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北海道 吉崎元章
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exhibition永遠へのまなざし 北海道立近代美術館

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永遠へのまなざし1

 クリスチャン・ボルタンスキー、岡部昌生、宮島達男、ジェームス・タレル、舟越桂という現代美術家のなかでも人気が高い5作家をそろえた展覧会。この美術館にしては珍しく、大作を中心に広いスペースを大胆に使って構成した展示は見応えがある。岡部昌生の作品以外、すべて国内から借用したもので作品には目新しさがないが、質の高い現代美術を札幌で見ることができる意義は大きい。いずれもメッセージ性がはっきりしているだけに、現代美術入門としてもぴったりの展覧会だろう。
 なぜ、この5人なのか。チラシによると、「人間の生存、つまり生と死、そして死からの再生といったテーマをめぐって自己の世界を展開する」作家なのだという。舟越桂以外は分からないではないが、舟越を加えた理由は担当学芸員によると、感情移入しやすい彼の作品を展覧会の最初と最後に配置することで、展覧会を見る前と見た後の自分の内の変化に気付いてもらおうという狙いがあるらしい。確かに、入口で1点の舟越作品が観客を出迎え、最後のコーナーを舟越作品で締めている。しかし、それはちよっとわかりづらかったかも。
 奇しくもアメリカの同時多発テロ事件により不条理な死の問題がこれまでにないほど切実なものとして浮上してきた時代となってしまった。企画段階では思ってもいなかったことだろうが、あまりにタイムリーすぎる展覧会テーマである。以前から生と死の問題をアートによって訴えかけてきた作家たちの深い精神性をたたえた作品には、こうした時代になってしまったが故に胸が痛くなるほど圧倒されてしまう。
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会期:2001年10月31日(水)〜12月2日(日) 月曜休館
会場:北海道立近代美術館 北海道札幌市中央区北1条西17丁目
アーティスト:クリスチャン・ボルタンスキー、岡部昌生、宮島達男、ジェームス・タレル、舟越桂
問い合わせ:Tel. 011-644-6881

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report学芸員レポート [札幌芸術の森美術館]

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季刊「elan」

季刊「elan」

「elan」というフリーペーパーをご存じだろうか。札幌を中心に画廊などに置かれている美術関係の記事を満載した小冊子である。季刊ながら最新号はvol.7を数える。美術関係といっても単なる情報誌でも批評集でもない。美術をめぐる諸問題をとりあげ、批判精神に満ちたその内容に最近目が離せない。ここ数号にわたって特集しているのが、パブリックアートの問題である。特にやり玉にあがっているのが、札幌ドーム周囲の「アートグローブ」と命名された24点の作品群である。北川フラム氏がプロデュースした3億円規模のこのプロジェクトに対し、その必要性、作家選定、作品の質、そして経費等について噛みついているのである。ある作品は800万円の予算額でありながら実際作家には100万円しか渡っていないことなどを指摘。この紙面での座談会の話題から発展し、札幌市に調査を求める要望書を座談会参加メンバーが正式に提出した。受動的になりがちな公共事業に一石を投じるその動向に注目していたが、先日の市議会でこの問題が取り上げられ、「事業費には作品運搬や設置の経費も含まれ、美術家の半数以外はデザイン料のみを支払う契約だった」との調査結果報告があったことが新聞に出ていた。しかし、いまひとつすっきりとしないところが残るのも否めない。
 売り上げや広告主のこと、存続を最優先に考えずに自由な発言ができるフリーペーパーだからこそできる「elan」の主張。その内容の妥当性はともかくとして、押し殺されがちな問題の提起としての意義は大きい。次号がまた楽しみである。

問い合わせ:エランクリエイティブ Tel. 011-633-4880 Fax. 011-616-0012

アーティスト・イン・レジデンス@札幌芸術の森

アーティスト・イン・レジデンス1

 今年4月から横浜美術館を皮切りに国内巡回している「イタリア彫刻の20世紀」展が、芸術の森美術館でも11月3日からはじまった(12月24日まで)。その出品作家のひとりであるルイジ・マイノルフィが10月の約1ヶ月間、札幌芸術の森に滞在し、作品を制作した。もともと札幌芸術の森は宿泊可能なアトリエや各種の工房をもっていながら、有機的に結びついた活動があまり行われていなかった。しかし、今回のアーティスト・イン・レジデンスを通して、いつもは陶芸の団体講習会のカップなどを焼いている大きな窯が活躍し、隣接する札幌市立高等専門学校の金工室でも作業を協力してもらうなど、札幌芸術の森がもつ潜在能力とその可能性を感じることができた。
ルイジ・マイノルフィ《札幌の柱》
ルイジ・マイノルフィ
《札幌の柱》


 慣れない環境や使い慣れない材料などさまざまな苦労があっただろうが、11月1日に《札幌の柱》が完成し、美術館前庭に設置。3体のテラコッタのトルソが5メートルの高さに置かれ、地面との間を多くの白い帯が結ぶ。古代ギリシャの神殿の柱を連想させるとともに、日本の吹き流しや纒(まとい)をも思わせ、時代や空間を越えた造形的共通性を伝える。そして、作品と美術館を精神的に結ぶように、前池のなかにも、《札幌の柱》から美術館に向かってマイノルフィ自身の分身が泳ぐテラコッタが沈められた。
 11月4日、マイノルフィは再びイタリアに向かって旅立っていった。陽気な性格の彼が残してくれたのは作品だけではない。この経験をとおして美術館のスタッフに新たな活動展開の芽を宿してくれた。出発の前夜、お別れパーティーでつくってくれた本場のパスタの味が忘れられない。
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