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兵庫 木ノ下智恵子
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exhibition版画工房ノマルエディション展 NOMART 01

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会場入り口
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会場風景
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ミュージアムショップ
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 アーティストにとって究極の共生者とは誰であろうか。
 キュレーター、ギャラリスト、評論家、編集者、マスコミ、コレクター、鑑賞者……アートの現場の構成員は様々だが、いずれにしてもアーティストの存在がなければ何も始まらない。かと言って、アーティストは他者に依存しなければ実社会では生きてはいけない。アーティストとそれ以外との関係性は【メビウスの輪】や【卵が先か鶏が先かの話】に似ている。
 そんな自問自答を繰り返して袋小路に入る前に、アーティストと共に創造のダイナミズムを共有する存在がアーティストにとっての究極の共生者ではないだろうか。
 制作の現場の共有という点において、近年、技術提供者である企業とアイデア提供者であるアーティストが新作の共同開発や技術開拓などを目的に、作品という媒介を通じてコミュニケーションする事例がある。ここでは修復不可能な不協和音を避けるかのように互いを探り合いながら徐々に距離を縮め、時には両者をつなぐ通訳者が必要になる。私見でしかないが、両者が衝突をしようともせず十二分に本領を発揮できたという事例より、蜜月を迎える前に破綻を来す事例の方が多いのではないか(★1)。ここでの問題点は【実社会の役に立つ】というお題目や双方の色気が見え隠れすることなどが想起される。
 何者にも囚われない創造の現場の共生者は誰を指すのか。
 その答えを体現した展覧会が『版画工房ノマルエディション展 NOMART 01』である。
 ノマルエディションは、昭和から平成へ移り変わった1989年、出版と印刷が一体化した欧米型のシルクスクリーン版画工房として大阪市の城東区に設立された。木村秀樹氏のカタログレゾネの出版を皮切りに、以後、植松奎二、蔡國強、片山雅史、大島成己、中川佳宣、伊庭靖子、山田佐保子、名和晃平(以上敬称略)など、キャリアや年齢を問わず作品制作のコラボレーションを実施している。
 設立5年目の1994年、デザインセクション「プラントグラフィックス」の設立を契機にデジタル環境が整備された。さらに5年後の1999年にはギャラリースペースを併設し、若手作家支援プロジェクトとして評論家の清水穣氏との共同企画「Nomart Projects」において4つのテーマによるグループ展を開催し、喜多順子、小川茂雄、稲垣元則など、新たな才能の発掘にも余念がない。
 設立より12年目を迎える2001年夏、美術館クラスの面積を誇る「海岸通ギャラリーCASO」の4つのスペースを埋め尽くす作品群が一堂に会した。本展は、工房というメディアを駆使して、制作費や技術、時にはアイデアを提供し、作品や出版物の制作、情報管理、展覧会の開催など版画の枠を越えた多岐にわたる実験的な試みを続けてきたアーティストの究極の共生者の証である。
 代表者の林聡氏は「ものを創ることをベースにしながらも、出版に関する重要性−企画・プロモーションとの制作の一体化−を担うパブリッシャーであり続けたいと思う」と記している。
 
★1 立場は違えども、創造のダイナミズムを共有する点において、アーティストと蜜月を迎えられる存在でありたいと、我、思う。
注1) 本文は本展を記念して出版されたカタログ「NOMART 01」の掲載文や年表を参考に執筆した。
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会場:海岸通ギャラリー・CASO 大阪市港区海岸通2-7-23
会期:2001年7月24日〜8月12日
問い合わせ:Tel. 06-6576-3633

