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ACTUALY/VIRTUALITY――マニラのオルタナティヴ・スペースとその作家たち/
キッドラット・タヒミック――個的な眼、普遍的な視点
川浪千鶴[福岡県立美術館]

 
福岡/川浪千鶴
神戸/木ノ下智恵子
東京/南雄介
倉敷/柳沢秀行

 Louie Cordero1
 Louie Cordero2
Gary-Ross Pastrana
Gary-Ross Pastrana2
上2点: Louie Corderoの作品/下2点:Gary-Ross Pastranaの作品
 展覧会は作家と作品だけではなく、企画者と展示場所が重要なのはいわずもがなのこと。少し前の展覧会で恐縮だが、フィリピンの現代美術展について、後者を中心にレビューしてみたい。
 福岡でフィリピンの現代美術展というと、福岡アジア美術館の主催と思われがちだが企画したのは個人、都市型アートプロジェクト「rhythm(リズム)」を主宰する遠藤水城さん。映像人類学専攻の現役の大学院生(たぶん在籍中)の彼は、2000年頃からアート批評誌『rhythm』を不定期に発行し(現在4号まで刊行、インターネットによる注文も可)、1年前くらいから北九州市や福岡市のあちこちで、怒涛のような勢いで音楽や美術イベントを企画、実施している。「元気印」といまだ呼ばれる福岡で、今もっとも生きのいいアート関係者のひとり。
 本展には、遠藤さん自身がフィールドワークとしてフィリピンに長期滞在し調査を行った経験が十分に生かされており、福岡に招かれた映像作家や同世代の若手アーティストたちとのすでに培われた、密な交流が、好感・交歓を生む要因になったといえる。チラシによると、マニラでは若いアーティストたちが、次々と自分たちのスペースを作り始めているとのこと。「Big Sky Mind」と「Surrounded by Water」という異なるふたつのグループが、巨大な印刷工場の敷地内にそれぞれのスペースを設立したのが昨年。以後、互いに共同しながら、そのスペースから先鋭的な作品を生み出しており、今回は、「Big Sky Mind」からNona GarciaとGary-Ross Pastrana、「Surrounded by Water」からLouie Cordero、全員20代半ばのアーティストが来福した。
 さらに、北九州市のギャラリーsoap(Nona Garcia)と福岡市のIAF SHOP*(Gary-Ross Pastrana)と共同アトリエ3号倉庫(Louie Cordero)という、地元アーティストが自主運営しているスペースで、短期間とはいえ三者三様に滞在制作・発表を行ったことも見逃せない。展覧会という形式をとってはいても、日本とフィリピン、それぞれのオルタナティヴ・スペースの、日常レベルでの交流がこの企画の趣旨といってもいいだろう。
 私が見ることができたのは、福岡市内の2つの展覧会だけだったが、どちらの作品も緻密な構成感とユーモアが特徴的で、さらにユーモラスな語り口のなかに忍んでいるシリアスな現実感、といった共通点が印象的だった。Louie Corderoのメイン作品は、倉庫の2階から、テープで升目をつくった1階の床に向って3台のテレビを投げ落とし、その現場をそっくりそのまま2階に再現したものと、その状況を3方向から撮ったビデオ作品。微小な破片ひとつひとつを拾い集め再現するさまは、警察による事故現場の検証にも似ていて、事件っぽい不穏なイメージと、大勢でただひたすらにゴミまで拾い集める行為のばかばかしさの共存がおもしろい。Gary-Ross Pastranaの作品は、植物の種子を床に敷き詰めて同心円の美しい曼荼羅をつくり、その部屋で小鳥を飼うというもの。当然小鳥はこの豪勢な量の種子を踏みちらし毎日の糧にするわけで、聖なるイメージの作品は日々刻々と変化していくことになる。ちなみに作家が購入した2羽の十姉妹は、会期途中で卵を産んだということでもう少し会期が長ければ、展示スペースの住人が3羽になっていたかもしれない。
 また同時期に遠藤さんが主催した、フィリピンの映像作家キッドラット・タヒミックの作品を3晩続けて上映するプログラムもよかった。私が見た「虹のアルバム」は、「終わらない」映画として有名(今回上映されたのは1994年版)な彼の代表作。完成を目指すことなく13年以上にわたって撮りつづけられたのは、彼の子どもたちや家族との日々のくらし、映像作家として各国の映画祭に招かれた旅の記録、フィリピンのバギオに住むアーティストたちの日常、政変や天災に翻弄されるフィリピンの歴史と現状…。徹底的に個人の眼を通じてとらえられた、このプライベート・フィルムは、まさに個であるがゆえに普遍的な視点を獲得しえた、本当に稀有な例といえる。私はかなり疲れた作業のあとに上映会場に駆けつけたので、正直言って3時間近い上映時間の作品に耐えられるか(寝てしまわないか)とても心配だったが、これは見始めたとたん杞憂に終わった。編集された過去の記録という事実とは別に、キッドラット・タヒミックというひとりの魅力的な人間にたったいまここで出会ったかのような(作家は来場していたが)、不思議な臨場感、幸福感に包まれたことは忘れられない。

