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キュレーターノート      森 司 .


第三回:2000.9.1〜
9月1日(金)
〈第30回トヨタ・アートマネジメント講座(TAM)、名古屋大会2000〉の会場となる愛知芸術文化センターに向かう。TAMは、トヨタ自動車のメセナ活動の一環として96年からそれぞれの地域に根ざした課題をもとにアートマネジメントの可能性を模索る場として開催されている。
今回の名古屋大会は、98年の総合セッション「東京会議」に続く音楽、演劇、美術3ジャンルの合同セッションとして3日間の日程で開催される。テーマは「アートマネジメントの魅力」。プログラムは、アート談義、マネジメント概論、各地の事例報告。それにワークショップ。さらに地域のアートシーン。なんと盛りだくさん。到着後、関係者の一人でもある私は、前日から会場準備をしているスタッフの方々への挨拶。
地域のアートシーンの紹介コーナーである「名古屋芸術交流広場」を見て廻る。出展団体は23。開場までの時間、カフェで打ち合わせをして過ごす。
初日のプログラムはアート談義。「Art into Life――アーティストが語る芸術と社会の交信」でパネリストは3人。劇団プロジェクト・ナビを主宰する劇作家、北村想。水戸芸術館の〈宇宙老人アキラ─システム言語を楽しむ〉でお世話になり、2005年の愛知万博の前の万博となるハノーヴァー万博に日本館展示物アートディレクターとして参加した美術家の椿昇。路上日記や老人福祉施設での作曲ワークショップ等の活動で知るしとぞ知る野村誠。話はてんでばらばら。しかしそれでいて現在のアートの不定形具合とその地平線が見て取れる、何とも魅力的なアーティトならではのトーク。なんともイイカンジの会であった。250人程の会場のお客様も刺激をうけたのか触発されたのか、作家のトンガリ具合に満たされた様子。はねてからゲストとスタッフ、総勢30人程で街に。最後は椿昇氏と差しで飲む。

9月2日(土)
9時30分に会場入りし、10時30分からのリレートク「概論:アートマネジメントの考え方・いろはにほへと」の講師とタイムスケジュール等直前のすり合わせをし、司会者としてそのまま舞台へ。会場の埋まり具合が、昨日のアート座談を引き受けてもらえていることをうかがわせてくれる。講師陣と内容は次のとおり。
報告1・静岡文化芸術大学文化政策学部教授伊藤裕夫氏は、基礎中の基礎として文字どおり押さえておきたいアートマネジメントの成り立ちを歴史的に俯瞰した概説「アートマネジメントってなに?。
報告2・企業メセナ協議会事務局長、角山紘一氏は、メセナの10年とこれからを語る「メセナ今昔物語」。
報告3・東京国際舞台芸術フェスティバルディレクターでTAM運営員の市村作知雄による「これからの芸術運営」。
83年から97年まで山海塾の制作を務めるなどマネジメントの第一線で、サブタイトルにある「これからの暮らしをアートで耕す」を長く実践してきた。「色は匂へど」は早々に卒業し「浅き夢見し酔ひもせず」まで行きたいと、志願してのご登壇。制作者としての揺れや悩みたっぷりのヒリヒリした話に会場からおもわず拍手。昨日同様、実践者の生の声は強い。
昼食時には、明日の最終セッション「文化NPO発車オーライ!」の最終すり合わせ。発表の順番、持ち時間等、講演内容のポイント等について確認する。個別にはお願い時に済ませているが、3名のパネリトが揃う打ち合わせはこれが初めて。キャリアのある3人のパネリストの方々は、話す内容には困らない。それぞれの方にエピソードを含めて90分のお話を頂いた方が良いかも知れない。しかし今回はムリを承知でお一人最大20分の持ち時間。「この人は美味しい」と思われたらこちらのもの。どうぞ独自にお声がけいただいて、講演会なりクラスなりを企画開催してください。午後からは、各地の事例報告。演劇は、なみおか映画祭アソシエート・ディレクター、劇団弘前劇場主宰の長谷川考治氏。浪岡町で毎年開催されている「中世の里なみおか映画祭」と「弘前劇場」に関してと「青森県舞台芸術学校」について。音楽に関してはパシフィック・ミュージアム・フェスティバル(PMF)組織委員会オペレーティング・デイレクターの竹津宜男氏。もちろんお話はPMFについて。美術はベネッセコーポレーション直島コンテンポラリーアートミュージアムチーフキュレーターの秋元雄史氏。直島コンテンポラリーアートミュージアムの企画、運営責任者にして同直島国際キャンプ場、ホテルを含めた経営責任者。「直島・家プロジェクト」他を紹介。直島の事例以外は、直接当事者から聞くのは僕も初めて。おもしろい!プログラム3として、会場からの質問に広く答えるスタイルをとるQ&Aがあって後、懇親会。懇親会も盛り上がり、プログラムが参加者のみなさんに受け入れられていることを実感。8時過ぎからスタッフ及び関係者で2次会というか食事に出る。ここでの3時間は強烈に面白く楽しい一時であった。もちろんその後もあり。TAMの2部なる集いは、忙しくする素敵なゲストたちと出合い、再会し、ゆっくり語り合う僕にとってのキャラバンスタイルのアートカフェなんだとつくづく思う。

