進化する消費者行動とマーケティング<第1回>他者ベース評価で動く、日本人のブランド選択

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あなたには、好きなブランドやお気に入りのお店があるでしょうか?逆に、あまり好きではないので絶対に買わない商品があるでしょうか。このような、何かに対する「好きだな」「嫌いだな」という総合的な評価のことを、消費者行動論では「態度」と呼びます。私たち消費者は、当たり前ですが、自分が「いいな」と思うものを買い、「あまり良くないな」と思うものは買いません。したがってマーケティングでは、消費者の「いいな」という気持ち(好意的態度)を作るためにあらゆる戦略がとられます。こうして作り上げられるのが「ブランドイメージ」です。

なぜそのブランドが好きなのか

しかし、「好意的態度を作る」というのは、言葉にすれば単純ですが、実行するのは簡単なことではありません。態度が作られるプロセスは非常に複雑だからです。あなたがブランドAとBを同じくらい好きで愛用していたとします。しかしその理由は同じとは限らず、Aはお洒落でかっこいいから好き、Bは手ごろな値段で丈夫だから好き、ということかもしれません。「好き」の理由は、消費者一人一人違っているとも言えますし、性別や世代によっても違うでしょう。さらには、国(文化)によっても違う可能性があります。たとえばクラシックな雰囲気のデザインは、伝統を重んじる国では好まれやすいですが、変革を好む国では好まれません。つまり、好意的態度の形成は、実は大変複雑で難しい作業だと言えます。

ブランド態度形成における「自己」と「他者」

消費者は主にどんな理由に基づいて、特定のブランドを長く愛するようになるのか。その理由を解き明かすことが出来れば、ブランディングにおいてどのようなメッセージを流すことが有効かを知ることが出来ます。私はここ数年この問いにチャレンジしてきました。
古い研究を紐解くと、Fishbein (1963)は、ブランドへの態度は「ある製品属性に関する評価」(例:お菓子のカロリーが低いのは良いことだ)と、「そのブランドがその製品属性を有しているかどうかの信念」(例:このブランドは他と比べてカロリーが低い)の関数によって求められると整理しました。しかし、その後も態度形成に影響を与える原因に関する研究は膨大に積まれています。中でも、近年重要と考えられているのが消費者の「感情」の影響です。「ブランド・リレーションシップ」(Fournier, 1998)、「ブランド・アタッチメント」(Park et al., 2010)、「ブランドラブ」(Batra et al., 2012)など、様々な言葉で表現されていますが、いずれも消費者とブランドとの間に「感情的につながっている感覚」が存在することが重要であると指摘しています。
一方で、Fishbein(1963)が述べたように、消費者はもっと理性的、論理的に商品を判断しているという立場の研究もあります。理性か感情か、好意的態度の形成にどちらがより大事なのかは、学術研究でも決着がついていません。
これらの研究をふまえ、私が最近の論文で提唱したのが「自己ベース/他者ベース評価モデル」です(Sugitani, 2016)。ブランド態度を形成する要因には、「理性」と「感情」があることはすでに述べたとおりですが、これらはさらに分けると、「自己ベース」と「他者ベース」に分かれるというモデルです。

自己ベース/他者ベース評価モデル

自己ベース、他者ベース評価モデル 杉谷陽子 ブランド

「自己ベース」評価とは、自分自身がその製品を使ってみて便利だと感じたとか、個人的に懐かしい感じがして思い入れを感じるといったような、個人的な評価のことです。一方、「他者ベース」の評価とは、周囲の評判に影響されて出来上がった評価のことです。例えば、「あのブランドはおしゃれだ」という評価は、他者ベースの評価です。なぜならば、「おしゃれさ」という評価は、周囲の合意が要ります。自分一人だけがおしゃれだと思っていて、周りのみんなが口をそろえて「あれはダサい」と嘲笑する状況で、そのブランドはおしゃれだというイメージを持ち続けることは困難です。しかし、「自己ベース」評価は違います。「私はこのブランドに助けられた」、「私らしい感じがして思い入れがある」という評価は、周囲が「これは不便だ」「私は自分らしさを感じない」と言ってきたとしても、影響を受ける必要がありません。なぜならば、「助けられた」と感じた経験、私らしいと感じた経験(これらは心理学で「主観的経験」と呼ばれます)はゆるぎない事実です。周囲の合意が得られなくても、「あの人にとっては、そう感じられたのか」と思うだけです。