会期と内容
●ACTUALY/VIRTUALITY  マニラのオルタナティヴ・スペースとその作家たち
出品作家:NONA GARCIA、GARY-ROSS PASTRANA、LOUIE CORDERO
会期:1月26日〜2月2日
会場:ギャラリーsoap
   IAF SHOP*
   共同アトリエ3号倉庫
問い合わせ先:090-7531-5382(rhythm代表・遠藤水城)
URL:http://rhythm_com.tripod.co.jp/(rhythm)
   http://www5e.biglobe.ne.jp/~soap/(ギャラリーsoap)
   http://www.sol-webspace.com/osl/IAF/index.html(IAF SHOP*)


●キッドラット・タヒミック 個的な眼、普遍的な視点
上映日と作品:1月30日 「悪夢の香り」(1977年)
       1月31日 「月でヨーヨー」(1981年)
       2月1日 「虹のアルバム」(1994年)
会場:あじびホール(福岡アジア美術館)
問い合わせ先:090-7531-5382(rhythm代表・遠藤水城)
URL:http://rhythm_com.tripod.co.jp/
  
学芸員レポート

 2月18日から21日までの4日間を大分市で過ごしたのは、地域創造の「アートミュージアムラボ大分セッション」に講師として参加するため。地域創造といえば、ホール担当者の“虎の穴”「ステージラボ」が有名だが、今年から「ミュージアムラボ」が独立したかたちで同時開催されることになった。
 初回のコーディネーターは、この「おすすめ展覧会」でもおなじみの大原美術館の柳沢秀行さん。「美術館って、どうして教育普及活動をするのだろう? 美術館って、どうして地域社会を連携するのだろう?」と彼が投げかけた問いを受けて、学芸員・アーティスト・NPO代表者ら7名からなる講師が、自分のミッションや企画コンセプト、そこから導かれる課題などを展開させ、さらに全国の美術館から集った受講者12名がそれらを糸口に質疑や番外討論を行うという方法でセッションは進行していった。いわゆる「教育普及」という大きなテーマを掲げて、4日間、長い日は1日7時間以上座り続けて人の話を聞くのは相当につらかったが、館の実情も経験も世代も異なるメンバーが集ったがゆえに、いろいろな問題を見直し、考え直すいい機会になったことは大きな成果だと思っている。 
 メンバーのなかでは年長者で叩き上げ学芸員の私としては、教育普及が美術館ミッションのトップに掲げられる現状はうれしくもある。しかし、まだまだそれが本当に根付いたとはいい難いなか(日本における美術館の存在そのものもそういえるかもしれない)、教育普及担当として採用され、館内外の要求や課題に必死に応えようと(孤軍)奮闘している若手学芸員の悩みは、私の通ってきた道にも重なるが、こうした時代の新たな悩みでもあるようだ。教育普及は女子ども(担当学芸員も対象者も)の仕事と、さすがに露骨にはいわれなくなったが、今回集った受講者が(もちろん例外の方はいらっしゃるが)若い女性と教員経験がある中年男性にくっきりと分かれていたことは、まぎれもない日本の美術館の現実。
 とはいえ、若い女性がただいつまでも若いわけはなく、それぞれ着実に自分なりのやり方で教育普及の種をまき、花や実を育てあげていくだろうし、学校と美術館それぞれの現場の違いを理解し、双方をつなぐディレクターとしての役割に目覚める学校経験者も、今後増える可能性はある。
 市民主体の美術館というかけ声を本物にするには、個と個の出会いや関係を信頼し、そこから想像力/創造力の相乗作用を生み出していくこと、そしてプロフェッショナルの育成…。当たり前すぎることを、改めて実感した4日間でした。

[かわなみ ちづる]

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