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福島  木戸英行
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exhibition日本ゼロ年展

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 ぼく自身も含めてのことだが、たとえばartscapeを毎号欠かさず読んでいるような人たち(あるいは、その存在を知っているだけでと言うべきかもしれないが)は、「現代美術」という概念や呼称が世の中にあることを知っており、それを結構便利に使っていたりもする。しかし一方で、現代美術とそうでないものとを隔てている境界とは何か、ということをあらためて考えると、意外にその明快な回答を持ち合わせていないというのが正直なところではないだろうか。
 本展は、従来の現代美術という概念を、その枠組みの中にいる者たちの間でみ機能する暗黙の了解事項に支えられてきたものとしてとらえ、そうした「既成の枠組みをリセット」(展覧会チラシに掲載された企画者・椹木野衣氏の言葉)しようという趣旨の、非常に挑戦的・挑発的な内容である。もちろん、ここで挑発されてようとしているのは、美術館関係者、美術ジャーナリズムといった、従来の現代美術の枠組みをせっせと支えつづけ、そして自らその受容層でもある、われわれ自身であることは言うまでもない。
 出品作家は、岡本太郎や横尾忠則ら、日本の現代美術の主流からは離れた場所にいながら、しかし、いわゆる「現代美術」作家では誰も太刀打ちできないほどの圧倒的なネームバリューをもつ大御所から、村上隆、ヤノベケンジ、会田誠といった90年代の日本のアートシーンを代表する人気者たち、果ては、ウルトラQやウルトラマンに登場する怪獣のデザインを手がけた成田亨(恥ずかし ながら、ぼくはこの名前を知らず、展覧会を見るまで若い作家かと思っていた)という異色の彫刻家まで、現代美術のコンテキストにとらわれることなく「あらゆるジャンルで全方位的に活動してきた」という基準で選ばれた11人。純粋培養の結果、あまりにひ弱な身体となった「現代美術」界の住人には刺激の強すぎる作家と作品群である。でも、何にせよ被虐趣味的傾向ももちあわせた日本人ゆえに、彼らの挑発も逆に快感だったりする可能性もある。それがまた、日本の「現代美術」界の住人の困った性癖なのだが。
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日本ゼロ年展
アーティスト:岡本太郎、東松照明、飴屋法水、横尾忠則、成田亨、会田誠、
       村上隆、ヤノベケンジ、大竹伸朗、小谷元彦
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
   茨城県水戸市五軒町1-6-8
会期:1999年11月20日(土)〜2000年1月23日(日)
開館:9:30〜18:30
休館日:月曜日(ただし1月10日は開館)、12月27日〜1月3日、1月11日
入場料:一般800円、中学生以下・65歳以上・心身障害者の方は無料
問い合わせ先:Tel. 029-227-8120
12月15日号topics日本ゼロ年フォト・レポート

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exhibition家族の肖像――鈴木実・鈴木芳子の世界

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鈴木実「あなた達自身の肖像」
鈴木実「あなた達自身の肖像」1974年