9月3日(日)
昼過ぎまで分科会。美術のワークショップ講師は小石原剛氏。さすがに手慣れた導入で参加者を引き込む。素人にはできない技。15時30分からの最後のメニューは再び合同セッション。フォーラム「文化NPO発車オーライ!」とNPOをテーマに開催。ニッセイ基礎研究所主任研究員の吉本光宏氏がNYコロンビア大学に1年間留学し、米国の芸術NPOの実体を調査した経験を踏まえた明瞭なレクチャーを展開。芸術NPOが取り組む社会サービスについて紹介する。続いて先の小石原剛氏が自らこの4月に立ち揚げた文化NPOミーツについての報告。現状と課題を踏まえた、等身大の日本における文化NPOの姿を紹介。先の理想と現実を受け手、トヨタ自動車広報部社会文化室長・担当部長の岡部修二氏が企業とNPOのパトナーシップの観点から、NPOと見なされる要素の確認や、NPOの数、資金的な規模など数量的な分析を踏まえた考察とNPOの潜在的なポテンシャルについて発言された。NPOの潜在的なポテンシャルの源泉が問題と直面した当事者としての問題認識力やそれに対応でき専門性と信念にあるとする整理は、NPOの質的評価の指標として示唆に富む話であった。
司会をしておきながらなんだけど、NPOに関する勉強になった。ちょっとしたヒントも得たおかげで、応援しているミーツの本質的な新しさが見えるようになった。全てのプログラムが5時過ぎに終わり、挨拶を済ませて愛知芸術文化センターの外に出たら、夏から秋の風になっていった。昨日同様、TIGER CAFEに立ち寄り乾杯。帰路に着く。

9月4日(月)
予定して打ち合わせが当日キャンセルとなりお休みとなる。

9月5日(火)
液体酸素注入当番。野村仁展に「時間の矢─酸素 -183度」の作品が展示してある。6本のガラス魔法瓶に注ぐのに50分、約1時間程かかる。注ぎ込んだばかりの状態は、ガラス越しに綺麗な青色が見て取れる。それも束の間、マイナス183度の液化酸素によって冷やされた表面は霧がかかったような表情となる。注ぎ込んだ瞬間から蒸発を続ける液化酸素は、閉館間際には全て蒸発し、空っぽのガラス魔法瓶だけが残る。

9月8日(金)
忙しさに半ば諦めていたが、見ておかないことには始まらないと、2週間前に誘われ同行の仲間ができたたこともあって、2泊3日の行程でこの夏最大の国内アートイベントととされる、越後妻有アートトリエンナーレを見に行く。伊香保のハラアークで開催中の間島領一氏の個展「マジマートin渋川」を見る。お座敷マジマートの奧に新作の〈バーガーボーイ、バーガーガール〉が展示されている。レストランで作品でもあるハンバーグ「バーガーボーイ」を食べ、十日町に向かい、名古屋組と合流する。十日町トリエンナーレセンターでガイドブックとパスポートを購入し、ショップを物色し、プロポーザル展示を見て表に出たら、総合ディレクターの北川フラム氏が、佐藤時啓が第9回バングラデシュビエンナーレ(99年)に出品していた、座席の天井にカメラ・オブスクラを取り付けた力車に知り合いをのせて、楽市楽座の広場を自ら自転車を漕いでた。会場の振る舞い茶で喉を潤しながら、フラム氏と暫しの懇談後、修行の旅に出る。昨年、千葉市美術館で秀逸な個展「訪問者と外国人、独立の時代」を開催したジョゼフ・コスースのアリストテレスのテキストの作品を皮切りに、鉢の石仏に寄りながら、中里村サイトを廻る。片瀬和夫の〈夜釣師〉は良かった。

