logo

FOCUS=アート・アニメーション
原久子
.

なににも属さない光と影

気になる作品やアーティストを考えてゆくと、映像作品もつくっていることが多いこと、そして、特に最近の傾向として20代の作家たちがアニメーション作品をつくっている場合が多いことに改めて驚く。束芋、伊藤存+青木陵子、カワイ+オカムラ、モンノカズエ+ナガタタケシなどいずれも関西出身のアーティストやアーティスト・ユニットだが、それぞれ違った個性をもったアニメーションを含む作品を発表している。彼らは自らをアニメーション作家とは認識していないし、それだけをつくっているわけではない。
彼らがつくるものは、いわゆる世間でいうアニメおたくや、世界中どこに行ってもテレビで上映される日本製のアニメーションの流れとはまったく異なる。とはいえ、彼らは生まれたときから当然のようにアニメとともに成長してきたという事実は拭えない。アーティストたちに聞いてみるとみんな各々に若干答え方は違うが、他の人と変わらないアニメとの付き合い方をしてきている。

束芋

今とりわけ注目されるのが束芋(1975年生)だろう。昨年度のキリンコンテンポラリーアワードの最優秀作品賞を受賞し、この秋に行なった受賞記念個展(KPOキリンプラザ大阪、10月21日〜11月12日)では新作2点、旧作2点のビデオ・インスタレーションを発表している。これまでの作品はすべて現代の「にっぽん」をテーマにしている。それも、彼女自身が肌で感じた日本というより、彼女が触れるマスメディアが伝えるステレオタイプの「日本像」だ。ブラックな笑いを各所にちりばめ、浮世絵調の色とゆっくりしたテンポですすむ作品の完成度は秀逸である。最新作の「にっぽんの湯屋(男湯)」では、実物大の曇りガラスに「男」と書いた引き戸をがらがらと開けると、左右には底に「ケロリン」と宣伝の入った黄色い洗面器が積み上がっている。その奥に、巨大な三面のスクリーンがあって、映像がシンクロしながら映し出される。日本の象徴的な場所として銭湯を位置づけ、そのなかに「にっぽん」の様々なトッピクスが物語りとなって流れてゆく。女湯との境の壁を素っ裸の女性たちが豪快に跨いで越え、そして何食わぬ顔で男湯につかる。この女性の姿と、湯舟から溢れた湯のなかから亀が一匹、二匹と行き場を失ってロッカーの陰に消えてゆく背中の対照には、世の男性たちは笑ってはいられなくなるに違いない。今年は「オ−バ−ハウゼン国際短編映画祭」(ドイツ)にもインターナショナルコンペティション正式上映作品として出品。また、「RETINA Festival」(ハンガリー)などにも出品しており、2001年の横浜トリエンナーレにも出品が決まっている。


束芋
《ユメニッキ・ニッポン》1 《ユメニッキ・ニッポン》2 《ユメニッキ・ニッポン》3
《ユメニッキ・ニッポン》
《にっぽんの湯屋》1 《にっぽんの湯屋》ふ 《にっぽんの湯屋》3
《にっぽんの湯屋(男湯)》
《にっぽんの台所》1 《にっぽんの台所》2 《にっぽんの台所》3
《にっぽんの台所》
《にっぽんの横断歩道》1 《にっぽんの横断歩道》2 《にっぽんの横断歩道》3
にっぽんの横断歩道》
伊藤存+青木綾子

伊藤存+青木陵子のユニットがつくった「念写(psychicscope)」も興味深い。二人は、個別でもアーティストとしての活動を行ない、伊藤はVOCA展にも出品予定だ。二人でそれぞれにつくった映像が、終わりのないストーリーのように展開してゆく。メルヘンチックな場面あり、人の心の隙間に冷たい風を一瞬吹かせる場面あり、無邪気に見えていて、一方にとてつもない考えが潜んでいるような不思議な世界がめぐっている。全体のプランを話し合って決めてから仕事にとりかかるというよりは、互いにつくりながら、一緒に少しずつ進めていくプロセスがあるらしい。彼らの作品も徐々に評価を高まってきており、今秋ローマで行なわれた「TWILIGHTSLEEP」展でも紹介されている。
カワイ+オカムラは実写の部分と手描きの部分があって、一見とてもラフなつく
りに見える。彼らの「四角いジャンル」という作品は、アニメーションというカテゴリーにいれていいのかについては迷う。彼らにとっては、絵を描くことや、立体作品をつくることの延長線上にあるやりたいことを表現する媒体として映像があっただけにすぎないのだろう。非常にアナログな作り方をしていて、手描きのドゥローイングに関しては、大きな動きはつけず、むしろ線画だけで静止させ、音響によって壮大さを出していたりする。初めて発表した99年春から何度かにわたりバージョンアップが繰り返されている。ワーク・イン・プログレスの作品と言ってもいいのだろう。
こういったつくり方は、フィルムでアニメーションをつくっているときに出来なかったはずだ。原画をスキャナーで読み込み、あるいは原画そのものをコンピュータで描き、編集作業もコンピュータで行なってゆくので、手描きの頃から比べると嘘のように工程が易しくなっている。とはいえ、映像作品の制作、とくにアニメーションの制作にかかる時間というのは、ひとコマひとコマを1秒に30コマつくってゆかねばならないために、相当の作業量がある。


伊藤存+青木綾子 《psychicscope》
▼伊藤存+青木綾子
《念写》
伊藤存+青木綾子 《psychicscope2》
モンノカズエ+ナガタタケシ

ある意味、正統派のアニメーションをつくっているのが、まだ大学に在学中のモンノカズエ+ナガタタケシだ。MTV STATION ID CONTEST1998入選、通産省主催マルチメディアグランプリ1999CG部門ベストシングル賞受賞、アヌシー国際アニメーション映画祭(フランス)CommitionFilm部門ノミネートなど、すでに輝かしい受賞歴も持っている。彼らのつくる実写アニメは、粘土などでつくられたキャラクターといい、早いテンポの展開といい、絶妙の味をもっている。描き出す世界の「影」の部分というのは、これまで紹介してきた束芋、伊藤+青木、カワイ+オカムラともに共通している。一番年少のモンノ+ナガタが、もっともあっけらかんと人間の心の暗い影の部分を表現しているように思う。

ドクメンタX(97年)でウィリアム・ケントリッジの作品を、はじめて観たときの衝撃はいまもはっきりと覚えている。モノクロの画面に表れる1本の線から世界の全てがはじまり、出来上がっていくようにみえた。真っ暗な部屋のなかで、足の踏み場もないほど多くの人が物音たてることすらせずに、ただ映し出される画面に見入っていた。あれは、予兆であったのか。多くの人たちがアート・アニメーションの魅力の世界にはまりつつある。



モンノカズエ
ナガタタケシ

《project: v hole》
制作プロセス
v hole制作プロセス199.2.4-1 v hole制作プロセス199.2.4-2 v hole制作プロセス199.2.12
1999.2.4

v hole制作プロセス199.2.7-1 v hole制作プロセス199.2.7-2
1999.2.12.

1999.2.7

v hole制作プロセス199.2.18-2 v hole制作プロセス199.2.18-1
1999.2.16/18

v hole制作プロセス199.2.25-1 v hole制作プロセス199.2.25-2
1999.2.25

はらひさこ 編集者・ライター
top
artmix|MIJ|artwords|archive
copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2000