周囲の評価を気にして欲しいものが買えない日本人

これまでたくさんの消費者調査を実施してモデルの検証をしてきましたが、そこから見えてきた答えは、好意的ブランド態度の形成においては「自己ベース」の感情に基づく評価が最も重要であるという結果です。具体的には、「このブランドは私らしい感じがする」「自分とつながっている感じがする」という評価です。言い換えるならば、「愛着」や「親しさ」の感情と解釈できます。直感的には、「おしゃれでかっこいい」という感情(憧れ感情)や、「機能が優れている」という理性的判断も、ブランディングには重要であるように思われます。しかし、検証の結果は、感情に基づく「自己ベース」評価の重要性を一貫して示しました。興味深いことに、この結果は世代を超えて共通であり、日本だけでなく米国での調査でも同じでした。
さらに面白かったのは、購買意図も併せて検討した際の調査結果でした。日本人は感情に基づく「自己ベース」評価が高いブランドに好意を持つのですが、「じゃあ実際にそのブランドを買うか」と聞かれると、回答が変わり、「他者ベース」評価を気にするようになりました。米国人ではこの傾向は見られず、彼らは自分がいいと思うものをそのまま買いたいと答えます。この結果は、文化心理学などで指摘されている東洋人と西洋人の違いにも一致する結果で、ブランドのグローバル化戦略において非常に示唆に富むものと思います。例えば米国などの西洋文化圏では、ブランドが「自分らしさ」を実現するのに有効であることをアピールするように心がけ、日本のような東洋文化圏では、「自分らしさ」に加えて周囲から好感を得られることもアピールすることが重要と言えるでしょう。


<引用文献>
Batra, R., Ahuvia, A., & Bagozzi, R. P. (2012). Brand love. Journal of Marketing, 76, 1–16.
Fishbein, M. (1963). An investigation of the relationships between beliefs about an object and the attitude toward that object. Human Relations, 16, 233-240.
Fournier, S. (1998). Consumers and their brands: Developing relationship theory in consumer research. Journal of Consumer Research, 24, 343–373.
Park, C. W., MacInnis, D. J., Priester, J., Eisingerich, A. B., & Iacobucci, D. (2010). Brand attachment and brand attitude strength: Conceptual and empirical differentiation of two critical brand equity drivers. Journal of Marketing, 74, 1–17.
Sugitani, Yoko (2016). The role of self-based and public-based evaluation on forming attitudes toward luxury and non-luxury brands. Proceedings of 2016 Global Marketing Conference, 289-294. Retrieved from http://dx.doi.org/10.15444/GMC2016.03.05.04

 

「進化する消費者行動とマーケティング」シリーズについて

コミュニケーション技術の進化やモバイルデバイスの浸透によって、生活者の暮らしは大きく変化してきました。そして、マーケティングにおいても生活者の新たな行動パターンの把握や、新しいコミュニケーションの創出など様々な進化が求められています。当シリーズでは、消費者行動研究に携わる研究者の方々に最新の研究成果をご紹介いただきます。

  <第1回執筆者>

杉谷陽子 sugitani

杉谷陽子(すぎたに・ようこ)/上智大学 経済学部 経営学科 准教授
2002年、慶應義塾大学商学部卒。2008年、一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了(博士 社会学)。専門は、消費者心理学、ブランドマネジメント論。主な著書は、「新・消費者理解のための心理学」(福村出版・共著・2012年)など。

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上智大学 経済学部 経営学科 准教授 杉谷 陽子