9月9日(土)
夜の雨が嘘のように上がる。松之山温泉に宿泊したこともあって、天水越に設置された逢坂卓郎の〈月光を捕らえるプロジェクト〉の鏡を見た後、大厳寺高原と湯本集落のマリーナ・アブラモビッチ〈夢の家〉を見学。(*予約:松之山町役場振興課・夢の家宿泊係tel. 02559-6-3131)棺を思わせる木のベットに横になり、磁力を帯びた水をいただく。次回は是非泊まってみたいものだと思いながら先を急ぐ。と言うのも、手回し良い同行のメンバーが松代町のマジマート・キャンペーンカーを午後1時に予約を入れていてくれるためだ。人気殺到で飛び込みでは乗れない状態なんだそうだ。それでも途中、川俣正のはせ木のインスターレーションと松口地区の森の広場作りで展開された遊歩道やあずまやを駆け足で見学。松代町に着いたらバスがまだ戻っていないことを幸いに、暢気にまたも作家間島さんの作った「バーガーボーイ」を食べ、噂のキャンペーンカーに乗車。1時間の解説を堪能したというか、当てられたというか、かなりのインパクトに体力を消耗するも、途中で降りてカバコフ等の作品を見る。
遅いお昼を蕎で済ませて、今夜の宿でもある川西町サイトのジェームズ・タレルの〈光の館〉に向かう。(*予約等:ナカゴグリーンパーク・光の館宿泊係、tel&fax0257-68-4419)途中、西永寺本堂の剣持和夫も見る。到着が少し早すぎたため、節黒城跡やナカゴ周辺を探索。節黒城跡キャンプ場の「物語の道」の散策路整備の良さに驚嘆。3年に1度開催される「大地の芸術祭」の上部構想である「越後妻有アートネックレス整備事業」の5つの特徴の1つとして、「公共事業への新しい取り組み」が謳われている。道路や公園の整備、新設する交流施設の建設などの公共事業に、計画段階から地域住民とアーティストが深く関与する.....(ガイドブックから引用)。確かに、遊歩道計画アトリエとど、と書いてある。ただ単に自然の中に置いただけではない、別の意味での作り込みのされた「大地の芸術祭」が他県から多数の動員を呼ぶだけの魅力を帯びたのもムリはない。妥協の産物ではなく、北川氏独自のこだわりの成果だと思う。お疲れ様です。ナカゴ周辺で時間調整をしていると、金守子のE=MC二乗のステッカーを付けたシャトルバスが着く。またしてもアインシュタインの世界。野村作品攻略のためにこの手の本を読み続けている僕としては、逃れられないものを勝手に感じてクラクラしてしまった。
6時から念願のタレルの〈アウトサイドイン〉を堪能した後食事をしていたら、間島さんから誘いの電話が入った。松代町まで出ると、このプロジェクトを県サイドで牽引した担当者の方やガイドで有名になった東部タクシーの名物社長らで盛り上がっていた。しかし疲れはてていた僕は早々にダウン。大変失礼なことをしたと思っている。

9月10日(日)
〈アウトサイドイン〉の朝のプログラムは4時に始まる。眠い目を擦りながら屋根を開ける。冷えた空気が降りてくる。まだ真っ暗や闇で何も見えない。6時過ぎにプログラムは終わり、屋根を閉める。次に気がついたときにはしとしと雨が振っていた。朝風呂にはいるが、廻りの明るい状態では、昨日のような感動はない。あのお湯は、作品としても心理的な安心感から言っても夜楽しむものだ。
朝食を済ませた頃には雨もあがり、最終日の修行の旅に出る。
中里村の遠隔地の2点、旧土倉分校の北山善夫の作品と、清津峡渓谷トンネルの岩崎永人の作品を見て、津南町の蔡國強他を訪ね行を終える。初日にまなず料理の看板を見たことを思い出し向かうが残念ながら休日。越後小嶋屋のへぎそばを堪能し、十日町のセンターショップで初日から気になっていたジャウマ・プレンサの〈鳥たちの家〉を模しながらも幾分華奢なできのマケット的作品をお土産に買って、帰路に着く。

