DNP Museum Information Japan - artscape
Museum Information Japan
Exhibition Information Japan
Recommendations
Exhibition Reviews
HOME
Recommendations

「絵画―永遠の現在を求めて:
リチャード・ゴーマン」展
木戸英行[CCGA現代グラフィックアートセンター]

 
福島/木戸英行
札幌/吉崎元章
東京/増田玲

「絵画―永遠の現在を求めて:
リチャード・ゴーマン」展
 3月1日からCCGA現代グラフィックアートセンターとお隣りの郡山市立美術館ではじまった「絵画―永遠の現在を求めて:リチャード・ゴーマン」展を紹介したい。
 リチャード・ゴーマンはアイルランド出身で現在ミラノを拠点に活動をつづけている画家だ。日本では、1998年から99年にかけて伊丹市立美術館と三鷹市美術ギャラリーで巡回展が行なわれたのでご覧になった方もいるだろう。また、版画を中心に良質な展覧会を企画することで知られる、さいたま市の柳沢画廊は10年以上も前からこの作家を日本に紹介しつづけてきている。

 さて、ここで紹介したいのはゴーマン展自体のことではなく、少し変わったこの展覧会の運営形態のことだ。
 今回福島で行なわれる展覧会は、車で30分弱の距離に立地する隣接館であるCCGAと郡山市立美術館とが、官民の枠を越えた共同事業として企画し、両館がまったく同会期で開催するというかたちをとっている。会期中、郡山では油彩画が、CCGAでは和紙による作品が展示される。
 場所の離れた複数の美術館が共同組織する巡回展は、日常的にごくありふれた形態だし、そこに私立館と公立館が集うのも珍しいことではない。そうした巡回展は多くの場合、単独で負担するには大き過ぎる労力や経費を分担しあうことが主目的であり、同地域の美術館が参加することはない。観客動員が分散してしまうからだ。
 同地域の2館がひとつの、あるいは関連する内容の展覧会を協力して開催した例として、たとえば千葉市立美術館と川村記念美術館との連携があげられる。この2館では過去、両館同時開催の桑山忠明展や、最近では、川村のゲルハルト・リヒター展と千葉でのドイツのミニマル・アートに関する展覧会で協力が行なわれていた。もちろんこれ以外の他地域にも実例はあるだろうが、その数は多くはないと思う。
 こうした開催形態のメリットだが、経費と労力の分担にとどまらず、とくにそれが地方の場合、地域における話題づくりに資する、という側面が大きい。広報宣伝活動を共同で行なうことで相乗効果が期待できるし、互いに潜在的な観客予備軍の掘りおこせるかもしれない。
 そして、もうひとつのとても重要な意味は、やはり「ネットワーキング」ということだろう。
 美術館はどこも多かれ少なかれ自館の専門性や独自性、言い換えれば他館との差異を意識して事業を展開するものだし、そうすべきだとも言える。したがって、どんなに隣接していようとも普段はあくまで「点」としてのみ存在しているだけだ。美術館の役割りを単に展覧会場、あるいは研究機関としてのみ考える分にはそれでもいいかもしれない。しかし、美術館や美術そのものが地域のコミュニティに果たす役割りを考えるとき、「面」的な広がりを意識せざるをえなくなるだろう。具体的には、地域の学校や、公民館、図書館その他の社会教育施設、市民団体、企業などとの連携などだが、なかでも、同エリアに属する美術館同士のネットワークは、もっとも必要かつ基本的な課題であるように思う。
 これは、千葉における例や、今回の郡山とCCGAの場合のように直接的な展覧会協力だけを指すのではない。むしろ、地域のアートシーンの活性化のために、同じエリアに属する複数の美術館が日常的に情報交換や意思疎通を交わしていける環境を整備することのほうが重要だ。
 もっともこれは口で言うほど易しいことではない。「点」として存在していた美術館同士の交流は、地域による程度の違いこそあれ、意外に少ないのが現実ではないだろうか。実際のところ、CCGAと郡山の場合でも、今回の展覧会を企画する以前の過去8年間にわたって、表面的な付き合いは別として、実質的なコミュニケーションはほとんど図られてこなかった。その意味で今展の試みは、両館が今後日常的な連携を深めてゆくためのスタートライン、またはケーススタディなのである。

 郡山とCCGAの連携は今はじまったばかりで、これが将来的にどのような成果を生み出すのかは言うに及ばず、果たして持続できるのかさえ定かではない。それどころか、白状すれば、多分に見切り発車的にはじまった試みで、現在のところ明確な将来像すら描けているわけではない。しかし、当事者の一人として、これが、両館の活動が今後地域社会における面的広がりを獲得するため役立つのだと、今はとりあえず信じようと思っている。

会期と内容
●「絵画―永遠の現在を求めて:リチャード・ゴーマン」展
<福島展>
会期:3月1日(土)〜4月1日(日)
会場:CCGA現代グラフィックアートセンター 福島県須賀川市塩田宮田1
   郡山市立美術館 福島県郡山市安原町大谷地130-2
休館日:月曜日
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:45まで)(CCGA)
     9:00〜17:00(入館は16:30まで)(郡山市立美術館)
観覧料:一般300円/学生200円/小学生以下、65才以上、障がい者手帳をお持ちの方は無料(CCGA)
    一般500円/高・大学生300円/小・中学生150円/65才以上、障害者手帳をお持ちの方は無料(郡山市立美術館)
主催:リチャード・ゴーマン展実行委員会
   CCGA現代グラフィックアートセンター
   郡山市立美術館
問い合わせ先:tel.0248-79-4811(CCGA)
       tel.024-956-2200(郡山市立美術館)
URL:http://www.dnp.co.jp/gallery/contents.html(CCGA)
   http://www.city.koriyama.fukushima.jp/bijyutukan/(郡山市立美術館)


※会期中の日曜日に限り、郡山市立美術館とCCGA現代グラフィックアートセンターの間に無料シャトルバスが運行される。時間などの詳細については、両館に問い合わせのこと。
 
<横浜展>
会期:4月23日(水)〜5月30日(金)
会場:ヨコハマポートサイドギャラリー 神奈川県横浜市神奈川区栄町5-1 横浜クリエーションスクエア1F
休館日:木曜日、祝日
観覧料:無料
主催:三井不動産株式会社
   相模鉄道株式会社
   リチャード・ゴーマン展実行委員会
問い合わせ先:tel.045-461-3033

[きど ひでゆき]

ArtShop Archives Art Links Art Words
prev up next
E-mail: nmp@icc.dnp.co.jp
DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. 2003
アートスケープ/artscape は、大日本印刷株式会社の登録商標です。