DNP 大日本印刷
大乗寺 客殿障壁画デジタル再製画事業

制作ドキュメンタリー

デジタル再製画
伝匠美の歴史ここにあり

大乗寺のデジタル再製画事業始動から約4年、
技術開発から約10年。その間、匠プロジェクトは
従来の複製画では不可能であった印刷技術に
挑んできた。諦めることなく粘り強く重ねてきた
技術開発の過程は、伝匠美の歴史でもある。

郭子儀テスト制作

執念がうみだした技術の数々

 大乗寺の国指定重要文化財円山派障壁画に関する保存事業が立ち上がった1999年のこと。
大乗寺の依頼を受け、手始めに多面的な原本・保管環境の調査・研究を経て、郭子儀の間の一部をテスト制作することになった。同時に専門のプロジェクトチームが立ち上がり、後に現在の匠プロジェクトと命名される。しかし、このときは誰もがここまで多くの試練が待ち受けているとは想像していなかった。

当初からの課題は「和紙の風合い」、「岩絵具の表情」、「純金箔を使う」といった点を踏まえた表現であった。観る側からは当然ともいえる要望であったが、そこには印刷の課題が多く潜んでいた。それらの点をクリアするための課題が浮かび上がってきた。
まず和紙の風合いを表現することと色調表現は相反することであった。それは、襖に使われている和紙はインキを吸い込んでしまい、色が沈んでしまうからである。そこで我々は、和紙職人と話し合い、テストを繰り返しながらデジタル再製画専用和紙を開発した。

金泊剥離強度テスト

 次に、金箔上への印刷は工程上の不具合から従来は不可能とされてきた。「金箔に印刷することへのタブー」に立ち向かうために、まずは金箔の選定から行った。その上で、和紙・インキ・接着用材・印刷機械との相性など数年に及び印刷適正テスト、強度確認のための金箔剥離強度テストを繰り返した。その特殊な技術は、その後特許へとつながることになる。

特殊インキ評価

 さらに、インキにおいても新たな開発を要した。郭子儀の間に用いられている岩絵具の色彩は、通常のインキでは表現できない。約6年をかけて関連会社の協力を経て特殊インキを開発することになるが、色再現性・耐久性を兼ね備えたものを完成できた。

多重印刷評価

 孔雀の間と山水の間は金地に墨で描かれた作品である。一目見ると色味が少ないと思われがちであるが、墨はあらゆる色彩を含んだ完全色であり表現が最も困難である。特に、応挙は金地との関係性を計算しながら松煙墨・油煙墨など墨の色調・階調・筆致・筆勢を巧みに使い分けている。ほんの僅かなグレースケールの扱い、印刷の狂いがあると全く別の作品になってしまうのである。さらに、インキをはじく特性を持つ金箔である。通常印刷では原本のような墨の濃度が表現できない。これらを解決するために匠プロジェクトはデジタル再製画「伝匠美」専用機システムを開発した。

芸術領域への挑戦

監修者との協働

 応挙が手がけた荘厳な空間を現代に再構築するにあたって、具体的な制作段階からは、愛知県立芸術大学名誉教授・画家吉本弘先生が制作・総監修をされることになった。芸術家としての力量、色彩理論、コンピューターグラフィックスへの造詣、仏教、応挙への理解、ものづくりへの情熱…いずれの面においても長けた吉本先生との協慟。それは単なる複製画(レプリカ)ではなく

「芸術としての価値を持つ」デジタル再製画という未知なる領域に足を踏み入れることであった。応挙の意図を汲み取るという創造性まで深く求められたのである。技術面においては、特殊インキの開発や特殊画像修正などが吉本先生との協慟から生まれた。

引手表装仕立

 伝匠美は「工芸品」ではなく、「デジタル再製画」である。現代の最先端デジタル技術で生み出したデジタル再製画は和紙、金箔、表装・仕立といった日本の伝統的技との結実でもある。

記者発表

我々の使命

 2009年4月1日、大乗寺客殿に納められたデジタル再製画事業に関する記者発表が行われた。しかし、我々の仕事は終わりではない。我々の新しい使命は、先人たちが継承してくれた遺産である原本と同様に、デジタル再製画が“文化財の保存と次世代への継承”の目的を担い続けるよう見守ることである。