視覚障害者の購買行動におけるコミュニケーションを考える

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生活者が円滑にコミュニケーションできる環境は、全ての人が積極的に社会に参加・貢献する共生社会の実現に欠かせないものです。しかし実際には、健常者が障害者のことをよく知らないがために適切な応対ができなかったり、障害者の人の利用が想定されていない仕組みが社会に溢れていたりと、障害者と健常者、社会の間で十分なコミュニケーションが取れていないことが原因の社会課題が数多く見られます。
購買行動における事象を例に、障害者の日常生活のなかでどのようなコミュニケーションに関わる問題が起こっているのか、どのような解決が求められるのか。ご自身も視覚に障害を持つ株式会社図書館総合研究所 植村氏にご意見をいただきました。


植村要(うえむら かなめ)
1968年、岐阜県生まれ。1975年にスティーブンス・ジョンソン症候群で失明。岐阜県立岐阜盲学校を卒業後、病院リハビリ勤務。その後、2014年に立命館大学大学院先端総合学術研究科を修了(博士、学術)。同年4月から立命館グローバル・イノベーション研究機構勤務を経て、2016年4月から株式会社図書館総合研究所に勤務。専攻は、障害学、社会学。電子書籍や電子図書館を中心に、文字情報への視覚障害者のアクセシビリティを確保する体制整備について研究している。

ターゲティングと意図せざる排除

企業は商品を市場に投入するとき、ターゲティングを行って、標的にした市場に満足をもたらすように配慮します。ある市場を標的にすることは、裏面でそれ以外の市場を排除することにもなります。つまり、ターゲティングとは、傾斜的配慮を経済合理性によって正当化する行為ともいえます。
配慮に関連して、静岡県立大学教授で社会学者の石川准は、著書※1のなかで、障害者を特別な配慮が必要な存在だとする社会通念に異を唱えています。石川は、健常者に配慮がなくても不便を生じないのは既に配慮されているからであり、障害者に配慮が必要なのは、いまだ配慮されていないために不便が発生しているからだといいます。つまり、配慮の平等という観点からいうならば、視覚障害者の視力が少ないのは、その人の身体に帰属する事実だとしても、発生する不便は、配慮の対象から阻害されることによって生じる人と物との間のディスコミュニケーションだということになります。
だとすると障害者に生じる不便は、裏面であるとはいえターゲティングの結果として発生しているということになるのでしょうか? そうではありません。障害があることによって、企業が意図したところではない形で商品の標的市場から排除されてしまった場合に、不便と認識されるのです。
意図せざる障害者の排除が起こってしまうとき、企業はさまざまな配慮によってその解消に努めています。それらを配慮の平等という観点から考えると、以下のようなことがいえそうです。

ダブルバインドな個別対応

まず、店頭で商品を選ぶ場面を考えてみましょう。企業はパッケージのデザイン、陳列棚での配置など、各商品がターゲットにしている購買層の関心を引き、手に取りやすいように配慮します。ところが、標的市場を絞るのとは別の要因、例えば視力が少ないなどの一定の身体的特徴を持つ人が、この配慮から漏れてしまうことがあります。そこでメーカーは、瓶や缶に点字を書いて視覚障害者に判別できるようにしたり、小売店は、来店した視覚障害がある客に店員が付き添って、買い物の手伝いをしたりなどの特別な配慮をします。
こうしたサービスによって、視覚障害者が一人で店頭にいっても、商品とのコミュニケーションが成立し、不便なく買い物をすることができます。しかし、それが特別な配慮である以上、メーカーや小売店にとっては追加コストになります。対象である視覚障害者にも、自分が企業に負荷をかけているというメタメッセージは届いています。このように特別な配慮は、利便性向上とともに遠慮行動を引き出すというダブルバインドな状況を作り出すのです。

