logo
Recommendation
兵庫 木ノ下智恵子
.


exhibition主題としての美術館−美術館をめぐる現代美術− 国立国際美術館

..
クリスチャン・フィリップ・ミュラー
クリスチャン・フィリップ・ミュラー

アレックス・ハートレー
アレックス・ハートレー

ウテ・リンドナー
ウテ・リンドナー

メル・ジーグラー、出口
メル・ジーグラー、出口

 高度経済成長、安保闘争、全共斗運動の全盛期であった1970年、昭和史における一大イベント「EXPO'70」が開催された。プロデューサー岡本太郎氏による万博のシンボル「太陽の塔」は、現在も大阪千里万博公園の緑の空間にそびえ立っている。同じ敷地内にあるモダニズム建築の様式美を匂わせる日本万国博覧会美術館は[国立国際美術館]と名を改め、時代と共に変革する美術の有様を伝えてきた。多様な美術作品の展示に対応可能な美術館建築特有の「ホワイトキューブ」に加え、外光が降り注ぐガラス張りのエントランス、傾斜する屋根、地上3階から続く階層構造など、建築家/川崎清氏の個性がちりばめられた独自の空間がそこにある。
 2000年6月、その個性を十分に堪能できる企画展「空間体験:[国立国際美術館]への6人のオマージュ」が開催された。テープで仕切られた床のラインとそこに収まった多くの自動車によって駐車場という日常空間へと化した展覧会場。無垢な白色が主流の美術館に似つかわしくない真っ赤な壁面に導かれる3階から2階の階段空間。重要な展示スペースとして君臨する長い壁面空間を意識させるナイロン性の紫色の円柱など。通常の展覧会に期待するオブジェクティブなモノは存在せず、無個性と思われた展示空間そのものが作品と化すサイト・スペシフィックなインスタレーションが展開されていた。正しく、展覧会タイトルどおり、6人のアーティスト各々の誘いによって[国立国際美術館]という固有名詞をもった建築空間を意識せざるをえない。鑑賞/体感者である私は、自身の経験にのみ作品の本質が由来するという感覚を今でも覚えている。
 2001年10月、そのトリビュート第二弾とも呼べる展覧会「主題としての美術館ー美術館をめぐる現代美術ー」が同プロデューサー(学芸員ではなくあえて)によってリリースされた。
 今度は[国立国際美術館]という固有名詞ではなく、[美術館]という代名詞そのものに着目した逸品だ。
 美術館や美術教育の歴史が浅い日本において、現代美術の源泉はアメリカ/ヨーロッパの水脈によって形成されていることは逃れられない事実である。その事実を作家の選定(欧米を中心に活躍するアーティスト)により真っ正面から突きつけられた。ニューヨーク近代美術館のキャプションを羅列したジャック・レイルナー。収蔵品はもとより館内で実際に使用している全ての椅子をカラフルな雛壇に羅列したクリスチャン・フィリップ・ミュラー。