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エコミュージアムおさしまセンター アトリエ3モア
札幌/吉崎元章[芸術の森美術館]

 
札幌/吉崎元章
福島/木戸英行
東京/増田玲
高松/毛利義嗣

エコミュージアムおさしまセンター
エコミュージアムおさしまセンター
エコミュージアムおさしまセンター
エコミュージアムおさしまセンター
エコミュージアムおさしまセンター
 砂澤ビッキの作品を常設展示する待望のミュージアムが道北の音威子府村にオープンした。1989年に亡くなった北海道の彫刻家砂澤ビッキ。時にダイナミックに時に繊細に木の魂を形にした彼の作品は、没後、道内の公立の美術館で3度の大規模な展覧会が開催されるなど、その人気は衰えるどころかますます関心を高めている。これまでもいくつかの地で美術館建設の話が盛り上がっていたもののいずれも実現までには至っていない。特に、晩年の作品を美術館建設を目指し遺族から購入、寄贈を受けた洞爺村は、財政的な理由も大きいだろうが計画が遅々として進んでいないのは惜しまれる。
 今年4月26日にオープンした「エコミュージアムおさしまセンター」は、1978年からの晩年の約10年間、アトリエ兼住居として使用した旧筬島小学校舎を改築したものである。ビッキに最もゆかりのある現存する建物であり、ここを舞台に周囲の豊かな自然に触発されながら、豊富な森林資源を使用した大規模な作品制作が展開された場所である。
 札幌から車を飛ばして3時間半、6月中旬の雨の中、9:30の開館とともにここを訪れた。北海道でも最も人口が少ないという音威子府村の中心部からさらに車で10分ほど離れた筬島という小さな集落。四方を山に囲まれた自然のなかの澄んだ空気に包まれてそのミュージアムはある。以前にも何度か訪れたことのある「アトリエ3モア」と呼ばれていた建物は、外観こそ大きく手を入れていないものの、一歩足を踏み入れると、かなり造り込んだ博物館と化していた。風の音が響く廊下。かつて音威子府駅の前にそびえていたトーテムポールの残骸は、床板をはがした下にライトで浮かび上がる。再現された工具置き場。床に水を張った上に暗闇に照らされた作品。彼が内装を手がけたすすきののバーの再現。内部が大きく変わったとはいえ、ビッキが晩年の約10年間に住んで制作した場に染みついた気配は、それを増長する演出にも助けられて、十ニ分に漂っている。演出過多との感じもするが、より多くの人にビッキの魂のささやきを増幅して伝えるという点では成功している。惜しまれるのが、ここで生み出された作品のほとんどが洞爺村や道内美術館に入っているため、展示されている作品のほとんどが、ここに移住前の初期の作品であるということ。しかし、限られた条件の中でビッキの世界をここまでつくりあげていることは評価したい。老朽化が進み崩壊も懸念されていたこの建物を、ビッキの聖地として再生されようとする関係者の情熱がひしひしと伝わってくる。
 これを契機に他の地での美術館建設への歯車が動きはじめればとてもうれしいことである。砂澤ビッキは交友関係も広く、彫刻だけではなく、素描、タブロー、工芸などからのアプローチも非常に興味深い懐の深い作家である。さまざまな企画展の可能性を秘めている。関係者が健在のうちに、学芸員をおいた美術館が開館しビッキ研究が進むことを願わずにはいられない。21世紀になりますます自然との共生が叫ばれる昨今、ビッキの作品は輝きを増しながらこれからも多くの人の心に訴えつづけることだろう。
 ちなみに、音威子府を訪ねたならば、ぜひ食べてもらいたいのが名物の真っ黒なそば。個人的には温かいそばの方が好きである。

会期と内容
●エコミュージアムおさしまセンター アトリエ3モア
開館期間: 4/26〜10/31(冬期間閉鎖)
開館時間:9:30〜16:30
会場:音威子府村字物満内55
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
観覧料:200円(音威子府村在住以外の方)
問合せ先:Tel. 01656-5-3980
  
学芸員レポート

彫刻の夏
安田侃の世界
レームブルック展

上:安田侃の世界
下:レームブルック展

 北海道の今年の夏は、彫刻が華やかである。
 北海道立近代美術館アルテピアッツァ美唄の2館を会場に同時開催された「安田侃の世界」(6/6〜7/13)は、展覧会実現に向けてサポーターが1200万円の資金を集めたことでも注目を集めた。木造の廃校校舎の味わい深い空間や芝生と木々の開放的な屋外の作品を楽しめるアルテピアッツァ美唄は、展覧会会期中に写真展示が一部加わるのみだが、屋外作品がいくつか増え見応えは充分である。一方、対照的に無機的な北海道立近代美術館の展示空間では、いくつかの部屋ごとに趣向を変えて大理石やブロンズ作品を光と影のなかに見せている。特に透明アクリルの展示台にのせた白い大理石の小さな作品が並ぶ暗い部屋は幻想的。両館を通じて北海道出身で世界的に活躍する安田侃の作品のさまざまな表情を楽しめる展覧会となっている。
 芸術の森美術館の「レームブルック展」(7/5〜8/31)は、ドイツ近代彫刻史に重要な足跡を残したヴィルヘルム・レームブルック(1881-1919)の日本初の回顧展である。彫刻36点、素描、油彩、版画92点によりその全貌に迫るもので、札幌を皮切りに、仙台、足利、高知、葉山を巡回する。ヨゼフ・ボイスが「ピカソよりも、ロダンよりも、現代の芸術家の心に炎をともしたのは、天才レームブルックだった」という言葉を残しているほど、ドイツ国内では知られた重要な存在でありながら、これまでほとんど日本には紹介されなかった作家である。第一次世界大戦などの苦悩のなかで生み出されたか細い人体像は、現代の人間の不安な心にも強く訴えかけてくる。札幌テレビ放送で「ヒットラーに消された天才」という一時間番組が組まれるなど、盛り上がりを見せている。
 また、イサム・ノグチがマスタープランを手がけ、昨年にグッドデザイン大賞を受賞したモエレ沼公園に、「ガラスのピラミッド」が7月20日オープンする。ギャラリー、レストラン、展望台を備えた高さ32メートルの巨大な施設である。オープンを記念し、ここでイサム・ノグチ展(7/22〜8/31)が開かれる。初期の肖像彫刻や、日本で制作した陶作品、晩年のブロンズ作品を展示予定。
 さらにこの後、北海道の彫刻家の展覧会として、釧路市立美術館では「くしろの造形2 中江紀洋」(8/2-9/7)、芸術の森美術館では「阿部典英展」(9/7-10/19)が控えている。また、洞爺村国際彫刻ビエンナーレ(9/6〜10/5)は、小さな作品に限定した国際コンクールとして6回目を数える。旭川では、中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館の舟越保武展(7/5〜10/5)と、北海道立旭川美術館の舟越桂展(9/6〜10/26)という、親子の競演がみられる。

[よしざき もとあき]

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