インターフェイスによって成立するコミュニケーション

ダブルバインドな状況を作ることなく配慮を平等にする一案として、商品と人との間にいわばインターフェイスを介在させることで、コミュニケーションを成立させる方法が考えられます。Amazonショッピングアプリのスキャン検索は、スマートフォンのカメラで商品を写すと、自動でネット検索して、その商品名や価格などを表示する機能です。スマートフォンの画面拡大や音声読み上げ機能を併用することで、視覚障害があっても、検索結果を読み、商品についての情報を得ることができます。
Amazonショッピングアプリは、障害者用に開発されたものではないため、企業にとっては追加コストは発生しません。利用する視覚障害者にとっても、遠慮行動を引き起こす契機は含まれていません。問題のひとつは、視覚障害者が支援機能で操作するには、ある程度のICTリテラシーを要するため、健常者の場合以上にデジタルデバイドに繋がりやすいことです。
こうしたインターフェイスをデジタルデバイドに繋げないために、企業にはできることがあります。まず、アプリに対してはスマートフォンの支援機能で確実に操作できるように、JIS X 8341-3:2016に準拠したユニバーサルなデザインにすることです。また、視覚障害者に対しては、Appleストアが定期的に開催しているように、ICTリテラシー向上のための講習会を開催するなどがありえます。
また別の問題として、オリジナル商品など一部の商品は、検索してもヒットしません。おそらくはAmazonによる取り扱いがない商品は、ヒットしないのでしょう。これに対して、オリジナル商品を含む全商品を登録したサイトを障害者のために別途設置するという対応策も考えられます。しかし、これでは前述の個別対応と同様に追加コストが発生します。対応策としては、すべての人が利用するサービスとして設計し、同じものをスマートフォンの支援機能でも不便なく利用できるという発想が、適切な方向でしょう。

決済場面における「ちぇっ」に抗して

商品を選んだら、次は会計です。近年では、会計でICカードやクレジットカードを使用することが増えています。スーパーなどの日常的な買い物をする場面でカードがあたりまえに使えるようになったのは、それほど遠い昔ではありません。それまでは誰もが、ときには落とした小銭を追いかけたりしながら、現金で支払っていました。カードの普及は、手際良い支払いという形で消費者の利便性に貢献し、会計における客一人当たりの所要時間の短縮という形で小売店にも貢献しました。
カードでの支払いの問題は、いくら支払われたかを、晴眼者※2であればレシートなどを見ることで確認できますが、視覚障害者には困難だということです。現金で支払えば、このリスクは回避できます。しかし、現金を出そうとして手間取ると、後ろに並ぶ人に「ちぇっ」と迷惑がられることになります。このようにカードは、利便性を向上させるとともに、会計に要する時間に対する人々の許容度を下げることにもなりました。
また、「ちぇっ」を避けたいのは健常者も同じでしょうし、そのためにカードを使用することがあるのも同じでしょう。異なるのは、会計に間違いがあったときに訂正する機会の有無です。金額が間違っていた場合、晴眼者であればレシートなどを見てその場で訂正する機会があり、不利益は発生しません。しかし、視覚障害者にはWeb上で確認する方法などがあるとはいうものの、事実上の訂正の機会が乏しく、不利益につながります。

まとめ

購買行動における視覚障害者の不便を解消するために、個別対応をすることは、利便性が向上するのは確かだとしても、ダブルバインドな状況を作り出します。商品と人との間にインターフェイスを介在させることで、コミュニケーションを成立させる方法も考えられます。そのインターフェイスは、すべての人の利用を想定して開発してこそ平等な配慮に繋がります。また、技術は配慮の平等を実現する契機になる一方で、逸脱に対する許容度を低下させるという心理的障壁も作りだしました。技術の開発と気持ちの余裕がセットになってはじめて、不便の少ない快適な社会が実現するのでしょう。

※1 『見えないものと見えるもの―社交とアシストの障害学』(医学書院、2004年発行)。著者、石川准。静岡県立大学国際関係学部国際関係学科教授、内閣府障害者政策委員会委員長、国連障害者権利委員会委員。博士(社会学)。16歳のときに網膜剥離で失明。全盲で初の東京大学合格者。専門は、社会学、支援工学、障害学。
※2 「視覚障害者」の反意語として用いる。視力などの視機能がいわゆる正常な状態にある者を指していう。


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株式会社図書館総合研究所 植村 要