進化する消費者行動とマーケティング<第2回>話題力によるスーパーマーケットの活性化

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変わる買物客との接点

アマゾンや楽天といったオンライン購買の世界では,買物客となる個人の特定化と,その特定化に向けて,属性,関心,メディア接点状況などの情報の精緻化が加速しています。オンライン購買では,オンラインの間(買物行動時)は常に買物客と企業側がずっと接点を持てているため,個人の特定化と精緻化を基に,ダイレクトかつタイムリーなコミュニケーションが展開されています。これに対し,オフライン購買(スーパーマーケットの実店舗での購買)では,デジタルの接点はチェックアウト時,つまり顧客ID付のカードを提示した時のみです。つまり買物行動が終わるときにしか,接点を持てていませんでした。ところが,これがスマートフォンの活用によって,オフライン購買も,オンライン購買と同じように,買物行動時に買物客と企業側が常時接点を保つことができるようになります。スマートフォンはそのくらい買物行動をガラッと変える可能性を秘めたツールであると言えます。

チェーン小売業とSNS

先に挙げたスマートフォンの利用場面の多くは,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にあります。現在,TwitterやFacebook,LINEなどのSNSの急速な普及に伴い,消費者間の話題共有の場面が非常に多くなっています。これらのSNS上では,「スタバなう」「タリーズなう」というような,店舗にいる状況を発信したようなコメントが見受けられます。これは,自分自身の店内滞在の状態をSNS経由で情報共有し,それに対して友人,知人から関心や共感を得たいという意図の表れです。しかしながら,「○○スーパーなう」「××ストアなう」というように,スーパーマーケットがこの情報共有の対象としてSNS上にはなかなか挙がってきません。
現在の日本では,オーバーストアと言われるように,スーパーマーケットの店舗は過剰に展開されており,店舗間の競争も激しさを増しています。スーパーマーケットのかつての成長モデルは,「とにかく新規出店を繰り返すこと」でした。しかし,オーバーストアによる生産性の逓減を回避するため,現在では多くのスーパーマーケットは,「新規出店を抑制し,既存店を活性化させる」ことに成長戦略をシフトさせています。このように,出店抑制・既存店活性化が大きな課題にある中,既存店に新規顧客を呼び込むにはどうすればよいのでしょうか。
そのような背景から,スーパーマーケット各社はCRM(Customer Relationship Management)の一環として,購買実績に応じて買物金額の値引きに還元できるポイントを付与したり,優良な実績を持つ顧客に対して特別なキャンペーンを実施したりするロイヤルティ・プログラムを推進しています。しかし,ロイヤルティの高い消費者は,最初から店舗の売上,利益に大きく貢献してくれている顧客であるため,彼らを中心にさらなる売上増,利益増を狙っていくのには当然限界があります。そこで,消費者間でその店舗・売場が“話題”のネタになることによって,「前からある店だけど行ってみようかな」という気持ちになり,新規のトライアル顧客を増やすという流れを考えてみるべきではないでしょうか。つまり“話題”をキーにした流れが需要拡大を生み出す大きな可能性を持つのではないかと考えられます。

たくさん買ってくれるお客様に合わせた売り場が魅力的とは限らない

図1はスーパーマーケットでたくさん買ってくれる人(最利用店舗における食品支出比率が50%以上と回答した人)を「ロイヤル」,そうでない人を「ノンロイヤル」とし,スーパーマーケットでの買い物方針や行動について,「安全・計画層」,「簡便層」,「無関心層」,「特売層」,「こだわり層」にグループ分けし,その割合を見たものです。結果は,「ロイヤル」は「ノンロイヤル」よりも「無関心層」が3ポイント高かった。これは統計的に有意な差です。「無関心層」とは,「他のお店に切り替えるのが面倒だからいつもの店でいい」と思って買物している最も割合の大きい人たちで、積極的にお店を選んでくれている層とは異なります。そうなると,前記のロイヤルティ・プログラムのように,ロイヤルなお客様の購買履歴データを参考にして品揃えやプロモーションを考えることが本当に正しいと言えるのでしょうか。買物やお店選びに対して積極的な考えを持たない地味なお客様の買い方を基に売場を作ると,売場も地味で味気ないものになってしまうのではないでしょうか。