ガラスやアクリルケースなど作品を禁欲的に保護する展示形式そのものを提示した竹岡雄二。インクジェットプリンターによって切り取った空間にライティングとすりガラスのフィルターで独自の美の空間を現出させたアレックス・ハートレー。実際に使用していた真っ赤な壁紙に刷り込まれた作品の痕跡と見られる矩形の残像によってその時の流れを示唆したウテ・リンドナー。名画に群がる観衆真理までも映し出したトーマス・シュトゥルート。この他出展アーティストのそれぞれの視点で作品化された「美術館」のコードは、展示様式や空間、美術館に関わる人物像といった類型化が可能であった。これら作家のフィルターを通じてコード化された[美術館という主題]を[展覧会という様式]によって再構成する。この重層的に仕組まれた知的なゲームを楽しむ為には、受け手独自の「作法の極意」が必要である。それは個々の作品と自己の「美術館像」との対話を繰り返すうちに紡ぎ出されていく、ある種のミュゼオロジーと言えよう。そうして受け手が独自の見解を巡らせているうちに、建設現場の構造物とおぼしき写真や建材の断片作品(メル・ジーグラー)にたどり着く。「これは何ぞや?」という疑問符を払拭するかのように、出口付近には2003年に大阪の中心地区(中之島)に移転予定の新美術館の建築模型が置かれている。美術館という代名詞について考えながら進んでいくロールプレイングゲームのエンディングに用意された新美術館構想。こうなれば、新[国立国際美術館]に期待せざるをえない。またしても、してやられてしまった。
 1970年の熱き時代から四半世紀以上を経た新世紀、時代の潮流によって施行された国立美術館の独立行政法人化は、美術館に様々な課題を投げかけていることは周知の事実であろう。今までおざなりにされてきた観客創造について、美術館は咀嚼・消化し栄養素を蓄え、独自の力量が求められている。ただそれは、むやみやたらにフレンドリーに振るまう劇場やアミューズメント的なニーズに応える過剰なサービスではないはずである。ギャラリー、オルタナティブ・スペースなど芸術文化の環境を創造する場は様々だが、美の殿堂としての[美術館]の役割とは、美の根幹について熟慮し、そのクオリティーを極めることではないだろうか。
 少なくとも、新[国立国際美術館]には、自らの思考や感覚と向き合うことを拒む受け手の意識に「待った!」をかけ、数値化や他人に依存しない価値観を築く為の[知能する場]としての意志を感じた。2つの巧妙な知的ゲームにしてやられた私個人の勝手な願いをこめて……。
..
会場:国立国際美術館 大阪市吹田市千里万博公園10-4
会期:2001年10月25日(木)〜12月11日(火)
問い合わせ:Tel. 0570-008886 ハローダイヤル