鈴木芳子「化粧する女」
鈴木芳子「化粧する女」1969年頃

 昨年他界した福島県いわき市出身の日本画家、鈴木芳子と、その夫であり、主として国画会を舞台に独特な肖像彫刻を発表しつづける彫刻家、鈴木実の二人展。
 鈴木実は1930年山形県生まれ。木彫を学び、院展に出品を重ねた後、国画会彫刻部創設に参加。1978年に平櫛田中賞、1985年には中原悌二郎賞を受賞した、日本における現代木彫の代表的な作家の一人である。一方、妻の芳子は1929年にいわき市に生まれ東京芸大日本画科を卒業した後、1957年には新制作協会で新作家賞を受賞するなど将来を嘱望された日本画家。展覧会はこの美術家夫婦の約40年間にわたる作家活動を概観しようという内容。
 もっとも、「家族の肖像」というタイトルに、互いに励ましあいながら芸術の道を歩んだ夫婦の愛情溢れる作品群などというものを期待しては見事に裏切られる。
 たとえば、鈴木芳子が執拗に夫や自らの近親者、さらには自分自身を描いた一連の肖像画である。とりわけ1969年頃に制作された自画像「化粧する女」は強く印象に残った。すっかり張りを失った肉体、しみの浮き出た頬、異常なまでに長いつけ睫毛、黄色いヘアーキャップ、そして背後に寄り沿い、彼女の身体に手をまわす黒い影。これでもかというくらい露悪趣味的に自らの内奥をさらけだした作品にもはや余人が入り込む場所はない。蛇足ながら、生前の写真を見る限り、彼女はそうした自虐的な作品を描かなければならないような容姿では決してない。
 一方の鈴木実の作品もまた、様式こそ圧倒的な技術に支えられ、スタイリッシュでユーモアさえ漂わせているものの、その根底には救いようのない孤独と不安が横たわっている。
 もちろんこの夫婦が、かたや木彫、かたや日本画というそれぞれの領域で互いに自立したアーティストとして独自の表現を追及しながら、その一方で、文字通り一心同体といえるほど影響を与え合って作品を深化させて行く過程に、ある種の究極的な夫婦の結びつきがあったことは疑う余地もない。しかし、その結びつきの固さを見て行くにつれ、結局は「個」でしかありえない人間という存在の不条理を垣間見る思いもした。
 結婚暦10年以上の人におすすめ。
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家族の肖像 鈴木実・鈴木芳子の世界
会場:いわき市立美術館
   福島県いわき市平字堂根町4-4
会期:1999年11月20日(土)〜12月19日(日)
開館:9:30〜17:00 休館日=月曜日
入場料:一般840円/高・高専・大生520円/小・中生310円
問い合わせ先:Tel. 0246-25-1111

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report学芸員レポート[CCGA現代グラフィックアートセンター]

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小林秀雄「中断された場所」
小林秀雄「中断された場所」1998年

 今月は、水戸芸術館の「日本ゼロ年」と、いわき市立美術館の「家族の肖像――鈴木実・鈴木芳子の世界」という対照的な二つの展覧会をレポートしましたが、正直に言って、二つとも見終わった後で、どっと疲れる展覧会でした。もちろん、いい意味で、というふうに理解してほしいのですが。
 というわけで口直しに、と言ったらアーティストに怒られるかもしれませんが、水戸芸のクリテリオムで同時開催していた「小林秀雄展」(「ゴッホの手紙」や「本居宣長」の小林秀雄ではありません。当然のことながら)もレポートします。
 小林秀雄は1969年生まれ。空き地や廃棄場に、表面にコンクリートを塗ったベニヤ板を持ち込んで組み立て、壁に囲まれた空間を一時的に作り出して、その中を8×10の大型カメラで撮影する、という手法の作品を発表しています。いま手元にないのですが、以前ある写真雑誌でその仕事が短く紹介されていたことがあって、個人的に気になっていた作家でした。
 察しのいい読者の方なら、上の説明でそのイメージがだいたい伝わったと思いますが、作品は、まるで建物の1室に土や雑草を持ち込んで床に敷き詰めたインスタレーションのように見えます。あるいは、杉本博の「ジオラマ・シリーズ」を思い出してもらってもいいかもしれません。
 ギャラリー備え付けのリーフレットには、担当キュレーターによる「写真論的な写真」という小論文が載っていましたが(おそらく作家本人のコンセプトもそこに書いてある通りなのでしょう)、ぼくには、インスタレーションのフェイクを写真を使って捏造した、というふうにも見えました。そして、それが現代美術を鋭く批評しているような気がしたのです。
 現実にそういう作品があるかどうかは別にして、ギャラリーに土や雑草を持ち込んでというインスタレーションはいかにもありそうじゃないですか。それを実際の屋外で、反対に壁を持ち込んであたかもそこがギャラリーの1室であるかのように見せてしまう。偽造された自然を二重に偽造して見せるというわけです。これはやはり深読みのし過ぎでしょうか。
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クリテリオム41 小林秀雄 KOBAYASHI Hideo
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室 茨城県水戸市五軒町1-6-8
会期:1999年11月20日(土)〜1999年12月19日(日)
開館:9:30〜18:30、休館日=月曜日
入場料:「日本ゼロ年」展に含まれる
問合せ先:029-227-8120

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