています。やっぱり自分は媒体ですから」
 
「Heterotopias(他なる場所)」――日本美術のふたつの流れ
 さて、肝心のヴェネツィアのほうだが、今回の総合ディレクターはフランチェスコ・ボナミで、彼の掲げたテーマが「Dreams and Conflicts(夢と衝突)」というもの。
それに対して長谷川氏が出したテーマは「Heterotopias(他なる場所)」。
「いまの日本の美術にはふたつのタイプの流れがあると思う。ひとつは、日本独特の文化的なモザイクみたいなものを反映して、ある意味でローカル、ドメスティックなんだけど強烈な作品をつくる作家たち。もうひとつは、ユニヴァーサルな言語を使って外にも内にも同じように発信していくタイプの作家たち。そこで考えたのが「ヘテロトピア」というテーマです」
 たとえは悪いが、同性愛を一般に「ホモ」というのに対して、「ヘテロ」といえば異性愛を指す。つまり「ヘテロ」は「他の、異なる」といった意味。「トピア」は「トポス」の変形で、「ユートピア(どこにもない場所=理想郷)」にも見られるように、「場所」のこと。したがって「ヘテロトピア」は「他なる場所、異所」といった意味になる。
「フーコーを引用した、というと難しそうに聞こえるかもしれませんが、フーコーのいってることは単純で、ユートピアというのはここには絶対にない、地上にはありえない場所なのに対して、ヘテロトピアは日常生活に連続していながら日常を忘れさせてしまう、ぜんぜん別の世界に運び去ってしまうような想像の場であるということです。そんな想像力の場所でありながら現実に存在する場所をヘテロトピアと呼びたい、とフーコーはいうわけです。たとえば植民地や売春宿、アミューズメントパーク、ジャングルなどを彼はヘテロトピアと呼んでいます。
 そのことを踏まえたうえで、日本というのはかなり特殊な文化が醸成されている場所ですね。マンガやサブカルチャーがファインアートと同じように高度に発達して、変わった表現の言語を醸成させている国だと思うんです。外から入ってきたものをジャパナイゼーションして、ハイブリッド化してきた国じゃないですか。と同時にすごくグローバルエコノミーのなかにもいるわけです。そこで日本をヘテロトピアと呼んで、日常空間とは違ったものをつくり出す作家を選んだんです」

曽根裕と小谷元彦
 こうして長谷川氏が選んだ作家は、曽根裕と小谷元彦のふたり。長谷川氏によれば、曽根は「日本を出てユニヴァーサルな言語を使いつつも、日本的な性質をもった作家」であり、小谷は「国内にいていろんなかたちでサブカルチャーとかをハイブリッド化している作家」ということになる。
「ふたりとも日常的、サブカルチャー的な言語を使いながら日常性を切断して、ひとつのまったく別の想像世界をつくり出すという作業をしている。それが私がふたりを選んだ理由です」
 曽根裕は、1996年にフィリップモリスアートアワードの大賞を受賞し、「ミュンスター彫刻プロジェクト」「シティ・オン・ザ・ムーヴ」「横浜トリエンナーレ」「イスタンブール・ビエンナーレ」などの国際展に出品。4年前からカリフォルニアに住んでいる。出品作品は新作「ダブル・リヴァー・アイランド」。
「これは直径4,3メートルくらいある島のかたちをした彫刻なんです。そこに2本の川が流れているんですが、その流れが立体交差になっていて絶対に交わらない。つまり、ふたつのものがすごく近くにいて運動してるんだけど決して交わることがない、その関係がいまの状況なんじゃないかというのが、曽根くんの「Dreams and Conflicts」に対する解釈なんですね。この島にはまたスキー場とかビーチとか洞窟とか、曽根くんにとっての理想的な場所が寄せ集められています。ある意味で非常にユートピア的でありながら、それを現実のものにしようとする一種のモデルなんです」
 一方、小谷のほうはまだ曽根ほど国際的な活動をしていないが、「一定のキュレーターからは注目されている、これからという作家」だ。今回は、4つの新作を組み合わせてひとつのインスタレーションとして見せるという。
「小谷くんは、私たちの身体感覚を変化させてしまうような「変異(ミューテーション)」をテーマにしてます。今回は最初に細長い通路をつくって、真ん中にオシベのような彫刻を置く。そのなかを通っていくと直径2,3メートルほどの球体のコンテナがあり、メデューサみたいにワイアーが出ている。最後は、未来のおとぎ話のような変わったビデオ。
 これらを通してひとつの変異の物語みたいなものを提示します。美しくてグロテスクで気持ち悪いというのが一緒になってる、それが小谷くんの持ち味なんです。彼は、SFとかホラー映画とかプロレスとかいろんなサブカルチャーに浴していて、すごく多くのイメージのリソースをもっている人なんですね。それをさまざまな媒体を使ってリアライズしていくというのが今回の考えなんです。だからひとつのミューテーションのための異空間をヘテロトピアとして提出してくる」

