公益財団法人DNP文化振興財団

English

Menu

閉じる

今月の一点

DNP文化振興財団所蔵の作品から、グラフィックデザインとグラフィックアートの名作を毎月一点ご紹介します。

田中一光
Music Today ‘85

1985年
オフセット
103.0×72.8 cm

Ikko Tanaka
Music Today ‘85
©Ikko Tanaka, 2016

 今月は、田中一光(1930-2002)の「Music Today ‘85」(1985年)をご紹介します。
 田中一光はグラフィックデザイナーにとどまらずアートディレクター、クリエイティブディレクターとして幅広く活躍するいっぽう、ポスター作品においては、日本の伝統的美意識と西欧のモダンデザインの融合や、タイポグラフィ表現の可能性を追求してきたことでも知られています。
 この作品は、1973年に西武劇場(現・PARCO劇場)のこけら落とし公演として始まった現代音楽公演「Music Today(今日の音楽)」の第13回公演のポスターです。
 「Music Today」は作曲家・武満徹の企画・構成・監修による現代音楽祭です。国内外の新しい音楽を広く紹介し、1992年、第20回まで開催されました。当時セゾングループの文化戦略は、「Music Today」以外にも西武美術館で積極的に現代美術を紹介するなど、最先端文化の発信源になり、一企業の文化事業の枠を超え社会にも大きな影響を与えました。
 田中はセゾングループと深い関わりを持っていました。単なるグラフィックデザイナーとしての活動にとどまらず、クリエイティブディレクターとして多数の新規プロジェクトに参画し、広告展開はもとより、店舗計画や商品開発など多方面でその力を発揮しました。以後の田中自身の活動領域も大きく広げることになったこのセゾングループとの関わりは、西武劇場のグラフィックデザイン全般を担当したことから始まりました。
 掲載作品もそのような関係の中から生まれた1点です。目を惹く黒い流水の表現は、尾形光琳作「光琳かるた」の図案から取られています。20世紀の琳派とも称される田中は、琳派をはじめとした日本美術に深い関心を抱き、そこからインスパイアを受けた作品を多く残しています。
 本作では元となった作品の伝統的な美を自身の中に吸収し、現代的なデザインへと落とし込んでいます。水の流れのふくよかな曲線は、音楽の旋律とも重なり合い、流水にちりばめられた記号のような形態は音符の流れのようです。自身もジャズなどのレコードを多数所蔵していた音楽好きの田中らしい作品といえます。
 琳派と音楽という本人が愛したモチーフをひとつの画面で同時に表現したこの作品は、現代音楽祭という田中にふさわしい舞台の中で花開いた作品です。
 本作はCCGA現代グラフィックアートセンターにて6月5日(日)まで開催中の「グラフィックとミュージック」展に出品されています。是非ご覧ください。