ノマルエディション:大阪市城東区永田3-5-22 Tel. 06-6967-1354

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exhibition青木陵子「花屋敷」

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インスタレーション風景1

インスタレーション風景2

インスタレーション風景3
インスタレーション風景
画像提供:児玉画廊

 色鉛筆、蛍光ペン、サインペン、ボールペン、匂い付き消しゴム、藁半紙、新聞広告の裏面など取り立てて用意した描画材ではなく、部屋のあちこちに生息している文具達。幼い頃、それらを駆使して目や鼻のパーツが異様に主張した少女を描き続けた。時には塗り絵や着せ替えの本体になる少女は、日本名ではなく外国人やモダンな名前が似合いそうな顔立ちであった。自分の分身なのか、理想像なのかその少女達の環境は異様なくらい虚構の世界だった。そこには何者にも侵されていない幼年期の純真無垢な美しい心=イノセントなど、実は存在していなかっただろう。何故か人には言えない、あるいは言いたくない密やかな欲望。成人する過程において、様々な外的環境によって自我が整理整頓され風化してしまったと思いこんでいた心の因子が探られる思い。子供や精神障害者の描く絵にそれを探られたとき、大人達はもっともらしいカテゴリーに当てはめて文脈に押し込もうとしてしまう。幼少期に眠りにつく前に読み聞かされたグリム童話や各国の民話が実は残酷で性的な記号を多分に含んだある種の裏話であったり、フロイトによる夢判断などがベストセラーになる事実は、大人になってしまった自己に潜む密やかな愉しみや憧れと呼応しあっているからではないだろうか。
 そういった心の琴線に触れる表現に出会った時、私は無性にゾクッとした感覚に囚われる。
 青木陵子の新作による個展「花屋敷」は、まさにその魅力で構築されたイノセントワールドだ。首のない少女や奇妙な動植物のミニチュアのクッション、山脈や葉の葉脈を緻密に拾い上げたドローイング、部屋の中でお針子仕事をしている少女のスケッチ、踊る人物や流れる水脈などの関連性のない散文詩がループするアニメーション、微妙な形やバランスを保つオブジェ、刺繍がすり切れた座布団……。
 手芸、工芸、ドローイング、ビデオなど自身で扱いうるあらゆる手法によって創造された作品群達は、青木の精神世界を表出させる存在なのか、あるいは心情の安定を図るために手を動かし続け増殖した結果なのか。いずれにしても、彼女にとって創ることは、大上段に構えた作品制作というより、衣食住と同じレベルで日常的なことであるには違いない。
 本来は2室から成るギャラリースペースの1室を、天井近くに施されたサイケデリックな色調のステンドグラスのような小窓と、アーチ型にくり貫かれた入り口が象徴的な壁によって二分された3つの空間。1)象徴的なドローイングのみによって構成された部屋、2)小品や様々なサイズや種類のドローイングが所狭しと置かれた部屋、3)走馬燈のノスタルジックな動きと明かりによって空間の表情を変化させた部屋。「花屋敷」は各空間ごとに独自のネーミングがついていそうな3室によって構成されている。
 決してメルヘンではない虚構の「花屋敷」の主はきっと作品にしばし登場する少女達であろう。虚像の主が留守の間に迷い込んでしまったおとぎ話の主人公のように、観る者はなんとなくばつが悪いような、それでいて奇妙な居心地の良さが同居する甘美な魅惑の園で、不覚にも媚薬の効能に侵されはじめている。
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会期:2001年6月30日〜7月28日
会場:児玉画廊 大阪市中央区備後町4-2-10 丸信ビル2F
問い合わせ:Tel. 06-4707-8872

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report学芸員レポート [神戸アートビレッジセンター]

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KAVC会場風景
KAVC会場風景

「南半球のクリスマス/パーティー」
「南半球のクリスマス/パーティー」
野村氏&山下氏パフォーマンス風景

「南半球のクリスマス/パーティー」
「南半球のクリスマス/パーティー」
白象の退場


 初めまして。神戸アートビレッジセンターの木ノ下です。山本氏の後任としては未熟者ですが、隔月で関西方面の担当をさせていただきます。どうぞ宜しくお付き合い下さい。私の自己紹介をかねて、6月下旬に終了した『島袋道浩展「帰ってきたタコ」』のご報告をさせていただきます。
 
