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美術作品と著作権(1)――いつ、いかなる状況で、問題になるか
 
私は昨年まで、美術著作権協会という団体で、約10年間にわたり、海外の美術作品に関する著作権管理業務を行っていました。この間、著作権に対する使用者側の意識が高まる一方で、次々に新しいメディアが生まれる中で著作権処理に関するトラブルも増えてきた、というのが私の実感です。
今回から数回に分けて、前職での実務経験を踏まえながら、美術著作権の特徴、日本における美術著作権管理の現状をご説明したいと思います。

美術著作権の特徴

他の芸術ジャンルの著作権と比較してみると、美術著作権の特徴が見えてきます。
音楽、演劇、文芸では、実演、上演、出版という作品の公表段階で、著作権者の許可が必要です。もちろん、ビデオ、CD等への収録、舞台化、テレビドラマ化等についても著作権処理は必要ですが、これらは、あくまでも、公表された作品の副次的な使用の範囲に留まります。つまり、作家の予想を超えるような形で著作権の問題が浮上するケースは少ないと言えます。

これに対し、美術の場合、展示という通常の発表行為の段階では展示者が著作権者の許可を得る必要はなく、作品が何らかの媒体に複製使用されるときに初めて著作権の問題が生じます。そして、他のジャンルと比べて、複製媒体がきわめて多種多様です。出版物、テレビ、ビデオ、CD-ROM、インターネット、広告媒体、衣類、所謂ミュージアムグッズ(複製画、絵葉書、アクセサリー、文具類、等)、その他、様々な媒体が考えられます。音楽、演劇、文芸では、このように多くの媒体に作品が使用されることはないでしょう。美術家は、自分では全く想定していないようなケースについても、著作権に関する判断を迫られるわけです。

使用料の金額の交渉に比較的重点が置かれ、諾否の問題が生じにくい音楽、文芸、演劇の著作権の場合と違い、美術著作権の場合は、使用料の金額の問題以前に、使用自体を許諾するか否かという問題がしばしば生じるのは、以上のような美術著作権の特徴に起因します。美術の分野の著作権では、音楽著作権の場合のように規定の使用料の支払いと引き換えに自動的に許可を交付するといった方法では管理しにくい事情がここにあります。たとえ何億円積まれようとも、自分の作品を絶対にティーシャツやハンカチに使用してほしくない、という作家がいても当然と思えますし、自分の作品はオリジナル作品でのみ鑑賞してほしいから、本であれテレビであれ複製は一切許可しないという作家がいても不思議ではありません。

さらに、美術作品には、贋作の問題があります。私がよく存じ上げている作家の遺族で、使用媒体がたとえ所蔵美術館の図録であろうと、しばしば理由を言わずに作品の使用を不許可にする方がいます。著作権の濫用ではないかと非難されることもあるのですが、私の知る限り気まぐれで不許可にしているということはなく、必ず何らかの理由があって断っています。その代表的なものが、贋作の疑いがある場合です。遺族にとっては、かなりはっきりした理由で贋作と思われても、遠方の美術館まで赴いて原作を見て最終確認することもできず、とりあえず断らざるを得ないということが多々あります。とはいえ、贋作であると断言して、所蔵美術館や作品を納入した画廊から告訴されても困るため(実際にそのようなことが過去にあったそうです)、理由を言わずに断っています。自分の持つ権利の行使を真剣に考えればそのような対応をせざるを得ないわけです。これなども、美術著作権の特徴がよく現れているケースだと思われます。

以上のような特徴を持つ美術著作権の管理や処理は、当然、一筋縄ではいかない厄介な仕事になります。次回は、主として、日本における美術著作権管理の現状についてご説明いたします。


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