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北海道  吉崎元章
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exhibition札幌アーティスト・イン・レジデンス(S-AIR)

アーティスト:アンカ・デッシン(ドイツ国籍イギリス在住)、マット・カルバート(オーストラリア)、
       マルコ・フェラーレス(イタリア)、磯崎道佳(日本)、
       メトド・フィリッツ(スロベニア)、チウ・ジージェ(中国)、カリン・ボーネ(ドイツ)


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 今年度から「札幌アーティスト・イン・レジデンス」がスタートし、7人の作家が札幌にやって来た。これは、文化庁の「アーティスト・イン・レジデンス事業」の助成と、札幌市文化助成を受けてはじまったものである。ドイツ国籍でイギリス在住のアンカ・デッシンは7月から半年間滞在し11月の個展の後に帰国したが、それ以外の作家は1月から市内のマンションと札幌芸術の森内の貸しアトリエに住み、3月10日からの展覧会に向けて制作に励んでいる。一度にこれだけの作家が長期滞在することは札幌ではなかったことだろう。
 作家を招き、一定期間滞在させながら制作や地元との文化交流などを図るこのアーティスト・イン・レディデンスは、1970年代に欧米で盛んになったが、日本でも近年各地で開催され、それなりの成果を出している。「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)研究会」の報告書(1995年)など、世界の実例調査に基づいて日本でのあり方を探った優れた考察も見られる。後発の札幌として、その意義と独自性をどこに見いだしていくのか。僕もこの事業の実行委員かつ作家選定委員ともなっているので考えるところが大きい。札幌という地をどのように生かしていけばいいのか。この事業は何に重きをおいていくのか。作家に新たな環境を提供して新境地の作品を制作してもらうことなのか。訪れたアーティストとの交流を通じて地元の住民や作家が刺激を受けることなのか。はたまた、アーティストが今後各地で活動することで札幌の知名度を上げることなのか…。すぐに結果を求めるのではないという意見もあるが、さまざまな期待と野望が渦巻くなかこの事業はスタートしたと言っていいだろう。
 事務局や協力者にとって、一度に多くの作家を受け入れるのは容易なことではない。地元の人々とのコミュニケーションを積極的に図ろうととする作家もいれば、一人になりたがる作家もいる。環境や道具、材料などそれぞれの要求にできるだけ答えていこうと、少人数の事務局やボランティアが日々奮闘していると聞く。
 先日、札幌芸術の森のアトリエで生活している3人を事務局の方と訪ねた。磯崎道佳は、子ども服の古着を縫い合わせ、巨大な毛布を制作中であった。段ボール6箱の予定が15箱分も集まってしまったという古着を、ボランティア・スタッフとミシンがけをしていた。メトド・フィリッツは北海道教育大学札幌校の学生をモデルに写真撮影。フィルムと半透明のメデュウムによるライトボックスの作品ができあがるとのこと。園内の散歩から戻ったカリン・ボーネはドイツの元軍事施設を撮影した大判の写真を見せてくれた。
 このアトリエは、札幌芸術の森のなかでも最も奥の丘の上にある。窓からは、白樺林しか見えないというとても自然環境に恵まれてはいるが、札幌芸術の森の入口まで歩いて15分、買い物などにも不自由する場所でもある。国内の都市とは最もその様相が異なる冬の札幌をいやと言うほど味わっていることだろう。札幌芸術の森には、版画、木工、染織などの工房や音楽の練習施設が揃っている。しかし、それらは一般の方を対象とした有料の貸し施設であるため、彼らに思うように使ってもらえないことも多々あったようだ。また、すぐ隣には、芸術系の札幌市立高等専門学校がある。彼らはそこの設備も利用したが、卒業制作や試験の時期に重なってしまい、調整に苦労したらしい。せっかく周囲に設備が揃っているとはいえ、機能的に活用しきれなかったことは、準備期間が少なかったとはいえ、札幌芸術の森の職員として大いに反省している。
 「札幌アーティスト・イン・レジデンス」は、少なくても今後5年間は続けられることになっている。すでに来年度の作家も決まった。今年は初年度で反省点も多いが、この事業は確実に札幌の文化に刺激を与え、長い目で見て、かならずやプラスになることであろう。微力ながら、協力していきたい。

 なお、札幌アーティスト・イン・レジデンス関連企画として「TERMINAL.00」が開催される。これは、市内4箇所での美術展を中心に、パネルディスカッション、ワークショップなどで構成されている。“TERMINAL(ターミナル)”とは、4箇所の展示会場がまるでバス停のように点在している状態からのイメージであるとともに、参加作家がさまざまな国々から札幌に立ち寄っているという「停留所」としての地理的な意味、2000年が20世紀の「終着駅」であり、新たな時代への「始発駅」であるという時間的な意味も含んでおり、現在の札幌という座標を様々なアーティストの視点を借りて、地理的、時間的な座標軸から見いだそうとする試みであるという。