 島袋氏の表現は絵画や彫刻といった従来の“モノとしての表現”ではない。例えば、明石のタコを東京観光に連れて行ったり、存在するはずのない鹿を探して町を散策したり……。一見「これがアート?」という疑問符が浮かぶかもしれないが、作家本人と共有する時間や記憶そのものが作品の“コトとしての表現”だ。とらえどころのない作品性にもかかわらず氏は、近年、シドニービエンナーレなどの国際展や国内の主要な展覧会にとぎれることなく出展し続けてきた。これは、マスメディアなどで扱われるお笑い番組の1シーンとは微妙に異なる独自の島袋美学が、いわゆる既存の現代美術の概念では語り尽くせない未来形のアートとして、言葉などの文化を越えたグローバルスタンダードの要素を含んでいることの証だろう。その作品体験において「現代美術とは、作品に潜む文脈やイズムを読み解くもの」として刷り込まれてた脳裏に浮かぶ「?マーク」がある種のトラウマであり、そこから解き放たれた時にこぼれる“笑み”が島袋作品の真骨頂だろう。
 神戸出身者でありながら関西での大規模な展覧会は初めてとなる『島袋道浩展「帰ってきたタコ」』は、島袋氏が1991年から作家活動を始めて以来の10年間、世界各国を旅しながら表現を続けてきた軌跡を、様々な歴史的背景を有しながら野外彫刻展の先駆けとして隆盛を極めた【須磨離宮公園】と、震災後から美術・演劇・映像の複合ジャンルによって情報発信を続ける【神戸アートビレッジセンター】の2会場で紹介した。
 本展は、映像や写真作品展示を含んだ屋内外の2会場でのインスタレーション、アーティストブックの出版、過去のプロジェクトの記録写真をトレースして再構成したシルクスクリーンの壁紙制作、フリーペーパーのプロデュース、京都(小山田徹氏)・大阪(藤本由紀夫氏)・神戸(椿昇氏)三都市でのゲストトーク、屋外展示を舞台装置にしたエンディングパーティーと、多岐にわたる表現メディアによって構成された。
 この無謀なスケジュールが実現できたのは、40名以上に及ぶサポートスタッフをはじめとする、多大なるマンパワーのお陰である。
 この彼らの神通力は6/24の『南半球のクリスマス/パーティー』にも発揮された。梅雨の時期、前日から激しい雨が降り、当日の朝になっても雨模様であった。屋外から屋内への会場変更を判断するリミットすれすれの正午、雲間から光が射し先ほどまでの梅雨空が嘘のように晴れ渡った。晴天という極上の照明効果とロケーションに映えたクリスマスツリーなどの舞台装置による演出は、まさに南半球のクリスマス/パーティーが来たようだった。ハワイアンのクリスマスソング、参加者からの持ち寄りの逸品や島袋氏の行きつけのお店の料理、公園でつくられた果実酒、島袋氏の旧友である野村誠氏や山下残氏による飛び入りパフォーマンスなどが繰り広げられた約4時間に及ぶ祝宴は、北九州からやってきた白象の旅立ちのお見送りで大団円を迎えた。
 私は企画者である限り純粋に客観視できるはずもないが、会期中の様々な出来事や観客からの賛否の声、サポートスタッフからのメールでの感想、そして何よりも展覧会終了後の島袋氏の「ひさびさに終わることが寂しい展覧会だ」という一言は、関わった人々が幸せになることが氏の作品の本質にあるという点で、本企画の実施が何らかの価値に値するものだと自負している。
 美術作品を鑑賞/体験して考えることも大切だが、なごやかに微笑むことや「クスッ」と笑うことも「アリでしょ!」とラフに言いたい今日この頃、日常の些細な喜びを感じとれるように日々過ごしたいと思う。
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追記1
日+仏+英のアーティストブック『見えないところに行けるけど、見えてるところになかなか行けない 島袋道浩 SHIMABUKU 1990 -2001』(A5サイズ/カラー 税込み2400円)は下記で取扱中。
ブックセラーアムズ(大阪)、メディアショップ(京都)、ナディッフ、オンサンデーズ、美術館ミュージアムショップ(東京都現代美術館、東京オペラシティ、仙台メディアテーク、水戸芸術館)
出版/問い合わせ先:神戸アートビレッジセンター Tel. 078-512-5353 kavc@kavc.or.jp

当センターでの今後の企画展は、10月下旬から開催する関西在住の若手アーティストのグループ展『神戸アートアニュアル2001/ねむい、まぶた。』です。このレポートは次の機会に……。

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