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兵庫 江上ゆか
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exhibitionガブリエル・オロスコ ブルー・メモリー

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オロスコ
写真提供:マリアン・グッドマン ギャラリー
 京都というのはやはり特別な町だ。日本全国同じようにはびこる味気ない風景は、この町をも浸食しつつあるが、嵐山や哲学の道などお馴染みの名所旧跡でなくとも、いやむしろそれ以上に、そのへんの町角に、そうした現在のあり方をも含めて、人の記憶や垢の染みついたような景色がたくさんあって、独特の町の「気配」というものがちゃんと漂っている。個人的に、それは甘ったるい日本情緒にとどまる種類のものではなく、なんというか、ここはとてもモノノケ度の高い町だなあと感じるのである。この町に若いアーティストが多く集まるのも、決してただ美術大学が多いというだけの理由ではないだろう。
 そんなモノノケの町京都の総本山(?)吉田神社の近く、重森邸で「Shima/Islands」なるプロジェクトがはじまっている。この9月は、メキシコ生まれの作家、ガブリエル・オロスコによる展示「ブルー・メモリー」が行われた。
 重森邸は、庭園家・重森三玲が昭和18年に吉田神社の社家である鈴鹿家より譲り受けたものだそうで、江戸時代に建てられた本宅・書院に、三玲自ら設計した茶室と庭が加えられている。三玲の没後も家族が住み続けてきた私邸であり、当然足を踏み入れるのもはじめてなら、私はその存在すら知らなかった。同じ古い建物でも、個人の家として実際に人が住み、受け継がれてきた場所の持つ空気は、寺院などの場が持つそれとはまた違う。家主が家主である重森邸の場合、なおさらである。こんな強い空間では、中途半端にただ作品を置いても、とても太刀打ちできないだろう。
 オロスコの場合は、そこにただネットを吊り下げた。庭を臨む書院の、簾が取り払われ、かわりにオロスコが日本の郊外の風景から見つけ出したという、農業用のブルーの防虫ネットが吊るされていた。安っぽいビニール製のネットだが、これが意外にもしっとりと空間にハマッっていた。マス目が4mmと少し大きめの網。この網のグリッドが、書院から庭を見る私の、外界との境界である眼の表面にぴったりはりつく感じで、絶妙な大きさなのである。外の日差しを遮る簾に変えて、ただ一枚の網を間にすべりこませる、それだけのことで、この特別な空間に重ねられた時間の層を意識させ、刻々と変化する光にうつろう庭の姿を映し出す装置として、機能を果たしていた。私の訪れたのが晴れた日の夕刻だったというのも、幸運だったろう。茶室の側からは、逆にネットにつつみこまれた書院が見えるのだが、色濃い秋の夕闇に次第に色を失い沈んで行くネットの姿は、とてもビニールとは思えないほどやわらかく、美しかった。
 「Shima/Islands」プロジェクトでは、来年3月にまでの間に、あと3回の展示、それから毎回の展示に会わせてセミナーも予定されているそうだ。
 最後に、言うまでもないことだが、京都においてもこういうすばらしく美しい場所はどんどん少なくなっているのであり、重森邸の場合も、そこに大切に住まう人の、想像を上回る努力によって維持されているのだということを、あらためて記しておきたい。
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会期:2000年9月16日(土)〜 30日(土)
会場:京都 重森邸  京都市左京区吉田上大路町34(京都大学正門より徒歩3分)
問い合わせ:Tel. 090-8467-8988 Fax. 075-761-8776
観覧時間:13:00〜18:00(日曜休) FaxまたはE-mailにて日時を知らせる事前連絡を

E-mail:shima753@hotmail.com
観覧料:1000円

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exhibition進化する映像 影絵からマルチメディアへの民族学