top

exhibitionザ・パレスサイドホテル "art in transit"

..
ホテル外観
ホテル外観

客室/溝江壽之
客室/溝江壽之

2F/カフェ
2F/カフェ

1F/アーティストグッズ
1F/アーティストグッズ

 某電鉄会社のCMに「京都・大阪・神戸=三都物語」というキャッチフレーズがある。近畿2府4県のうち三都市にスポットをあて、都市間の観光やレジャー客の動員を得るための戦略として「京都=雅、大阪=アクティブ、神戸=モダン」などのプロトタイプな街のイメージを唱っている。私は仕事柄、この売り文句にノせられているかのように三都を往き来している。その三都の中でも【京都】は美術系大学が多く存在し、卒業後のアーティストがアトリエや居を構えている。制作と生活環境が整ったアーティストにとって優しいこの街はキョート系アートを育む土壌が充実している。そういった物理的環境による理由から、アーティストとの打ち合わせやギャラリー・美術館巡りなどを兼ねて、私が京都を訪れる率はおのずと高い。こんな時ふと「雅の文化を育む古都/京都の正しい歩き方って何だろう?」と考えることがある。平安の世を伺わせる寺社巡りや陰陽師/安倍晴明ブームにあやかった街並み散策など、世間が提案してくれる「観光スポット」を堪能していないのではないだろうか。少なくとも私はそういった機会が与えられたとしても、いわゆるマジョリティーの価値観に対して無防備に身を委ねてしまえず慎重になってしまう。
 そんな折、朗報が届いた。「京都御所」の西側を南北に延びる烏丸通に面した「ザ・パレスサイドホテルの "art in transit"」だ。1967年に開業した同ホテルは今年の7/5にリニュ−アルオ−プンした。その記念プロジェクトとして始まった「art in transit」は、6名のアーティストがそれぞれホテルの1室に2日間滞在し、その部屋やホテル、その日時にちなんだ作品を制作するという試みだ。酷暑の7月、第1回 「art in transit」が開催された。
 それから3ヶ月、気候的にも過ごしやすい日々が続き、街の様相が初秋の趣を漂わせる10/6・7、ホテルのグランドオープンと共に第2回「art in transit」が開催された。通常営業を迎える前の2日間に限り、7月の参加アーティストと合わせて12室の作品を一般公開する場が設けられた。
 リザーブする為の事前情報としてアーティストと客室番号のみご案内しよう。
東郷靖彦/310号室、溝江壽之/311号室、長谷川博士/312号室、喜多順子/314号、小山田徹/315号室、伊達伸明/316号室、薮内美佐子/317号室、溝江壽之/318号室、金村 仁/319号室、林ケイタ/320号室、伊達伸明/339号室、法貴信也/340号室。
 いずれも関西在住の20代〜40代初めのアーティストであり、普段は絵画、写真、インスタレーション、映像、オブジェ、パフォーマンスなど様々なメディアによる作品を発表している。その普段の作品傾向を投影した部屋もあれば、ホテルの宿泊+滞在という非日常的な経験からなる作品展開が試みられた部屋もある。アーティストは、ベット、ドレッサー、ルームライト、テレビ、電話、給湯やレターセットなど、ホテルの客室ならではのギミックと自己の創造性との対話を交わした結果を作品化する。それらは奇をてらったものではなく、宿泊施設という枠組みの中で吟味を重ねた穏やかな演出が多くみうけられた。
 これまでも絵画や版画などの平面作品や彫刻作品がインテリアの一部としてホテルの客室にレイアウトされる例は珍しくない。しかしながら「art in transit」の特筆すべき点は、2日間という限られた時間ではあるが創り手が寝泊まりし、その環境に求められるくつろぎの空間を味わった上で自らの作品のあり方を提案することだろう。また、このプロジェクトは今後2005年まで年2回行われ、作品がホテルのコレクションに加えられる。その結果、客室60室に60の異なる作品が常設されることになる。ホテルの客室というフォーマットは同じだが、60通りの思考と感性との出会いがある。残り48室にはどんなアーティストがお目見えするのか、期待したい。
 通常、3泊4日の旅ならば同じ部屋に滞在するが、このホテルでは日替わりで部屋を楽しむという独自の宿泊スタイルが体験可能だ。また、小山田氏が内装を設えた2Fのカフェでは、第2、第4土曜日の夜に小山田マスターによるお持てなしが味わえ、1Fロビーの仮設のショップではアーティストグッズが購入できる。
 紅葉が美しい季節、スポーツ、読書、食欲、芸術と人それぞれの秋あれど、古都/京都でひとときを過ごすなら、観光モードとファインアートモードの両面を満たす「ザ・パレスサイドホテル」のご宿泊はいかがでしょう。
..
宿泊と客室のお問い合わせ
ザ・パレスサイドホテル 〒602-8011 京都市上京区烏丸通下立売上ル桜鶴円町380
問い合わせ:Tel. 075-415-8887 Fax.075-415-8889

作品とアーティストに関するお問い合わせ
ヴォイス・ギャラリー 〒602-0841 京都市上京区河原町通今出川下ル梶井町448 清和テナントハウス2F
問い合わせ:Tel. 075-211-2985 Fax.075-211-3067 info@voicegallery.org

top

report学芸員レポート [神戸アートビレッジセンター]

