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アートピクニック ON THE WEB 3 廣瀬智央

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――作品はコンセプトによって形態やメディアが変わるようですが、特に使い勝手のよい材料とかメディアとかありますか? 写真は本職(?)でもある訳ですが。

ローテクのほうに魅力を感じます。まだまだ可能性があると思うから。何でもOK。写真も道具のひとつですよね。写真ももう少し突き詰めていきたいと思っています。

――空の写真を撮り続けていますが、いまも続いてますか? なぜ空だったのでしょうか? 地平線を入れないのは何故ですか?

細々と撮り続けています。たまたま見上げた空と移動中の飛行機から見た空の変化の多様性に驚いたから。地平線を入れた写真もあります。『Viaggio 空をめぐる旅』(TBSブリタニカ、2000)という本では見上げるか見下げる空に絞ったので、地平線の空をあえて入れませんでした。微妙な違いを見ることで、世界に対する認識のスタイルを再編成することができる可能性があると思います。

――旅と作品が密接な関係にあるようですが、それはどうしてでしょうか?

旅は楽しいし、いつも刺激的です。違った環境や異質な場所に自分が行き、異なる時間や空間、文化やそこで起こるズレで、何でもないと思ってたことが凄いことだったりと世界が変わりますよね。異質の世界を理解することで、自分の固定された見方やステレオタイプな捉え方を実感して、現実は違ったものでありえるんだということになります。以前、絨毯を創りにイランのペルシャ湾近くの超山奥まで飛行機とジープを延々と乗り継いで行ったことがあるんです。ほんとにテントで暮らす遊牧民がたくさんいて、カランカランと羊たちがいたりして、砂漠の荒野に沈みゆく夕日を見ながら、なんかずいぶんと凄い所にきてしまったなぁと感慨に耽っていたんです。その晩、絨毯織の元締めの家に着いて、歓迎夕食会を開いてくれたんです。村ではずいぶんと金持ちで食事が終わると、なんとSONYのビデオプレーヤーで密輸したアメリカのイラン人番組を自慢げに見せてくれるのです。メド・イン・ジャパン万歳! といった具合に。なんでこんなものがここにあるの? と、かなり呆気に取られて、さっきまでの不毛の地に来ているという感慨深い気分も吹っ飛んでしまいました。
それからシリン・ネシャットじゃないけど、イスラム世界は男女の差別があって、女性は男性のみの客人の宴会には絶対に出て来れないとか、凄まじいのです。夕食会で出された食事は、こんな砂漠の真中なのにかなり美味しいものが出て、客人用の特別な夕食ということを抜きにしても、良い食材を食べているのには驚きました。さらに、かなりの量が出てきて、これを全部食べなくてはいけないのかなぁと不安に思っていたら、逆に客人は出されたものを全部食べてはいけないというのです。わざと残して、その残りを女性や子供たちが後で食べるというシステムになっていると。と、いうわけで旅の体験が、新しい現実を捉えるきっかけになっているように、まだまだアートの可能性を信じています。


――昨年末から今年にかけて、広島市現代美術館で比較的大きな展覧会(「2001」)を行ないましたがいかがでしたか? 立体作品やインスタレーションなど多様な作品も増えているようですが、最近の作品について教えて下さい。

いろいろな都合で準備期間が4日間しかなったので作品のセッティングがとても大変でした。ほとんど合宿状態でした。幸い優秀なアシスタントが助けてくれたおかげでギリギリで展示が間に合いました。ひとつの展覧会をつくっていくにあたって、担当キュレーターとコミュニケーションをとり、展覧会を共に実現させていくプロセスやそれまでのテンションが楽しいです。
最近は展覧会ごとに新作インスタレーションを依頼されるので、新作中心に作品を発表していますが、日本で発表していない作品や旅芸人の巡業みたいに同じ作品を再展示したいとも思います。手仕事的な彫刻的な作品も作っていて、心理的なバランスをとっています。広島市現代美術館で発表したインスタレーション作品など多くの作品は、他の次元に置き換えることで、新たなものが見えるようにするための彫刻であり装置であるのかもしれないと思います。


――本展のカタログのなかでジャンフランコ・マラニェッロ(シエナ現代美術館キュレーター)が、廣瀬さんの作品を体験するためには片目を巨視的にもう一方を微視的にする必要があると言ってますが、この2つの次元の狭間にあるものは何でしょうか? それはまた、ミクロ/マクロコスモスといった空間的広がりとは違うものでしょうか?

2つの次元の狭間にあるもの、それは可動的でダイナミックな運動みたいなもので、つねに生成している状態であるということだと思います。つねに生成している状態とは、旅するように両方の極のあいだを移動することによって、どちらかに安住して動脈硬化を起してしまうような固定した考え方から逃れていくことだと思います。こうした2つの次元の狭間に現われるイメージというのはまず見えにくいし、だからそうしたイメージをどう見せていくのかがポイントなんでしょうが、かなり難しいと思います。両極にあるどちらかの世界を作品化するほうが、見る人にはわかりやすいんですよね。日本とイタリアや他の国を動いている、今の僕のポジションに重なってくるんですが……。ミクロ的な空間の広がりは実はマクロコスモスであるという永遠のパラドックスと、2つの次元の狭間というダイナミックな運動の関係は、同じかなと思います。

――ミラノで「ミクロボエロティコ」というノンプロフィット・スペースをやっていたそうですが、具体的にはどんな活動ですか? 今も続けているのですか?

ミラノは、コマーシャル・ギャラリー中心で、あまり若者が発表するスペースがありません。そこで、若手作家と若手批評家などが集まってスペース運営と展覧会企画を1999年に立ち上げました。200m2もあるBIGなスペースで年間5本あほど企画したのですが、これからという時に運営費の問題と仲間の意見が合わなくなり、スペースのみ1年でクローズしました。その後、企画のみを行なう活動に移っています。やはり自前のスペースがないと活動がスローダウンしてしまいます。

――ミラノにいるとヴェネツィア・ビエンナーレに行く機会が多いと思いますが。実際に廣瀬さんとお会いしたのも、2、3回前のヴェネツィア・ビエンナーレでしたね。廣瀬流ヴェネツィア・ビエンナーレ攻略方を教えてもらえませんか?

ここ数回ず〜っと通っていますが、ヴェネツィア・ビエンナーレの特徴はアート関係者の情報交換の場であり社交場であること。一種のアートのお祭りだと思います。世界を舞台に活躍しようとするアート関係者にとっては、大変重要な行事なのだと思います。なおかつ美味しいものを食べて、アートが見られて、世界中のアート関係の友だちに一度に会えるまたとない機会。他の国際展に比べてお祭り色が強い気がします。そうした意味では、華やかなヴェルニサージュに展覧会を見に行くのが一番よいかと思います。アーティストならやはり展覧会に参加して発表しないと面白くないでしよう。

――すっかり、楽しい話と、ワインと美味しい料理で満足してしまいました。それでは、トスカーナの温泉でも入りましょう。ありがとうございました。



[かとう えみこ 美術批評・キュレーター]

   

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