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北海道 吉崎元章
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exhibition四谷シモン展で思ったこと

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四谷シモン展会場風景
会場風景

 昨年の6月から全国を巡回している「四谷シモン−人形愛」展が最終会場となる芸術の森美術館で4月1日からはじまった。ごく初期から最近作までの30年以上にわたる人形作家としての足跡とともに、「状況劇場」での役者としての側面や、澁澤龍彦をはじめとする幅広い交友関係を豊富な資料で紹介するものである。すでにご覧になった方も多いと思うが、どこの美術館でも多くの入館者があり、各地で話題となった。最近、美術館で人形を美術的視点からとらえ直そうとする動きが目立ってきているが、この展覧会はそうした動向にさらに拍車をかけるものになるだろう。
 四谷シモンの人形の多くは性器や陰毛を露わにし、初期の代表作《ドイツの少年》では半ば勃起した大きな男性器をさらしている。靴下と革靴だけしか身につけていない裸体など日常的ではないその淫靡な世界を公的な美術館で紹介することに対して、美術館内部でも多少の躊躇があったことも事実である。しかし、これまで開催したどの会場でもこうした作品を展示することにまったく苦情がないのである。お役人的発想からの取越し苦労であったが、作品を感じる眼は観覧者の方がもっと進んでいたことを知るいい機会ともなった。ただ、新聞やテレビでこの展覧会を紹介しようとしても、やはり倫理規定上、画像によって十分に作品を伝えることができないのがもどかしい。
 もともとこの展覧会を開催するにあたって、彫刻の紹介を活動の柱のひとつに掲げる芸術の森美術館にとって、同じ人の形をつくりながら彫刻と区別されてきた「人形」の展示を通して、逆説的に彫刻とは何かを考える機会になればというのが表向きの理由であった。一方で、現代においては両者の境界が曖昧になり、区別自体が無意味なものであろうとも思っていた。しかし、実際に作品を展示し毎日シモンの作品と見ていると、これまで接してきた彫刻とはやはりちがうものを感じずにはいられない。「気配」とでもいえばいいのだろうか。展示作業と初日のトークショーのために来館した四谷シモン本人も、「気配」ということを口にしていた。そして、彫刻との違いは「かわいい」とか「気持ち悪い」とかいう気持ちを抱かせるものであることとも。各自がそこにさまざまな思いを込め、各自の心を映す器としての色が濃い造形。人形と彫刻、やはり同じようでいてちがうというのを感じる昨今である。
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会期:2001年4月1日〜5月27日
   9:45〜17:00、休館日=4月23日までの月曜日
会場:芸術の森美術館 北海道札幌市南区芸術の森2丁目75
問い合わせ:Tel. 011-591-0090

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report学芸員レポート [札幌芸術の森美術館]

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昨今のグループ展

 4月に入ってそれぞれの美術館の今年度の展覧会スケジュールが発表になった。最近目立ってきたのが、作家達が美術館を借りて開催するグループ展である。1980年代には、「TODAY」「北海道現代作家展」などいくつかのグループが北海道立近代美術館を会場に展覧会を盛んに行い、北海道の現代美術に大いに刺激を与えたが、1990年の「リニュアル」展を境にぱったりと途絶えていた。それが、今年度は立て続けに9月に「北海道立体表現展」、12月に「HIGH TIDE〜ラディカルな意志の現れ」展が開催されるうえ、次年度もまたちがうグループの借用が予定されているという。市内の画廊などを中心に活動してきたいくつかの作家の集まりが、再び美術館に発表の場を求めてきているのである。その動きをどう見るのか。美術館の事情の変化もあろうが、やはり作家達の意識の変化が大きいと思われる。それをうかがわせる興味深いグループ展が、12月開催の「HIGH TIDE」展である。16人のメンバーは、作品をただ展示するだけではなく、作品を見る側との距離をどう縮めるかに強く関心を示している。そのために、北海道内の美術館学芸員や美術評論家などを巻き込み、学芸員が普段から苦心している作品と観覧者をつなぐノウハウをもとに解説やワークショップなどへの協力を依頼している。どうしても観覧者が限定されがちな画廊から、より多くの人が作品に接することができる場を求め、さらに作品と積極的に関わってもらうことを模索しはじめている。僕もそれに加わり準備を進めているところである。これから開催に向け解決しなければならないさまざまな問題もあるが、北海道ではこれまでになかったこの試みから、新時代の新しい何かが生まれることを期待したい。
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