9月11日(月)
10月28日にオープンする「BIT GENERATION 2000 テレビゲーム展」のための広報物に関する打ち合わせをサルブルネイでする。メインビジュアルに段ボールを組み上げたインべーダーを使いたいとの提案。予定より進行が遅れに遅れているので、待ったなしで実現可能か判断する必要がある。正方形の段ボールとそれを並べて撮影できる場所。心当たりに電話し、14日に対応いただける返事をもらう。

9月12日(火)
液体酸素注入当番。

9月14日(木)
早朝から平和島にて撮影。天気と競争しながらの撮影。面白いものになりそう。午後、来年2月のクリテオリオムで紹介することになっている岩城直美の個展をINAXに見に行く。アトリエで見た作品が完成して出ていた。小品がイイカンジで良かったと思う。

9月16日(土)
野村展の企画担当者としてキュレータートークを行う。今回が2回目。毎回切り口を変えるように自分に課しているが、今日のそれは上手く言ったと思う。次回は、作品タイトルから入ってみょうかと思っている。

9月18日(月)
市民講座とゲーム展のプレスリリースの最終草稿を用意する。明日の会議で確認を取り、直ちに量産、発送にかからないとならない。

9月19日(火)
定例の部門会議と来週に予定する企画運営会議に向けた企画会議。6年間広報担当として務めたスタッフが寿退社し、新人が入ってきたので歓送迎会を持つ。

9月20日(水)
クリスト&ジャンヌクロードが2時間程の滞在で来館する。久しぶりの再会。彼らはすでに65。二人で130才と笑っていた。元気そうで何より。滞在中のスケジュールを聞いたら、いつもの通りの強行軍。動き何かをプランしていることが一番心休まる人たちなんだと改めて実感。
夕方、先の岩城直美が野村展を見がてらクリテオリオムの会場の下見に再度訪れてくれた。個展の反応を聞きながら、来年の展示点数や方向性についてイメージのすり合わせを行う。

9月21日(木)
野村展の色校正が出たので、デザイナー、カズヤコンドウの事務所で打ち合わせを行う。

9月22日(金)
来年度事業に関係する作家を訪ね打ち合わせを行う。基本的には同じ考え方であることを確認し、より具体化する方向で進めることを確認。国際交流フォーラムで開催されている、クリストのライスターク・プロジェクトの映画上映会の幕間トークとして30分程の話をする。会場に来てくれていた友人らと新橋で飲む。

9月23日(土)
液化酸素の当番。Science for Lifeセミナーの二人目の講師として池内了氏に「泡立つ宇宙とソーラーパワー」のお題で講演をいただく。この間、「宇宙論のすべて」他、複数著書に目を通してきたので素人なりに楽しんだ。講演に間に合うように来館された野村先生他と夜食事にでる。

9月24日(日
帰り損なってホテルを取ったため、通勤時間にかさなるはずであった女子マラソンの中継を見ることができた。何とも良いモノを朝から見せてもらた満足感に浸り食堂に行くと、野村先生等がいた。先生もご覧になっていたようで、僕のちょっと遅刻を許してくれた。先生は終日撮影。自分は26日の会議のための書類を学芸員室で作成。8時過ぎに夕御飯をご一緒する。で休日のため早めの終電に乗るべくあわてて駅に向かったら、集中豪雨のために運転見合わせで、まだ8時11分の列車が入線し止まっていた。しかし幸いなことに程なく運転再開となったもの、35キロ以下の徐行運転。しっかり時間がかかって自宅最寄り駅にたどり着く。

9月25日(月)
野村先生が予定されていたNASDA(宇宙開発事業団)の視察に付録兼運転手として付いていって、国際宇宙ステーション関する展示を見せてもらう。ラキー!

9月27日(水)
作品返却の日程を組み、先様と調整に入る。

9月28日(木)
返却日程の確認が全ての方と取れ確定する。それに合わせて日程表を組みながらホテルの予約。
[もり つかさ 水戸芸術館現代美術センター学芸員]
野村仁−生命の起源:宇宙・太陽・DNA
会場:水戸芸術館現代美術センター
会期:2000年8月5日〜10月15日

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