 
彫刻家を選んだ理由
 ふたりの作品の配置は、最初に曽根の彫刻を置いて、小谷の通路を入って変異して裏口から出るという構成にするつもりだという。作品はまだ制作中なので全体のイメージはつかみにくいが、話を聞く限りふたりとも周到にアイディアを練っている様子がうかがえる。
「本当は、ふたりでやるなら女性作家をひとり入れたかったんです。実は最初、女性3人という別の案もあったし、曽根くんの個展とか小谷くんの個展とかも考えたんですけど、「夢と衝突」というテーマでひとりの作家でやっちゃうと、個人的なものになって相対化されないんじゃないか、そう思って違うベクトルを組み合わせてダイナミズムをもたせようとしたんです。
 ふたりとも彫刻家を選んだのは、場をつくるということを意識したからです。ヴェネツィアの日本館の会場で現在の絵画というのは厳しいし、写真だと弱いんですよ。だとすればインスタレーションか彫刻しかないと」
 ヴェネツィア・ビエンナーレはもちろん美術展だが、美術館で作品をじっくり鑑賞するという雰囲気からはほど遠い。世界中から集まったギャラリーや美術館、報道関係者らの注目するなか、最大の話題はだれが受賞するかだ。長谷川氏に、というか日本館に勝算はあるのだろうか。
「もちろん賞はとれたほうがいいですが、審査員がだれかにもよりますし、全体評価はありえないと思います。ただ、ヴェネチアで見せて印象深い展覧会にできたらいいと思います。やはり強いインパクトとオリジナルなアイディアが裏側にあって、それがいまの日本の状況からすくいあげたものであるかどうかがポイントだと思うんです。だから、ただスペクタクルなものを見せるというのではなくて、いまの日本の事情を反映しつつその底力を見せていかないと、若い世代への励ましにならないですよね」

なお日本館以外では、アメリカ館はトム・フリードマン、イギリス館はクリス・オフィリ、フランス館はジャン・マルク・ビュスタモントの出品。またアルセナーレでは、フランチェスコ・ボナミ、ホウ・ハンルウ、ハンス・ウルリヒ・オブリスト、カトリーヌ・ダヴィッドといったキュレーターのほか、リクリット・ティラヴァーニャ、ガブリエル・オロスコらアーティストもキュレーションする企画展が開かれる。
サンマルコ広場に面したコレール美術館では「ラウシェンバーグからムラカミまで1964-2003」を開催。


第50回ヴェネツィア・ビエンナーレ
6/13、14 ヴェルニサージュ
6/15-11/2 一般公開
6/14にはパラッツォ・コンタリーニにて「金沢21世紀美術館」記者発表がおこなわ れる。
問い合わせは金沢21世紀美術館建設事務局(吉岡)まで。
tel 076-220-2801 fax 076-220-2806


[むらたまこと 美術ジャーナリスト]
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