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進化する映像
 
 つかみでいきなり心を奪われてしまった。最初の展示品は「ソーマトロープ」。円形の板の表裏に別々の絵が描いてあって、両端につけられたひもで板をくるくる回すと2つの絵が1つになって見えるという、あれ。レプリカを手にとって回せるようになっているのだが、それがもう楽しいのなんの。となりで推定50代のおばちゃん4人組も、きゃあきゃあ言いながら喜んでいる。絵が動くって、こんなにも楽しいことなのですね。
 絵を動かしたい、動く絵をとどめておきたいという欲望が作り出した「映像」。2フロアからなるこの展覧会の第一部では、影絵、幻灯など映像の原点から、さまざまな動く絵の装置、そしてエジソン、リュミエールらによる映画の発明までを紹介。2番目のフロアは、草創期の映画がとらえた世界の人々の姿にはじまり、その後の民族誌映画の歩みを紹介、次第に撮る側と撮られる側という、おそらくは民族学においてつねに痛みをともなうであろう問題を、クローズアップしてゆく構成になっている。
 すでに各方面で話題になっているこの展覧会だが、展示物の内容もさることながら、個人的にしびれてしまったのは、もう、さすが民博!な展示の手法である。
 美術館の展示は面白くない、分かりにくいと言われ続け、じゃあ分かりやすい展示って何なのよ!と、近頃の私はいつも叫びたい気分だったが、この展覧会、……面白い!分かりやすい!実際に手で触れる、いわゆるハンズ・オンの手法や、リュミエール映画が発明当時上映されたグラン・カフェの再現などの大がかりな装置は、目に付きやすいところだが、細かなところでも、身長差にかかわらず見やすい角度に設置されたモニター、そのフレームのつくり方、長すぎない(これ重要!)解説文、等々、展示の随所にツボにはまった工夫(と技術とお金)が行き渡っている。
 そうやってさんざんお客さんを楽しませた後、最後にはずっしり重い「あなたの決断」コーナーが用意されている。あなたの映像を撮影させてください、ただし今後100年に渡り、民博がその映像を保存し公開して良いという条件で。きちんと承諾書まで提出し撮影された中から、毎週12人分の映像は、すぐさま民博のホームページで公開されている。この最後の問いによって、観客自身は、文字通り身をもって、撮られる側の権利や、何が映像の進化なのかといった本質的な問いに直面させられることになる。
 ハンズ・オンがわかりやすい例だろうが、博物館では有効に活用されている展示の手法を、美術館はなかなか上手く取り入れられずにいる。それにはもちろんわけがある。博物館と美術館とで、扱う資料の性質は違うし、最終的に理解ではなく鑑賞の場である美術館において、わかりやすいとはどういうことなのかという問題もあるだろう。しかし、そうした違いを越えた、展示の本質−底なしの好奇心と、常に自らに問いかける姿勢、そしてそれらを社会に通底する問題として観客と共有したいという思いの強度―を、この展覧会では見せつけられた気がした。うーん、さすが民博!!
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会期:2000年7月20日(木・祝)〜11月21日(火)
会場:
国立民族学博物館  大阪府吹田市千里万博公園10-1
開館:10:00〜 17:00 (水曜日休館)
問い合わせ:Tel. 06-6877-8893

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report学芸員レポート [兵庫県立近代美術館]

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 9月は遠出をすることもかなわず、秋のコレクション展にむけて黙々と作業を続ける、ドメスティックな毎日。開館30周年にちなんだ展覧会の準備なので、ごそごそと資料室の隅を漁り、わが美術館の昔話など地味に調べる、正真正銘ドメスティックな作業。今どきちょっと見かけない「未来っぽい」感じのディスプレイや、なぜか皮つきバナナの並ぶレセプション会場(当時の最高級果実?)など、謎の記録写真を見つけては喜んで……いる場合ではない。
 掘り出したものの中には、30年前の赤茶けた新聞記事もいくつか。しかしこうした記事の語り口の、あまりの変化のなさには愕然とした。たとえば、イヤフォーン式のガイドなど最新式(!)の設備を備えております云々というくだりなど、なんとかメディアやらなんとかシステムに主語こそ代われ、今も平然と使われている、ありがちな、そして実態のよくわからない作文。結局、公立であるわが館の例をふりかえるに、美術館が美術館を語る言葉なんて、お役所言葉の域でしかつくられて来ず、自己完結したまま使われ続けてきたのだろう。勿論、今も昔も美術館の考えるべき問題は変わらないという見方も出来て、それはそれで問題なのだけれども、美術館が自分の魅力を世間に語る言葉についても、もっと学習し考える必要ありと、あらためて痛感した次第である。

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