..
11月4日(日) 出品作家プレゼンテーション
11月4日(日)
出品作家プレゼンテーション


11月4日(日) レセプションパーティー
11月4日(日)
レセプションパーティー

木村望美作品とアンサンブル・ゾネ(岡)パフォーマンス
木村望美作品と
アンサンブル・ゾネ(岡)
パフォーマンス


神戸アートアニュアル2001ねむい、まぶた。

 芸術の秋到来!ってことは仕事の秋ってこと?!
 神戸アートビレッジセンターでは、毎秋、“関西在住の若手アーティスト”に注目した展覧会「神戸アートアニュアル」を開催してる。【アニュアル】だけあって1年のサイクルはとても早い。
 通常の企画展の場合、企画者が主題を練り上げてそれに見合った作家を選定する。しかし、なにせ27歳未満または学生であることが出品作家の条件なので、良くも悪くも発展途上な作品が並ぶことが多い。その水面下の才能を発掘して未来のアート界の担い手と歩んでいこうとするのが、この企画の主眼である。そういったアーティスト予備群を育成する、関西の芸術系大学の教員の方々に実行委員会としてご協力を頂き、その中から主任実行委員を決め、当年度の企画の基軸を固める。また、ありがちな学校選抜展の平等の論理の弊害を避けるため、主任実行委員の一任が信条となっている。そうすることで毎年目線が変化し作家の層もバラエティーに富んだものになる。
 さて、ここからがアニュアル独自の企画進行と言える。
 ある意味、主任実行委員の独断と偏見で集まった出品作家達がこの企画の実行委員を同時に担うことになる。ここでは、作家自らが当年度サブタイトルの検討+決定、デザイン物の検討、デザイナーによるプレゼンテーション、関連企画の内容やゲストの検討+決定を行い、展覧会を構成するあらゆる側面に作家の意識を反映させる(ちなみに展覧会のビジュアルアイデンティティーを創り上げるデザイナーも出品作家と同世代である)。主任実行委員の目線を一度解体し、出品作家がこの一連の行程を経ることで、自分のフィールドやその位置について確認する。「作家は作品だけでモノを言えば良い」なんてことが通用しないことは、実社会で嫌と言うほど思い知らされ、作品における哲学を客観的に言語化することが求められる。それは饒舌に語ることを望んでいるのではなく、その人物特有の語り口やマネジメントによる自己プレゼンテーションが更なる魅力となるはずであろう。そしてそれが作品の強度となって我々を惹き付けてやまないものとなる。あらゆる側面で求められる独自のクリエイティビティーをアーティストから提案された場合、プロデュースの代行を買って出る人物に出会えるかも知れない。本企画では、そんなお節介な期待を胸にインタビュービデオを制作・放映したり、出品作家のプレゼンテーションを開催している。その結果、身内意識で許されていた生ぬるい自己表現では済まされないことに気づく人。そんなカッタルイことはやってられないと無視を決め込む人。なかなか自分のスタイルがつかめない人など、なんてったって若いので参加作家の反応は様々だ。
 でも、音楽やスポーツ界で10代が活躍する時代、アート界も早くからプロ意識が必要だと思う。ただ、小・中学校時代からのスポーツ英才教育や高校時代のバンド活動など他のジャンルのスタートラインと比較してアートは立ち遅れている。その上、マーケットが不在な故、これはかなり無理な注文であり、隣の芝生は実際に青いのかも知れない。しかしである。それでもこの場でやり続けるなら他人に何かを期待するより以前に、まずは当事者から変わらないと……。そしてその環境整備を試みる一員として、かく言う私も前進せねば。嗚呼、すべてが自分に返ってくる今日この頃、自らの戒めの機会として、「神戸アートアニュアル」は来年も続く……。
..
神戸アートアニュアル2001ねむい、まぶた。
会期:2001年10月27日(土)〜11月18日(日)
会場:神戸アートビレッジセンター 神戸市兵庫区新開地5-3-14
出品作家:岩谷由愛、大竹竜太、金政宏治、木藤純子、木村望美、坂川守、
     中西信洋、古川智大、北城貴子、松田香理、溝江壽之 (日替わりで来館)
問い合わせ:Tel. 078-512-5353 kavc@kavc.or.jp

関連企画
【プログラムA】11月4日(日) 出品作家プレゼンテーション
【プログラムB】ゲストトーク「ねむい、まぶた。」
 11/10(土) 14:00〜 松井みどり(美術評論家)、17:30〜 安斎重男(写真家)
 11/11(日) 14:00〜斎藤環(精神科医)、17:30〜 今村源(美術家)

top

copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2001