Artscapeicon
logo
Archive
椹木野衣

 

icon8月20日(木)
●ハーモニー・コリン監督作品「ガンモ」
 (映画)、
 10/24-12/4 シネマライズにて
 ロードショー公開

ラリー・クラークの「キッズ」で共同脚本をこなしたハーモニーの監督第一作。アメリカの田舎で繰り広げられる狂った日常を、ダイアン・アーバスを思わせる筆致で淡々と描いている。個人的には僕の学生時代のアイドルで当時酷評されたヘルツォークの影響を語るハーモニーに共感。

 
icon9月12日(土)
●東松照明氏面会

雑誌『エスクァイア』の取材で、戦後における日本の写真の歩みの生き証人、東松照明氏にはじめて、お会いすることができた。数年前に心臓の手術をなさったとのことだったが、いまではお元気そう。なによりもここのところの連作写真はいずれも素晴らしく、とりわけ「キャラクターP」では圧倒的な世界を展開。きわまってアシッドな世界は、バロウズのショットガン・ペインティングを想起させる。そういわれてみれば東松氏、どことなくバロウズっぽい? 来年には写真美術館で多木浩二氏と組んで回顧展とのこと。

 
icon9月16日(水)〜17日(木)
●1998年度アーバナート展、
 総合審査会(パルコ)

昨年に続いて二度目の参加。「アーバナート」についてはファイアンアートの側からいろいろいうひともいるけど、日本のようなそもそもファインアートの文脈があるんだかないんだかわかんない場所では、なんでもありの異種混合の場である「アーバナート」には、むしろそれゆえに一歩抜きん出た才能を生み出す可能性があると思う。とはいえ、はやりに流される向きも依然として少なくなく、なかでも今年は全体に文字を使った作品が目立ったが、これはやや遅れたエヴァ効果? いつもながら最高賞、パルコ賞の選考は大荒に荒れたが、これもジャンルを異にする審査員同士が顔をあわせるアーバナートならでは。

アーバナート展#7
11/13-12/2 渋谷パルコ

 
icon9月18日(金)
●村上隆展 9/18-10/16
 小山富美夫ギャラリー

日本での個展は二年ぶり。それにしてもロンサムカウボーイはすごい。サブカルチャーの文脈(この場合はフィギュア)をアートのフィールドに適当に引用してお茶を濁す作家が多い中、アートとしての評価を得ると同時に、フィギュアの世界にも影響を返すことのできる村上の作品は希有なものであり、その作業行程は独自のオタク人脈とそれをアシストするグループワークに支えられている。オープニングで顔を合わせた楠見氏が、「村上さんってティム・ロリンズ&キッズ・オブ・サヴァイヴァルを思わせる」と言ってたけど、それには納得。

 
icon9月22日(火)
●ジェームズ・タレル展
 8/13-10/18 世田谷美術館

個人的には、国内の展示としては水戸芸術館に続いて二回目の体験。空間の導線はなかなかよかったように思う。闇の中で進路そのものを、わずかばかりの光をたよりに見出していくのは、いかにもタレル的な経験と言える。この作家は若い人にも人気だが、それは90年代以降のレイヴ、アシッド・リヴァイヴァルの文脈で読める部分があるからだろう。別にまちがってはいないが、けれども、タレルの作品が70年代のポスト・ミニマリズムの文脈とどう繋がるのかをおさえておかないと、時と場合によってはただのチルアウトルームに?

 
icon9月24日(木)
●多摩美術大学大学院
 デザイン科講評会

昨年から講座を持っている多摩美の大学院デザイン科は、半期に一度講評会を持っており、一日かけて伊藤俊治氏や港千尋氏らと一緒に院生の作品をみてまわる。デザイン科といっても、音楽あり、漫画あり、写真あり、建築あり、パフォーマンスあり、CGあり、フィルムありで、ある意味では現在のアートの状況に即した人材が集まっているともいえる。これは学部で教えていても痛感するが、サブカルチャーもそろそろ「教養」として扱うべき時が来ているように思う。

 
icon9月28日(月)
●篠田太郎「リザード」展
 9/7-10/3
 レントゲンクンストラウム

名古屋での展示に続いて早くも新作展。あいかわらずの作品の超精密仕上げには驚嘆。あえて難を言えば、いつもながらの想像力で語られる篠田のコンセプトが、かならずしも作品にうまく反映されていないように思える点。彼とかわす会話の濃密さを考えると、作品それ自体ではやや舌足らずか?

●「混沌を撃て
 ――エレクトロニックイメージの時代展」 
 9/17-10/4 スパイラル

いまやどこに行ってもかならず出てくるのがビデオを使った作品。本展はそのなかでもここのところ注目されている作家をセレクションしており、なかなか見ごたえがある。けれども、ことアートというかせをはずして映像一般として見るということになると、それほどきわだったものがそこにあるのかはやや疑問。作品の持つ適度な毒がスパイラルという「知的」な空間に妙にマッチしており、変におしゃれに見えかねない。客もそういう適度な毒をカフェに座って堪能している感じ、とはいえピピロッティ・リストは楽しめたが。

●真島竜男展
 9/24-10/24 ナガミネプロジェクツ 

レントゲン芸術研究所に在籍していた長嶺徹氏が新たに銀座に開いたスペースの二回目の個展。緻密であることによって外見上の破たんにまで至っているかに見える彼の世界(=過剰に悟性的といっても同じ)が十二分に発揮された展示となっている。ロートレアモンを思わせる「サボテンエンジン」もよいが、自作自演の「美人丸」に注目したい。

 
icon9月29日(火)
●幻のダダカンビデオ
 (竹熊健太郎氏宅)

『美術手帖』のマンガ特集の対談のため、吉祥寺の自宅でひさびさに竹熊氏にお会いした。電話では聞いていたが、またまた仙台でダダカン氏に面会したとこのこと。ダダカンとは通称で、本名は糸井貫二。読売アンパンの頃から皆に一目置かれていた、禅とダダが融合した「前衛の日本」のひとつの極北。全裸パフォーマンスは健在で、竹熊氏の訪問にいきなり全裸(といっても、ペニスの先端だけ卵のカラをはめこんである)で玄関口にあらわれる様は圧巻。

 
icon10月2日(金)
●森山大道展
 10/2-10/29 パルコギャラリー

「コンポジット」の発行で知られる報雅堂の菅付氏から森山大道の写真集のテクストを依頼され、あわせて開かれたパルコギャラリーでの個展のオープニングで、東松照明氏に続いて森山大道氏にもはじめてお目にかかることができた。それにしても、その硬質なリリシズムとスピード感にはあらためて圧倒される。表現とか描写とかいう言葉ではとうていとらえられない、まさしく写真、というほかない。印刷物やメディアを直接、再撮影するメタ写真の試みも、リチャード・プリンスに10年先駆けている。

 
icon10月4日(日)
●バベルの図書館展 9/18-10/25 
 インターコミュニケーションセンター

現在のコンピュータ環境の持つ膨大なデータ管理能力を、単なる機械的処理能力としてではなく、無限の創出能力をもつバベルの図書館に見立てるコンセプトはなるほど理解できるし、個々の作品も単体としてはそれなりに楽しめるものもあるものの、それが全体として「バベルの図書館」と呼びうるものになっているかといえば大いに疑問。「バベルの」というよりも、ありがちな図書館を思わせる空間の構成も、あえていえば美しいとはいいがたいように思う。

Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1998