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Recommendation
福岡  川浪千鶴
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第1回21世紀の作家−福岡 
exhibition村上勝 輪郭をこえてゆく、かたち

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白い羽状
「白い羽状」2000年 アクリル、紙、竹、木

紅い羽状
「紅い羽状」2000年 アクリル、紙、竹、木

 九州各地の美術館で、地道な調査・研究をもとに地元作家の充実した個展が相次いで開催された。オーソドックスな展覧会活動にも可能性はまだまだあると勇気づけられる。
 その例1は福岡市美術館の「21世紀の作家」シリーズ。1990年以降福岡市を中心に新たな展開を見せている現代美術シーンを個展形式で紹介するため、福岡市及びその周辺部の出身または在住者で、79年の福岡市美術館の開館以降現在までの間で注目される活動を行ってきた、または今後が期待される作家を対象としている。地元福岡の現代作家の個展開催自体は至極当たり前なのだが、公立美術館の新たなステップとして評価したい。
 第1回は70年代から活発な個展、グループ展活動を行っている村上勝。1947年生まれの村上は、世代的には「九州派」の作家たちの2世代ほど下だが、時代の影響等を考えるとポスト九州派の作家といえる重要な存在。しかも現在にいたるまで、膨大な作品を生み出し続け、福岡のアートシーンを絶えず刺激し、活性化させているエネルギーに幾度も驚嘆させられてきた。過去はもちろん、今後が期待されるという福岡市美術館の基準にもっともふさわしい。
 「絵画を成立させているもの」を探求し続けている村上は、80年代は輪郭と色彩の関係を深化させた平面やオブジェをてがけ、近年は羽状作品のインスタレーションへと移行し、美術館や画廊空間だけでなく、ショールームや廃倉庫や島など、さまざまな環境でしたたかに作品を成立させている。今回は、その25年の歩みをダイジェストした回顧展+屋内外の新作展といった盛りだくさんの内容で(本展が何と100本目の展覧会に当たるらしい)、近年の大規模で華やかなインスタレーションを期待した者には、きちんと整理された分、少々おとなしく見えてしまう。しかし、時代や場所に呼応し自在に変貌(作家いわく「解体と再構成」)を続けたその軌跡はやはり興味深い。そして、観念にも形式にも惰性にもとらえられることのない、村上作品の最大の特徴である「健康さ」が改めて輝いてみえた。
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会場:福岡市美術館
会期:2000年1月5日〜3月26日
問い合わせ先:Tel. 092-714-6051 福岡市美術館

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exhibition吉村益信の実験展−応答と変容−

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 ネオ・ダダ展のポスターを体に巻きつけ、ミイラ男になって銀座を歩く吉村の写真、ネオンアートの代表作「クィーン・セミラミス」、森村泰昌言うところの3点セット「反物質 ライト・オン・メビウス」「大ガラス」「豚・pig lib;」など、吉村益信の代表作はあまりにも有名。しかし、一部が有名すぎて実は全容がわからないアーティストの典型が吉村ともいえる。
 例2として紹介したい吉村益信展は、20歳のときの油彩画から、ネオ・ダダ時代のパフォーマンスを記録した写真、アメリカ時代の石膏や樹脂のオブジェ、帰国後万博のために制作したテクノロジーアート、その反動で制作されたというエコノロジー志向の「群盲撫象」シリーズ、そしてアーティスト・ユニオン時代やウツ期、自己確認のための再制作期を経て、現在制作中の油彩画「木漏れ日」シリーズまで、150点近い数の作品群で構成されている。作品は素材もコンセプトも手法も同一人物の手によるとは思えないほど多彩で、まずその目まぐるしい変貌ぶりと点数、エネルギーに圧倒される。展示としては詰め込みすぎの感はあるが、量から質をはかることもこの作家の場合は必要だ。とはいえ1点1点のアイデアと作品化の巧みさにいちいち感服させられ、それを続けていると次第にあきれて愉快になってきた。「クィーン・セミラミス」などライトアートを蛍光絵画やドローイングと組み合わせて展示したコーナーは、本展の見せ場のひとつ。作品の魅力でこんなに遊べる展覧会は少ない。
 また、組織・素材・モチーフ・場所など作家の布置を明確にするため、多面的な要素を織り合わせた表や解説などのキャプションが会場にはこれまた数多くあり、少々読むのは煩瑣だが混乱しがちな作家の総体をかたわらで束ねる役割を果たしていて、こちらも労作。
 私が訪れた最終日は、会場内で作家が自主的に「いつでもアーティスト・トーク」と「どこでもサイン会」を開催中! 和気あいあいとした雰囲気の中で、ネオ・ダダ秘話やニューヨーク時代のこぼれ話を聞けたのはラッキーだった。
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吉村益信の実験展−応答と変容−会場:大分市美術館
会期:2000年2月19日〜3月20日
問い合わせ先:Tel. 097-554-5800 大分市美術館

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report学芸レポート[福岡県立美術館]

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正面入り口 
現代っ子ミュージアム 正面入り口
アルミエンボスの壁面に日向市美々津の赤土でつくられたオブジェ等が取り付けられている。斜めに切り取られた入り口は出入り自由。裏壁にも切り込みがあり、ネコ道にもなっている。
撮影:二川幸夫

中庭
中庭
四周を囲む壁面と床は、美々津の土を用いた左官仕上げ。2階のギャラリーと居間は、中空の渡り廊下でつながっている。ライヴも展覧会も行える。
撮影:二川幸夫

2階ギャラリー
2階ギャラリー
馬糞紙、漆喰、杉板で囲まれた空間には、藤野氏のコレクション等が展示されている。周囲を壁で囲まれていても天井近くからの巧みな採光で意外に明るい。
撮影:二川幸夫

