”ライク・エコノミー”を生きる消費者

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最近人気のカフェやレストラン,お菓子,観光スポットは,SNS上で多くの「いいね!」を獲得したことで火がついたものが少なくありません。たくさんのいいねが付いた投稿は,多くの人々によって閲覧され,彼らの購買行動に影響を及ぼしていきます。いいねは社会的な好ましさのシグナルとして機能するためです。さらには,「この製品の投稿はいいねされやすい」ということになれば,その製品の投稿が増え,その投稿が多くのいいねを集めるという,人気が人気を呼ぶサイクルに入っていきます。こうして多くのいいねを集めた製品は,SNSの外にも出ていきます。フェイス・トゥ・フェイスの会話で話題にされたり,“ネットで話題の”という枕詞とともにマスメディアで取り上げられたりします。いまの消費者は,いいねが購買を生み出していく“ライク・エコノミー”を生きています。

ここでは,”ライク・エコノミー”の背景とその境界について考えていきます。また,いいねに関する実証研究の結果を紹介しようと思います。

いいねと消費をつなぐもの

「有名店のロールケーキでなくても,コンビニのロールケーキも十分おいしい。」製品間の機能面での差が小さくなり,現在,コモディティ化と呼ばれる状況に陥っています。コモディティ化は消費者行動に小さくない変化をもたらしました。コモディティ化以前は,消費者が何を買うかを決める際,機能が主な選択基準になっていました。しかし,どの製品も機能面でほとんど差はないとなると,機能の良し悪しで購買する製品を選ぶことは難しくなります。機能以外の最もわかりやすい選択基準は価格です。機能面で差がないなら安い方がいいと考えるのは自然です。
コモディティ化の下では価格以外で競合製品との違いを作れないかと言えば,そんなことはありません。情緒的価値と社会的価値で作ることができます。ここでは深く立ち入りませんが,情緒的価値は製品を使うことによるポジティブな心理的変化です。社会的価値は他者から受容されたり,承認されたり,尊敬されたりといった,製品使用によって得られるポジティブな社会的変化です。いいねは製品が持つ社会的価値のシグナルとして機能します。つまり,消費者はいいねが付いていない製品よりも,多くのいいねを獲得した製品を使った方が,他者から受容・承認・尊敬されやすいだろうと期待します。
消費者が機能を選択の基準として用いるならば,いいねが購買を生み出すことはありません。社会的価値が選択基準として用いられ,いいねは製品の社会的価値のシグナルとして機能するからこそ,たくさんのいいねを集めた製品が購買されやすくなるのです。
このことからわかるように,いいねが購買を促進するのは,重要度の低い購買,いわば“軽い”購買に限られます。機能面の差が小さくなっても,その小さな機能的差異にまでこだわる“重い”購買場面では,いいねは製品選択を左右しません。ライク・エコノミーの境界,つまり,いいね→購買が成立するか,しないかは,購買重要性によって決まります。

何がいいねを生み出すか?

“軽い”購買に限られるとはいえ,いいねは購買を生み出します。だとすると,マーケティング上の課題はいかにして自社製品へのいいねを増やすかです。この問いに答えるためには,いいねが生まれるメカニズムについての十分な理解が求められます。ここでは,そのための第一歩として行った,どんな投稿が多くのいいねを獲得しやすいかについての実証研究の結果を紹介します。

1. SNS上では本文は短い方がいいねされやすい

私たちがSNSを利用するのは,友達とのコミュニケーションを楽しむためです。いい買い物がしたいときはSNSではなく,「食べログ」や「TripAdvisor」といったクチコミサイトにアクセスします。いいねボタン,あるいはこれに類似したボタンはクチコミサイトにも備えられています。SNSとクチコミサイトのそれぞれについて,投稿の本文の長さといいねの数との関係を調べた結果,SNSについては本文が短い方が,クチコミサイトでは本文が長い方が,多くのいいねを獲得する傾向がありました。この結果は前述のような目的の違いを反映していると考えられます。クチコミサイトにアクセスした消費者は,いい買い物をするために真剣に情報探索をするため,長い本文を好みます。一方,SNSにアクセスするのは楽しむためです。真剣に投稿を読もうとするわけではありませんから,短い本文の方が好まれます。

2. ポジティブな投稿の方がいいねされやすい

これはSNSとクチコミサイトの両方に共通することです。SNSは楽しむためのものですから,ポジディブな投稿が多くのいいねを集めます。そもそも,SNSにはネガティブな投稿はそう多くありません。クチコミサイトはいい買い物をするための情報探索の場です。ポジティブな投稿だけでなく,ネガティブな情報もいい買い物をするために役立つ(中間の投稿が最も役に立たない)ように見えます。しかしながら,分析結果によると,クチコミサイトについてもポジティブな投稿ほど多くのいいねを獲得する傾向にありました。実務的にはネガティブなクチコミは脅威とされてきましたが,この結果を見る限り,自社製品に関するネガティブな投稿が多くのいいねを集め,多くの人々に閲覧され,結果として売上げに深刻なダメージを与えるというストーリーは起こりにくいようです。

3. いいねされやすいスポットがある

場所についての投稿を分析した結果によると,観光名所の方が,飲食店,温泉,ホテル・旅館よりも多くのいいねを獲得します。ただし,個々の観光名所や個々の飲食店のいいねされやすさには,大きなばらつきがあります。また,ひとつの投稿に複数の写真を含められるSNSでは,写真が多い投稿の方がいいねが付きやすい傾向があります。
「何がいいねを生み出すか」というテーマは,消費者行動というよりも生活者行動に注目したテーマですが,現代の消費者たちを理解し,彼らに適応した新しいマーケティングを作るための鍵を握っています。

「進化する消費者行動とマーケティング」シリーズについて

コミュニケーション技術の進化やモバイルデバイスの浸透によって、生活者の暮らしは大きく変化してきました。そして、マーケティングにおいても生活者の新たな行動パターンの把握や、新しいコミュニケーションの創出など様々な進化が求められています。当シリーズでは、消費者行動研究に携わる研究者の方々に最新の研究成果をご紹介いただきます。

   <第4回執筆者>

斉藤嘉一(さいとう・かいち)/明治学院大学 経済学部 教授
1995年,明治学院大学経済学部卒。学習院大学経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。主著『ネットワークと消費者行動』(千倉書房・2015年・日本商業学会奨励賞受賞図書)。

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明治学院大学 経済学部 教授 斉藤 嘉一