図1:ロイヤル・ノンロイヤル別の買物タイプの構成比

ロイヤル・ノンロイヤル別の買物タイプの構成比

図2は,スーパーマーケットで展開されているエンド(特別陳列)について,「プロモーション/特売訴求型(大特価!半額セール,など)」,「テーマ訴求型(花見,鍋,など)」,「製品訴求型(ブランドの効能,イメージのアピール)」という各タイプのPOPを取り付けたことによる効果の度合いを見たものです。結果は,「プロモーション/特売訴求型」のPOPが3つのタイプの中で最も売上に対する効果が高く,このPOPを付けることにより通常販売時に比べて1.66倍高くなった。これは,とにかく,売上を確保したい,短期的な売上への効果を求めるのであれば,「大特価!」「半額セール!」といった,プロモーション/特売訴求を展開するのが手っ取り早いことが言えます。しかし,この売り方ばかりでは,製品ブランドの魅力(知覚品質や参照価格)が損なわれてしまうだけでなく,「安売りばかりの店」ということで店舗へのイメージにも影響をもたらす恐れがあります。

図2:訴求タイプ別POP設置エンドの効果係数

訴求タイプ別POP設置エンドの効果係数

では,この地味さから変革するためには?

スーパーマーケットには有力な企業はもちろん存在しますが,暮らしを支える存在ではあっても、普段の会話で話題になる存在とはなっていないのではないでしょうか。しかも,前記の通り,たくさん買ってくれるお客さんは地味ですし,たくさん売れる売り方も地味ということは,売上を追求しすぎると,ますます地味になってしまうのではないでしょうか。売上は営業のゴールとしてもちろん大事ですが,これを追い過ぎてしまうと,売り方に関する発想が短期的・狭小的・硬直的になってしまうのではないかと懸念されます。となると,地味さから変革するためには,営業・販売上の新たなゴールを考える必要があるのではないでしょうか。そこで,新たなゴール(成果指標:KPI)として「話題力」を追加することを提案したいと思います。日本のスーパーマーケットは,モノ消費を前提とした物販体制をずっと取ってきています。このままでは,地味さから抜け出せず今後間違いなく縮小してしまいます。よって,スーパーマーケットと取引先となるメーカーは「モノ消費」ではなく,「コト消費」を支援すべきだと考えています。スーパーマーケットの「コト消費」というのは,買うプロセスを提供することです。最終的にはモノを買っていただくわけですが,そのモノを買うプロセスを演出することがスーパーマーケットでの「コト消費」だと考えています。図3はその考え方と研究の方向を示しています。いままでは,「購買」を成果指標として,「モノ消費」に向けて知見や管理手法を提供してきたインストア・マーチャンダイジングやカテゴリー・マネジメントから発展させ,「話題」を成果指標として「コト消費」に向けた研究がこれから必要になってくるのではないでしょうか。

図3:企業(スーパーマーケットと取引先)活動が目指す方向とこれからの研究領域

スーパーマーケットと取引先 企業活動が目指す方向とこれからの研究領域

「進化する消費者行動とマーケティング」シリーズについて

コミュニケーション技術の進化やモバイルデバイスの浸透によって、生活者の暮らしは大きく変化してきました。そして、マーケティングにおいても生活者の新たな行動パターンの把握や、新しいコミュニケーションの創出など様々な進化が求められています。当シリーズでは、消費者行動研究に携わる研究者の方々に最新の研究成果をご紹介いただきます。

  <第2回執筆者> 

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授 寺本 高

寺本高(てらもと・たかし)/横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 准教授
1998年慶應義塾大学商学部卒。筑波大博士(経営学)。流通経済研究所店頭研究開発室長,明星大学経営学部准教授を経て,2016年より現職。主著『小売視点のブランド・コミュニケーション』(千倉書房・2012年・日本商業学会賞受賞図書)。 

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横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 准教授 寺本 高