2階居間
2階居間
畳敷きの居間の正面には、
白髪一雄の大作がおさまる。
 2月逃げる、3月去るの言葉どおり、公私ともども目まぐるしく慌しかった年度末を振り返り、月ごとに印象に残った事項をまとめてみると…。

2月のテーマは、「コタツでトーク−福岡・アート・アジア〜交流って何だ〜」(2月15日号掲載)というタイトルのアーティスト・トークを企画したこともあって、「交流の可能性」。実生活に基づいた「障碍(しょうがい)の美術」を追求している和田千秋さんにとって「交流」とは、「自分の価値観に揺さぶりをかけてくるような存在である他者と抜き差しならない関係に入ること」であり、モダニズムの文脈に則った作品展開を行う江上計太さんにとっては、作品の成果として「賜物のように成立するもの」。また、福岡アジア美術館でレジデンス中だったシンガポールのタン・ダウさんは、時間の後先はあるにせよ「アートはすべてコミュニケートするものだ」と熱く語ってくれた。「交流」をめぐる話題は尽きないが、今回のトークがそれぞれの作家の作品理解を深めることにつながったことは確か。
 「交流」を、場や時間、体験を共有するなかから、自分とは異なる意見を認めあい、新たなものを生み出すこと、と考えると、体験者、当事者以外の人間がその実態を知ることが難しいという問題点も浮かび上がってくる。とはいえ、「交流」後に、その成果や反省点をまとめ、語り合う機会を持たないままでいたら、果たして「交流」の可能性は本当に広がりえるのだろうか。そう気になったことが「コタツでトーク」のきっかけだが、そうした折りに目にしたふたつのミニコミ誌を紹介したい。
 ひとつは『ボランティア通信 』(現在3号まで発行)。「交流」を活動の中心に位置づけている福岡アジア美術館のボランティアさんたちが、自主的に意見や感想をまとめて発行しているもの。もうひとつは『宮司(アート)参道プロジェクト新聞 』(現在6号まで発行)。福岡県宗像郡の宮司(みやじ)地区で宮地嶽神社やその参道を会場に計画されている展覧会 (8月16日〜9月2日) 開催に向けて、現在地元の美術家を中心としたメンバーが行っているミーティング等の活動をレポートしたもの。どちらもモノクロで薄く、簡易印刷の地味な手作りだが、中身はずっしりとした手ごたえがある。『ボランティア通信 』を読むと、ボランティアさんたちそれぞれが美術館での体験を、まず自分自身の成長のために積極的に活用していることがうかがえる。こうした個人仕様の「交流」体験を伝えることは、きっと他の人たちの新たな「交流」の役に立つと思う。「交流」の可能性とは、こういうことなのではないだろうか。また、『宮司(アート)参道プロジェクト新聞 』からは「交流」のプロセスを重視しているプロジェクトの姿勢がはっきりと窺え、読む行為を通じて「交流」の輪が拡がっていることを実感することができる。

さて、3月のテーマは「生産する空間」。宮崎市出張の際、地元で子ども創作アトリエを主宰している美術家・藤野忠利さんが、長年収集した白髪一雄ら具体メンバーの作品などを保管、展示するために建てた「現代っ子ミュージアム」(昨年9月開館)を訪ねた。建築家・石山修武さんと藤野さんが3年近く話しあい、交流したすえに完成した美術館は、住宅でも、喫茶室でも、サロンでも、収蔵庫でも、アトリエでもある。入り口の切れ目から中庭に入ってみると、地元日向市の赤土でできた壁は何とも美しいサーモンピンク(訪ねた日が雨だったので、特に鮮やか)で、奇抜さよりもほっこりとした人肌のようなぬくもりが印象的。内部の空間は、人も作品も普段着の顔で出合える落ち着きと常識から解放される自由さが共存している。大半が木と土と紙でできた建物について30年もてば十分だと藤野さんは屈託なく語る。何かが生まれ、関係をむすぶ、消費する空間ではなく、生産する空間。この空間から広がる無限のネットワークが想像される。実際、この美術館に影響を受けた人々による赤土をつかった家づくり計画もあるとか。また今度は天気のいい日に訪ねてみたい。
 4月には「川俣正コールマイン田川」プロジェクトで有名な筑豊の田川市に、同プロジェクト実行委員である地元の美術家・母里聖徳さんが、アーチ状の大きな穴蔵を利用して「オルタナティヴスペース[haco]」をオープンさせた。今後は同スペース内にコールマイン・プロジェクトの現地事務所が設置される。現在オープンウィークとして、山出淳也展やライヴが開催中。ここも新たな「生産する空間」になっていくことを期待したい。

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福岡アジア美術館『ボランティア通信』

入手方法:福岡アジア美術館内で入手可、無料
問い合わせ先:Tel. 092-771-8600 福岡アジア美術館


「宮司(アート)参道プロジェクト新聞」

入手方法:福岡市内の美術館、画廊等に配置、無料
問い合わせ先:Tel. 090-8228-5447(ただし連絡は午後5時以降) 
       宮司(アート)参道プロジェクト事務局・寺島


現代っ子ミュージアム

所在地:宮崎県宮崎市松山1-6-20
問い合わせ先:Tel. 0985-24-1367 現代っ子ミュージアム


オルタナティヴスペース[haco]

所在地:福岡県田川市大字伊田2721
展覧会:「PROJECT No.18 sentaku 山出淳也」(2000年4月1日〜4月30日)
営業時間:Caffe time 11:30-18:00、Bar time 18:00-24:00
問い合わせ先:Tel. 090-959-70234 alternative space haco・担当ノザキ


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