学会発表

「企業の技術資産を活用したサービスデザイン
メソッドの提案と実践」研究成果発表

 サービスデザイン・ラボ(SDL)では、サービスのイノベーションを生み出すため、さまざまなビジネス形態、ビジネス課題に適合したサービスデザイン手法の研究開発を進めています。今回は「企業の技術資産を活用したサービスデザインメソッドの提案と実践」という題目で、2015年11月26日に同志社大学(京都)にて開催された「ヒューマンインタフェース学会 第127回研究会 ユーザエクスペリエンス・サービスデザインおよび一般」にて研究成果を発表しました。本記事では、発表内容についてご紹介します。

SIG_UXSD02当日発表の様子 発表当日の様子


■研究背景

 サービスデザイン思考にもとづき、サービスのイノベーションを生み出すために必要な要素として、「技術」の力は欠かせません。サービス・ドミナント・ロジックの考えを十分理解した上で、企業がこれまで蓄積してきた技術資産を最大限活用することで、その企業ならではの魅力的でユニークなサービスを生み出すことが可能だと考えています。しかし、実際に技術者やマーケターなど多様な職種の人々が集まり、「技術資産」を活用しながら共創でイノベーションを生み出すためのプロジェクトを進めようとするとさまざまな問題にぶつかります。SDLでも日々多くのプロジェクトを実践しています。その中で発生した問題を「影響力の強さ」という視点から整理した結果、以下の2つの問題を主に解決する必要があると考えました。

問題1:生活者の感じる価値と技術実現性の混同
 プロジェクトに参加するメンバーは長期間の生活および職業経験から無意識の「思い込み(バイアス)」をいくつも持っています。例えば、生活者視点でサービスアイデアを発案する際でも、技術者は実現性を無意識に考えてしまうため、「実現性が確実なアイデアしか発案されない」というようなこともありました。

問題2:プロジェクトメンバーの職種による価値観の相違
 技術者は特定の専門技術に対する思い入れが強く、マーケターは生活者の求める価値に応えることに価値観の重点を置いている場合がよくあります。そのため、共創プロジェクトにおいてこれらの価値観の違いを互いに理解せずプロジェクトを進めてしまうとメンバーはこれまで培ってきた専門技術を生かせないと不安に思ってしまい、プロジェクトがうまくいかないという問題が起こっています。

■提案するサービスデザインメソッド

 今回、上記の問題を解決し、かつ技術資産の有効活用とサービス・ドミナント・ロジックを両立させながら、プロジェクトを進行させるデザインメソッド「技術資産マッチングメソッド」を研究開発しました。共創プロジェクトに参加する"人"にかかわる問題を解決する本メソッドの特徴は「プロジェクトのフェーズ(STEP)ごとに人、目的、ツールの独立性を最大限高めること)にあります。メソッドの全体像は下図の通りです。

技術資産マッチングメソッド全体像 技術資産マッチングメソッド全体像

 本デザインメソッドは5つのSTEPに分かれています。STEPごとに参加するメンバーを職種ベースで切り分けます。プロジェクトには、サービスデザイナー、技術者、マーケターの3種類の専門家の参加が必要です。簡単に各STEPについて説明します。

STEP1:プロジェクト設計
 プロジェクトの主要メンバー内でプロジェクトのゴールを明確にするために、プロジェクト設計書を作成していきます。

STEP2:技術資産の価値棚卸し
 本ステップは、サービスデザイナー、技術者が参加します。技術者には普段から自分が研究している技術に関する価値や可能性をヒアリングし、技術の価値を構造化して記録していきます。

STEP3:ユーザーリサーチ、サービスアイデア発案
 本ステップは、サービスデザイナー、マーケターが参加します。エスノグラフィーやユーザーインタビューの手法を使いながら、生活者のインサイトを掘り出し、解決するサービスアイデアを発案します。ここでは技術資産の価値については強く意識せず、生活者のインサイトを叶えるためのこれまでの常識に囚われないアイデアの創造に注力します。

STEP4:ユーザーアウトカムと技術価値のマッチング
 本ステップは全員で実施します。STEP2、3のアウトプットをマッチングし、生活者が感じる体験価値の軸をぶらさずに技術資産の価値でどう実現できるかを考慮しながらアイデアを進化させていきます。本ステップでは、具体的な技術資産に紐付いた、生活者にとって魅力的な体験価値を含むサービス案がいくつも生まれることを目指します。

STEP5:技術とマーケットの詳細リサーチ
 最後のステップは、技術者とマーケターの専門家ごとに2手に分かれて実施します。技術者は技術の実現性の詳細リサーチを開始し、マーケターはサービス案に基づいたユーザーリサーチやビジネスモデルの検討を開始します。それぞれのリサーチ結果を統合しながらサービスデザイナーはサービスの設計を適宜アップデートし、世の中に届けるためにプロジェクトを推進していきます。

■学会発表の反応・所感

 発表後の質疑応答では、企業の中で技術資産をうまく活用できていないという課題意識については共感するという意見や、本メソッドを適用した実プロジェクトにおいて具体的に職種の人数比をどう設計したのか、数多くある技術資産をどのような基準で選定するかなどのより具体的な実践状況についての質問を受けました。これらのことから、提案したデザインメソッドが問題として提起した状況は、他企業の現場でも実際に起こりうる問題であり、メソッド自体についても一定の関心を得られたのではないかと感じました。
 今回の学会は、本メソッドを初めて社外で発表しさまざまな専門家の方と議論することで、多様な視点から意見をもらうことができました。引き続き、共創プロジェクトの実践を通じて課題を抽出し、デザインメソッドを発展・進化させていきます。

(田村)