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問い合わせ先:S-AIR事務局 Tel. 011-643-2400(090-8634-0917)Fax. 011-643-2404
       http://www.iacnet.ne.jp/~sair/

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exhibition展覧会 TERMINAL.00

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terminal.100会期:2000年3月10日〜3月24日 (会場により開館時間に差があり)
会場:フリースペース プラハ(札幌市中央区南14条西17丁目)
              Tel. 011-513-0977
   CAI現代芸術研究所(札幌市中央区北1条西28丁目)Tel. 011-643-2400
   テンポラリースペース(札幌市中央区北4条西27丁目中森花器店横)
             Tel. 011-631-7555
   ギャラリー下町亜人(札幌市東区北7条東3丁目元北海湯)
            Tel. 011-741-2234
参加作家:マット・カルバート(オーストラリア)、マルコ・フェラーレス(イタリア)
     磯崎道佳(日本)、メトド・フィリッツ(スロベニア)
     チウ・ジージェ(中国)、カリン・ボーネ(ドイツ)
入場無料

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informationパネルディスカッション
「地域とアートの未来〜アーティスト・イン・レジデンスの活動から〜」

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会期:2000年3月18日(土)午後1:30〜3:30 入場無料
会場:北海道立近代美術館講堂

第一部「それぞれのアートシーン」

 司会:本間貴士(S-AIR)
 出演:マット・カルバート(オーストラリア)、マルコ・フェラーレス(イタリア)、磯崎道佳(日本)、
    メトド・フィリッツ(スロベニア)、チウ・ジージェ(中国)、カリン・ボーネ(ドイツ)

第二部「21世紀のアートサポート」

 司会:柴田 尚(S-AIR)
 出演:北海道立近代美術館関係者、山本謙一(建築家)、端 聡(美術家)、
    ビラ九条山代表者(京都にあるフランス政府のレジデンス)


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information磯崎道佳のワークショップ「空飛ぶビニール大巨人 イン 札幌」

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3/19 午後 札幌市立中央小学校(大通東6)グランドか屋上か体育館(天候による)
       作家と子供たちと市民が約10メートルのビニール巨人を制作、札幌の空に立ち上げる。 

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report学芸員レポート[札幌芸術の森美術館]

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第1回雪の造形展

第1回雪の造形展(1988年、札幌芸術の森)

 さっぽろ雪まつりが、今年も多くの観光客を集めて2月7日から13日にかけて行われた。人出は、216,8000人。去年よりもわずかに少ないが過去2番目の記録だそうだ。だが、札幌市民にとっては毎年今ひとつ盛り上がらないのも事実である。ここ数年、会場に足を運んでいないという市民も多く、観光客を呼び寄せるためのイベントという感じが強い。毎年、雪像が変わり映えしない精巧さだけが目立つ建物や人気のアニメキャラクターばかりなのが興ざめなのである。そんなことを去年もここで書いたような気がするが、お祭り好きの僕は今年もふらりと大通会場に足を運んだ。ぞろぞろと雪像を見ながら歩く人の波。あちこちで雪像をバックに記念撮影。やはり今年も同じかと思いながら会場の一番奥の11丁目、国際雪像コンクールのコーナーで足を止めてしまった。それは、世界各国20チームが高さ3.5メートル、幅・奥行き3メートルの雪の塊から雪像をつくり、その腕を競う毎年恒例のものである。象や南国風のお国柄を反映したモティーフに交じってあった、なめらかな曲線の抽象的作品が実にいい。僕は、雪の造作的可能性にまた興味を持ちだしたのである。「また」と書いたのは、10年ほど前に、雪像における造形に入れ込んだ時期があった。それは、札幌芸術の森の敷地内に市内の10人ほどの彫刻家に依頼し、雪の造形展を3年間開催したことがあったからだ。高さ5メートルを越える作品が立ち並ぶ姿は壮観であった。普段は、石、木、金属、粘土などで制作している作家が、雪を用いることで経費的、技術的な面から開放され、巨大な作品を実現できるのである(ただ1週間ほどの命なのが残念であるが)。僕はこの展覧会をかなり気に入っていたが、膨大な費用が必要なこと、それに見合うだけの来館者がなかったこと、バブルがはじけて予算が急激に減少したことなど、諸問題によりできなくなってしまった。
 もう20年以上前になると思うが、雪まつりの大通会場に岡本太郎のデザインによる大雪像が登場したことがあった。お世辞にもいいとは言える出来ではなかったが、その冒険心は大いに評価したい。現在の雪まつりの雪像のように、大きく精巧な物が雪で造られているという驚きを与えるだけではなく、札幌という土地柄と、雪、冬といった関係が、雪による造形で表現されたような作品を是非望みたい。芸術家を起用した大雪像や、イベントが増えてくると、もっとおもしろい祭りになると思う。

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