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東京都現代美術館 常設展示
柳沢秀行[大原美術館]

 
福岡/川浪千鶴
神戸/木ノ下智恵子
東京/南雄介
倉敷/柳沢秀行

 よそさまの美術館をのぞく時は、かならず常設展示を拝見することにしております。
 常設展示には、その美術館の職員がどれほど館蔵品を愛し、それから展示室の空間を注意深く観察しているかが端的に反映されますから、それを見逃す手はなし。
 最近強い感銘を受け、ぜひご推奨したいのが、現在の東京都現代美術館の常設展示。この数年の美術館をめぐる諸問題を体現する同館(というか、そりゃあんまりな、がんばれ〜、現場のみなさん!)。
 この常設展示で、みせたね。学芸員の意地!

 現在の、とわざわざ書きましたが、常設とは半分嘘でして、どこの美術館でも作品を保存のため収蔵庫で休養させたり(支持体が紙や絹の作品は年間1ヶ月展示、残る11ヶ月は収蔵庫で休みが通常です)、他館での展覧会に貸し出したりするため、実は、こまめに展示替が行われます。
 今回の東京都現代美術館の常設は、3月初旬にほぼ全面的に展示替されたもの。入口で、A4一枚ものの簡単なコピー刷りのコーナー毎の解説文を渡され、「あれ?この作家も所蔵してたんだ」と、普段はあまり見かけぬタイのモンティエン・ブンマー、インドネシアのダダン・クリスタントの大型立体作品、それに大分の「アート循環系」で存在感を放っていた郭徳俊作品が展示された吹き抜けエントランスをあとに、最初の部屋へ。
 その瞬間から「?!!!」。
 いつものひとつの部屋が、作り付けの壁でみごと半分に。
 さらに、そこでは各作品が、30cmくらいの間隔でぎっちり詰まっている!
「1940年代の美術」がテーマのこの第1室。おそらく、これまでの2倍近い作品が展示されている。ふつう、これだけ詰め込むと、見る気も失せるのだが、ここでは、そのひとつひとつの作品が、不思議なことに「いい!」。
 このコーナーのスターである靉光『静物(雉)』、鶴岡政男『重い手』の色彩の
あでやかさがいつも以上に引き立っている。塗り込められた油絵達の合間におかれた松本竣介のデッサンが少しも沈んでいない。それに普段はあまり見かけぬ間所沙織も、まとめて展示されることで、ビュッフェ風の当時流行の形象よりも、軽やかですらある彼女独自の躍動感が引き立っている。
 第2室の「1950年代の美術−リアリズムと前衛」にもつながる、いわゆるルポルタージュ絵画も、説明やプロパガンダ臭が後退して、なにか純粋な熱気が立ち上がってくるよう。いつもは、記号ぽっく「は〜い、ここに靉嘔です」って感じの靉嘔も、今日は『田園』をしげしげと眺め、この時代の中で、この作品が生み出され、そして高い評価を得たのが妙に納得される。
 ここまででもずいぶん感心しながら、どうして、こんな詰め込み展示なのに・・・?と自問しながら、第3室「1950年代の版画」へ。
 ここでも、これでもかと駒井哲郎、浜口陽三、浜田知明などの版画がぎっしり。
 いずれも見慣れた作品ゆえ、普段の私なら、その数を一瞥して次の部屋へなのだ
が、どういうわけか奥へ奥へと一点ずつ見ながら歩を進めてしまう。
 ここでもまた各作品が、よく見えるのだ。
それは過剰な粉飾や脚色がなくニュートラルに各作品がものを言っている強さが展示場に満ちているとでも言うべきか。そして奥まった一角に、浜田の初年兵哀歌でも良く知られる『歩哨』『銃架のかげ』が登場した時には、これまで何度も見ているはずなのに、正直、感動。

