logo

イコム大会レポート2 ..

美術館教育研究会


..


イコム大会


 前回より「美術館教育研究」でも随時掲載していた海外の動向レポートとして、先日スペインで開催されたイコム大会をとりあげています。3年に一度世界中の博物館関係者が集まるこの大会では、様々な会議が開催されるほか、各国の博物館関係資料なども入手でき、世界の博物館の動向を知るにはまたとない機会です。第二回目は、CECAの会議で筆者が耳にした新しい言葉、constructivism(構成主義)について報告します。

..


構成主義


 前回予告したように、今回は現在欧米の博物館教育関係者の間で注目されている構成主義をとりあげる。もともとこの理論は、教育心理学の分野で登場してきたものである。日本でも注目されているようで、1980年代にはいると、教育は知識そのものを伝えることには限界があり、学習者が自分で問題を解き、という考え方が主流になったという。すなわちこの考え方が構成主義に基づくものなのである。

 構成主義と言っても実はいくつかの立場があるようだ。それらを整理分類する方法も研究者によって異なっているという。また、constructivismのほかにconstructionismを使用することもあるらしく、その点でも混乱とは言わないまでも不統一の感がある。ここではこの理論を博物館教育に持ち込んだアメリカのレスリー大学教授ジョージ・ハインの説くところにしたがって見てみる。

 構成主義の考え方によれば、学習者が彼ら自身で知識を組み立てるのである。個々の学習者が学習にともなってそれぞれ意味を構築してゆく。意味を構築するということはすなわち学習するということである。学習者や彼らが属するコミュニティーの経験に由来する意味から独立した知識はない。そもそも学習者の外部に独立してあるような知識は存在しない。我々が学習しつつ我々自身で組み立てて行く知識が存在するのみである。学習とは物事の“真実”の性質を理解するのではなく、我々が知覚する数々の事柄の説明を自分で行い、個人的・社会的な意味を組み立てることである。ここから導き出される学習とは次のようなものである。

 ひとは学習することにより、よりよくを学ぶ方法を会得する。つまり学習は意味を構成することと意味の体系を構成する事から成るものである。意味を構成するというのはメンタルな行為であり、言語を必要とするものである。学習は社会的なものである。デューイが指摘したように、従来の教育は学習者を社会的な相互作用から切り離し、学習を学習者と学習することがらの一対一の関係とみるが、構成主義では会話、他者との相互作用などを重視する。学習は文脈的である。われわれは孤立した事実を学ぶのではなく、他に知っている事柄、信念、偏見、恐れなどとの関係の中で学習するのである。学習するためには知識が必要である。学習は時間を要する。モチベーションが学習のキーワードである。

 以上、構成主義についてハイン氏の説をダイジェストしてみたが、ではこの理論はどのように博物館教育に応用されるのだろうか。次回はそれを紹介する。(河野哲郎)

 

..
copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2001