進化する消費者行動とマーケティング<第3回>余剰資源を売り買いする消費者

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C2Cプラットフォームの成長

米国民泊大手のAirbnb(エアビーアンドビー)は、世界で100万室以上の物件を提供しています。世界最大のホテルチェーンのマリオットの保有する部屋数が約110万室なので、提供物件数の側面ではほぼ同じ規模といってよいでしょう。注目したいのは、Airbnbが2008年の創業から7年間で提供物件100万室を達成したのに対し、1957年創業のマリオットは58年間の年月を費やしていることです。
このAirbnbの躍進を支えているのが、一般の消費者の余剰資源のシェア行動です。自宅に余っている部屋、あるいは使用していない別荘などの不動産がある消費者は、その物件をAirbnbに貸し手として登録することができます。宿泊場所を探している借り手は、ホテルの部屋を探すようにAirbnb上で場所や料金などの条件に見合う部屋を検索し、借りることができます。Airbnbはホテルチェーンのようにホテルの建物を所有していません。資源(この場合は部屋)を所有しているのは消費者で、Airbnbのプラットフォームは取引の場を提供しているのです。
こうした余剰資源のシェア行動は、他にも消費者の様々な局面で見られます。たとえば、消費者の自家用車、運転技術、および時間という余剰資源は、「Uber」や「Lyft」といった自家用車による配車サービスのビジネスの源泉となっています。観光地に関する知識と時間という余剰資源は、「Vayable」のプラットフォームによって消費者と旅行者のマッチングが行われています。また、「Feastly」は料理技術と自宅のダイニングと時間という余剰資源のマッチングを行っています。家庭料理を作りたい消費者は料理と場所を有料で提供し、家庭料理を食べたい消費者は料金を支払って楽しむのです。

マルチサイド・プラットフォームとは

こうした余剰資源のシェア行動を可能にするプラットフォームは、マルチサイド・プラットフォーム(以下MSP)と呼ばれ、近年研究が進められています。マルチサイド、と呼ばれるのは、たとえば転職プラットフォームのように求職者と求人者と広告主といった複数の参加者グループが参加する場合もあるためです。貸し手と借り手、運転手と乗客など、参加者グループが二種類の場合は、ツーサイド・プラットフォームと呼ばれます。これはMSPの特殊ケースと考えられます。
MSPは通常のビジネスと異なり、プラットフォーム自体が製品・サービスを生産し、販売することはありません。冒頭のAirbnbの事例でも、Airbnb社は不動産を保有しているわけでも、フロントやベルキャプテンなどの従業員を雇い、サービスを直接提供しているわけではありません。つまり、プラットフォームの価値は自分が何をするかではなく、他者に直接交流させることによって何を可能にさせるか、で決定するのです。そして、この交流の形は売買や賃貸など多様です。
MSPはプラットフォームであり、仲介業でもあります。プラットフォームという言葉は土台とか基盤を指しますが、冒頭の事例は参加者が交流するための土台といえます。そして、参加者同士のマッチングを計ることによって探索コストの削減、取引コストの削減を実現するため、仲介業でもあるのです。

マルチサイド・プラットフォームの概念図


MSPは参加者の獲得に成功すると、さらに巨大に成長していきます。それは、間接的ネットワーク効果が働くためです。間接的ネットワーク効果とは、あるサイドの参加者が増加すれば,別のサイドの参加者に大きな価値がもたらされ,別のサイドの参加者も増加する効果です。たとえばuberに例えると、運転手が増えるほどプラットフォームが便利になり乗客が増える、あるいは乗客が多いほど、運転手にとっては収入を増大させる可能性が高まり、ますます運転手として登録する参加者が増える、といった現象です。
これは間接的ネットワーク効果が正に働いた場合ですが、負に働く場合もあります。つまり、片方のサイドの参加者が少ないので、プラットフォームの魅力が低下し、別のサイドの参加者も増加しない、という負の連鎖のような状況です。これは、多くのスタートアップがMSPの立ち上げ当初に頭を悩ます問題です。

余剰資源を売り買いする消費者

このような新しいプラットフォームの登場は、新しい消費者行動を生み出します。Airbnbの例で考えると、消費者は別荘の購入者からサービスの利用者となり、別荘は所有するものから使用・共有するものへと変わります。同様に製品の位置づけも、住宅としての製品から、利用するサービスへと変わります。
つまり、製品を購入せず、所有せず、必要な時だけ必要な部分を利用する、という新しい生活スタイルが生まれているのです。実際、月額利用料を支払って洋服が毎月届けられ、満足したら返却すると別の服がまた送られてくる、といったファッション・レンタルのサービスもいくつか生まれています。
一枚の服がファッション・レンタルのサービスを通じて多くの人に着用されるということは、ひとりの消費者が所有することから複数の消費者で共有する「コラボ消費(collaborative consumption、共同消費とも呼ばれる)」が行われていることを意味します。ひるがえって、サービスを提供する側の消費者に目を向けてみましょう。自家用車で友人の送迎をする、友人を部屋に泊める、料理を教える、といった行動は昔から行われてきたことなので、とくに目新しい行動ではありません。しかし、友人・知人ではない相手に対してそうした行動が提供され、それに対して対価が支払われる、といった現象は新しいといえます。また、企業が製品サービスを提供し、消費者がそれを購買する経済的交換との相違点を考えると、こうしたサービス提供者はアマチュアであり、サービスの提供によって生計を立てていないことが挙げられます。また、企業は製品・サービスの在庫を保有し、店舗に例えると常に開店している状態にありますが、消費者が製品・サービスを提供する場合は消費者の気分次第ということになります。
製品・サービスとそれに対する対価を交換する従来型の経済的交換と、同じく従来から存在する無償で他者と資源を共有する行動との境界に存在するような消費者行動が、現在増大しているのです。

新しい消費者をとりまく研究課題

余剰資源を売り買いする消費者の登場は、消費者行動やマーケティングといった学問領域に新たな機会と挑戦をもたらします。消費者行動論では個人の消費者の消費行動に関する研究が多く、消費者同士の経済的交換や共同消費に関する研究はあまり見られません。本来的にサービス提供者がアマチュアであるということは、取引の不確実性の増大と、それに伴う信用や信頼の重要性の高まりを意味しています。
消費者のC2Cプラットフォームへの参加、出品、購買といった行動はどのような要因で規定されるのでしょうか。また、こうした行動はどのような製品・サービスに向いているのでしょうか。プラットフォームはどのように不確実性を低下し、信頼を獲得し、参加者を増やすことができるのでしょうか。製品・サービスを提供してきた企業は、余剰資源を売り買いする消費者をサポートするMSPとどのように競争し、共創することができるのでしょうか。これらの問いに対する研究が、始まりつつあります。

「進化する消費者行動とマーケティング」シリーズについて

コミュニケーション技術の進化やモバイルデバイスの浸透によって、生活者の暮らしは大きく変化してきました。そして、マーケティングにおいても生活者の新たな行動パターンの把握や、新しいコミュニケーションの創出など様々な進化が求められています。当シリーズでは、消費者行動研究に携わる研究者の方々に最新の研究成果をご紹介いただきます。

   <第3回執筆者>

慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 准教授 山本 晶

山本晶(やまもと・ひかる)/慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 准教授
1996年慶應義塾大学法学部卒。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。主著『キーパーソン・マーケティング: なぜ、あの人のクチコミは影響力があるのか』(東洋経済新報社、2014年)。

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慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 准教授 山本 晶