 納得とか感動とか、実感的な言葉ばかりが先に来てしまうが、この展示の何がどう良いのか分析的な言葉で整理しだしたらきりがない。それほど、この展示には膨大な判断が詰め込まれている。作品個々の理解、隣接する作品の組合せ、照明、展示導線、活字による情報提供などなど。せめて、その中でも大きな特徴だけでも、すこしは焦点を絞って書き留めておこう。
 なによりこの展示を可能にしたのは、この美術館には、戦後の日本美術を語る際に欠かすことができない重要な作品がどっさりコレクションされ、そしてその作品たちと長い時間つきあい続けている学芸員がいることだ。
 旧東京都美術館時代では、それを存分に開陳するスペースも機会もなかった。逆に、新しい箱に移ってからは、あまりに高い天井と広い部屋という、扱い慣れるまでに手のかかる空間が立ちはだかる。それに鳴り物入りで購入した西欧の作品の展示場への登場がやはり優先されてしまう。
 それに対して、今回の展示には学芸員達がちょいと「ぷちっ!」と切れる感じがした。やけとまでは言わないが、自分たちの見せたい作品を、自分たちが望むような空間をあつらえて存分に開陳している。
具体的には、今回登場した仮設壁が、巨大な空間を巧みに細分化し、また人間の行動パターンに適した導線設定を実現している。
 その誘導は心憎いばかりで、先ほどの版画の部屋の次は、小ぶりな部屋が連続させてあり、まずは工藤哲巳などの立体が、続いて具体美術協会、そして今井俊満などのアンフォルメル絵画へと続く。そこから空間はゆったりとひろがり始め、外国人作家を主としながらポップ、ミニマルが展覧される。
 3階へあがると、さらにまったく異なる空間構成となる。
 まずは樋口前館長の置き土産か?アサヒビール所蔵の巨大なサム・フランシスが、展示室のプロポーションと絶妙なバランスを保って展示されている。これまでもこの3階フロアーには大型作品が展示され、このサムもあったはずだが、今回のように、こんなに心地よく見えるのは、やはりそこに至るまでの緊張感ゆえだろう。
 そして圧巻は「特集展示 絵画の力 −80年代以降の日本の絵画」。
 真正面に、中村一美の超大作。「そうだよ。この展示場は、このサイズだよ。このサイズを受け止められるのは、日本じゃ、ここしかないよ」とまったく納得。それも、この作品の一人勝ちではなく、相向かう場所に展示された杉戸洋はじめ、両脇に並んだ作品達との共存があってこそ。日本の80年代以降の絵画は、これほど豊かな成果を残せたのだと、しみじみ感じ入ってしまう。
 このように「小品 ぎちぎち」から「大作 ゆったり」への流れを基調としながら、部屋毎に展示の特徴が明確にされ、その粗密の連なりに心地よい抑揚がつけられている。
 さて、でも、よくよく考えると、この美術館は、いつからこんな作品まで持っていたんだ?という疑問もふつふつ。
 そこで、改めて作品脇のキャプションに注目すると、あるは!あるは!寄託作品。寄託作品とは、個人や企業などから作品をお借りして展示するもの。美術館に、所有権こそないが、基本的に保存管理をきちんと行いさえすれば、展示はたいてい美術館の裁量で行える。展示場で公開もしないものを押し付けられては困るが、そこさえ気をつければ、お金をかけずに自館のコレクションを補完する良質の作品を確保するための優れた手段なのだ。それに、大切な作品を他人に預けるわけだから、そこは担当する学芸員がいかに多くの人脈を持ち、そして信用を勝ち得ているかが垣間見える。
 今回、特に「80年代以降の日本の絵画」コーナーを中心に、現存作家の作品が多数、寄託展示されている。おそらくは作家本人からの寄託と推定できるが、それだけこの美術館は現存作家たちとの深いつながりという優れた資源を抱えてもいるのである。
 エールを送る意味でも、まだまだ書きたいことが山ほどあるのだが、最後にひとつ。
 「最良の教育普及は展示から」
 私もこの言葉を是とするが、今回の展示は、まさにそれを体現している。展示場内での解説パネルなどでの活字による情報提供はほとんどなかった。各コーナーの専用台に置かれた印刷によるB6サイズの作家&作品解説カードもあったが、これらは従来メイン展示の作品ばかりであるから、今展示に対応できるカードは、そう多くもなかった。それに、各コーナーのタイトル看板も、どこにあったのやら。
 でも、私には入り口で渡されたA4一枚コピー刷りで十分であった。それは、これらの作品や戦後の美術動向にある程度、知識的な理解があることも助けられたのだろうが、おそらく今回の展示なら、何も予備知識のない幼稚園児でも、かなり楽しめたのではないだろうか。それほどまでに、展示担当者の無数の判断の積み上げの中で、各部屋が明確な特徴を出し、そして個々の作品が全体に奉仕しながらも、その個としての輝きを失うことはなかった。作品がぞんぶんに自分のことを語っているのだ。
 かねがね私は、美術館の危機とは、あらためて美術館が抱える資源を見出し活用するための大切なチャンスだと思っている。
 作品、人脈、設備。今回の展示ではそれがフルに生かされていた。それを活かして存分に腕をふるうシェフは、おそらくたいていの美術館にいるだろう。腕さえふるわせるだけで、美術館はもっともっと生きたものになるのに。

  
学芸員レポート

 ぜひ、http://www.ohara.or.jp/pages/maita.htmを見てください。
 大原美術館での眞板雅文展。
 オープニングは高階館長と眞板さんがそれぞれ挨拶。
 その後はお隣の幼稚園・若竹の園の園児さんと種まき。
 高階館長も眞板さんも、幼稚園のみんなに語りかけるように、平易で優しく、そして短い(3分間)、それでいて内容十分な挨拶でしたが、なにより、みんな一緒になっての種まきの、それは楽しかったこと。
 それから約1ヶ月。
 土筆はでるは、みごとに露出した土面が緑に変わるはで、作品が刻々と成長しております。
 3月30日(日)の新日曜美術館でも放映されます。

[やなぎさわ ひでゆき]

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