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福岡県立美術館 川浪千鶴
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exhibitionDREAM ON−intercity art project 2000

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スタジオ・ファーム・ラボ
スタジオ・ファーム・ラボ
ビニール・プラスチックス・コレクション

 都市を舞台にした福岡の現代美術展といえば、福岡市の中心部で2年に1度開催される「ミュージアム・シティ・福岡(天神)」が有名だが、最近は北九州市の小倉地区での動きも見逃せない。その中心になっている「ギャラリーSOAP」は、名前はちょっといかがわしいが、活動はある意味で硬派な一面をもっている。
 ラフォーレ原宿・小倉(ややこしい名前)を会場にした本展は、ギャラリーSOAPを運営している地元美術家の宮川敬一ら「八万湯プロジェクト」が主催。今回で3回目だが、アートとコミュニケーションをテーマに、ショーウィンドウやエレベーター、オーロラヴィジョンなど、商業スペースのあらゆる場所やネットワーク機能を利用したことで、規模は一挙に大きくなった。
 規模は大きくなったが、この手の満艦飾の商業空間内でアートと都市のコミュニケーションを問うのはやはり容易ではないという、いつもの感想をもったのも事実だ。その中で、スタジオ・ファーム・ラボのビニール・プラスチックス・コレクションは、手ごろな価格の値札がついていたら、おそらく普通の商売としてもかなり売れたのでは(今回はデモンストレーションですべて非売)と思ってしまったほど、美しくて楽しいリサイクル製品ショップを実現させていてひときわ目立った。既存の商業空間に、日常の延長でありながら新しいシステムの商業空間を出現させるという秀逸さが光った。また、ショーウインドウごしに見る椿昇の人形の目がぎっしり取り付けられた円盤の作品は、一見こぎれいなディスプレイの座に収まっているように見えることと、その無気味な存在感の対比が印象的。
 さて、福岡のミュージアム・シティ・プロジェクトが、アートを通じたコミュニケーションの可能性をテーマにしていると仮にいってみるとすれば、八万湯プロジェクトは、その不可能性(いごごちの悪さ、不快さ、なさけなさなど)を模索しているようにも感じられた。それはアンチ福岡的なスタンスともとれるが、切実な個の試みとしてのアートへの関心と言いかえることもできるかもしれないアートと音楽の「境界侵犯」も本展の特徴のひとつ。特別イベントとして、ノイズ系のライヴや福居ショウジン監督の爆音映画2本立て上映なども行われた。

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会場:ラフォーレ原宿・小倉(北九州市小倉北区)
会期:2000年4月28日〜5月15日
参加作家:
インスタレーション=阿部幸子、江上計太、大友良英、岡本光博、北山美那子、津田佳紀、椿昇、森秀信、スタジオ・ファーム・ラボ(藤浩志プロデュース)、キャンディ・ファクトリー、セカンド・プラネットビデオプログラム=さきさとむ、セカンド・プラネット、高島陽子、蔦屋楽、武藤勇、守章、森秀信、渡辺郷、キャンディ・ファクトリー、Emil Goh、Thoroddur Bjarnason、Karolyn Hatton、Federico Baronello、Olof Bjornsdottir
問い合わせ先:ギャラリーSOAP (Tel. 093-551-5522)
ミュージアム・シティ・福岡:http://www.ne.jp/asahi/mcp/fukuoka/mcf2000/news/index.html

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アートの現場・福岡 VOl.7
exhibition
休憩室−ちょっと休んでいきませんか?

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くつろぎともてなしの「遊覧ベッド“あじさい号”」

くつろぎともてなしの「遊覧ベッド“あじさい号”」

くつろぎともてなしの
「遊覧ベッド“あじさい号”」

 美術館に休憩室があって当たり前なのに、福岡県立美術館が休むところが少ない、サービス設備の整っていない美術館であるがゆえに、美術館に休憩室をつくることでアートプロジェクトが成立するというのは、かなり皮肉な企画だなあと最初に思ったことを覚えている。
 しかし、テント状の授乳室やベビーベッドのほか、自由に座ったり寝転がれるいすや台やクッションが置かれ、絨毯を敷き詰めた約150平方メートルの空間は、靴を脱いで、ここでくつろぎ、リラックスするだけでアートに関わることになるという、私の知る限り最も垣根の低い参加型アートの試みだった。熟睡しているサラリーマンや座り込んだまま話がつきないカップル、徒党をなして遊びまわる子どもたちなど、積極的な利用者というか鑑賞者に日々接することとなった。
 もっとも、垣根が低ければ低いほど、「ただの休憩室ではない」という点が重要になってくる。限りなく日常的であることを、「質の高い」アートとして成立させ認識させうるかどうか。ヴォッヘンクラウズールのプロジェクトのときと同じく、その兼ね合いは一筋縄ではいかない問題をはらんでいるという実感をもった。
 さて、毎週末開催の、くつろぎともてなしをテーマにしたイベントやワークショップも好評を博した。なかでも、おとなのためのベビーカーともいうべき「遊覧ベッド“あじさい号”」は、空と風と緑と木漏れ日、そして自分だけの時間と空間を作り出す、シンプルにして奥の深い、しあわせ装置として、かなり感動ものでした。
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会場:福岡県立美術館
会期:2000年4月29日〜6月11日
   4月29日「珈琲茶会」(オーギ+ウシジマ)
   5月5日「チョコイベント 私のカタチ」(オーギ+チョコチップシスターズ)
   5月7日「インタビュー あなたの“こだわり”“知恵”を教えてください」(山本宰)
   5月14日「青空茶会」(オーギ+カメロンナカハラ)
   5月21日「公園に行こう」(ウシジマ)
   5月28、6月4日、11日「遊覧ベッド“あじさい号”」(岡山直之+瑞穂)
参加作家:オーギカナエ、ウシジマヒトシ、山本宰、岡山直之、岡山瑞穂、カメロンナカハラ、チョコチップシスターズ
主催:オーギカナエ+Nrp committee 2000、福岡県立美術館
問い合わせ先:福岡県立美術館(092-715-3551)

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report学芸レポート[福岡県立美術館]

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 5月に神戸で行われた「Dialog in the Dark」(5月2日〜7日、ジーベックホール)という、完全な暗闇の世界を体験するプロジェクトに参加したときのこと。私が最も印象に残ったのは、他人の存在や助けといった、自分を取り巻く人間関係の有難さだった(まわりの声に体温を感じた)。暗闇のプロである、全盲のアテンドの方のすばらしいナビゲーション(私たちにはまったく見えない世界が、アテンドの方にははっきりと「見えている」と痛切に実感!)に身も心もお任せにできてしまうと闇の恐怖感は薄れ、見えないはずの世界が、視覚以外の五感を通じて見えてくるような気持ちになる(30分は結構短い)。
 森や街を抜けて、コースの最後に、私が一番期待していた闇のバーにたどり着いたときのこと。まず、ワインの香りでバーに近づいたと気づいた。これは私がたんに酒好きというばかりでなく、嗅覚があきらかに敏感になっているようだった。視覚以外の全感覚を総動員する体験は、人間関係や美的体験の新たな可能性を示唆してくれたといえる。もちろん、バーでは迷わずワインを注文しました。
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