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1999-2000
関西/けっこう捨てたもんじゃない

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1999年の関西の様子を振り返ってみると、大きなイベントやセンセーショナルなことはないものの、個人的には十分に楽しんだように思う。

 美術館での展覧会は、いずれの館も財政難の折からか派手な企画はなかったが、今世紀の仕事を地道にフォローするような展覧会が多かった。こういった時期だからこそ、足元をしっかり固めていくような作業が必要かつ重要だ。「関西の戦後美術1950's〜1990's」「デモクラート 1951〜1957」(和歌山県立近代美術館)、「もうひとつの美術史――画家と額縁」「日本近代美術史・三篇のエッセイ展」「美術館の遠足 3/10」(西宮市大谷記念美術館)、「杉全直展」「日本の写真 1850's〜1945」(姫路市立美術館)、「福田美蘭展」「高松次郎 〈影〉の絵画とドローイング」(国立国際美術館)、「東アジア/絵画の近代 油画の誕生とその展開」(兵庫県立近代美術館)、「小野竹喬展」「日本の前衛 Art into Life 1900〜1940」(京都国立近代美術館)「河口龍夫 関係――京都」(京都市美術館)……etc.こうして展覧会名をあげていっただけでもちょっとしたものだ。
 90年代というより、一足先に日本の20世紀のおさらいをしていこう、というような企画も多々あった。とにかく、作品というのは見ると聞くでは大違いだ。書かれたものや、人から聞くことで得る情報より、展覧会で実作品に出合うことや、系統立てて作品を見るチャンスに恵まれることほど、美術の場合は嬉しいことはない。メインストリームに向かおうとする若手を押し出していくような展覧会も美術館の仕事として意味があろう。海外のスター作家の作品をもってきて、洒落たタイトルの展覧会に仕上げて見せるのもいい。それはそれで素晴らしいと思う。だが、私たちの美術の歴史を紐解いていくことは、今の表現をつくり出した背景を知ることにつながるし、そうすれば“とんがり”の先端のような作品をみても、もう少し見る側のリアリティを誘い出すことだろう。現代美術の展覧会に人が入らないとボヤクまえに考えることが沢山ある。その一つの方法としても、ドキュメントとしても大切な展覧会をたくさん見ることができた。美術館の役割が問われるなかで、マイナスの条件をむしろプラスの方向に転じさせていた企画が印象に残る。

 美術館の外でも、美術は関西に着実に根をはっていることが、いろんな場面で確認できた。2回めにしてすでに5月の京都の恒例行事となった「KYOTO ART MAP」。現代美術を扱う20画廊が参加。それぞれの画廊は期間中はとっておきの展覧会で美術ファンや関係者を迎えた。京都市が行なう「芸術祭典・京」との同時開催ということもあり、関連行事なども含めて多くの参加者を得た。京都は、作家と観客と画廊等がそれぞれお互いを育て合っている。美大生の多い京都は、次々と新しい作家が誕生し、いろんな隙間で発表をする。まるで物々交換のように作家同士が見せ合っているだけの場合もある。そういう意味では京都は、毎日がパーティであり、祭りのようである。

 京都の動向とは、いささか異なるのが大阪だ。経済状況が低迷しているなどとは、決して思えないほど、新しいスポットが続々と増えている。新春を迎え、大阪港に近い倉庫に、行政と企業と画廊が三つ巴で運営する大規模なスペースができ、海外からのアーティストの招聘(アーティスト・イン・レジデンスなど)にも意欲をみせている。大阪府立現代美術センターは新しい場所に移転、1月12日から活動を再開する。ここでは3月に今村源展も予定されている。

 互いがバランスよくテンションを上げていきながら、ここにきて関西はより魅力的になっていこうとしている。関西の作家は東京に劣らず非常に層が厚い。そして、東京より優る点は、物理的にも精神的にもそれぞれの距離が近いということだろう。70才代の元永定正は16年ぶりに11月末、神戸の「舞台空間展」で派手なパフォーマンスをやってのけた。村岡三郎、田中敦子、嶋本昭三、堀尾貞治など、70代、60代、50代と年齢を重ねてもいまなお現役で、ほとばしるエネルギーを創作活動にぶつけている。関西ニューウエイブなどともてはやされた世代(1960年前後生まれ)が40代にさしかかってきている。もちろん彼らも現役で仕事をしつつ、母校の美大で後輩の育成に携わっているということの影響も強いのだろう。20代だって、木村友紀を筆頭に海外展なども経験したりしながら着実に世界に向かっているアーティストがいる。けっこう捨てたもんじゃない。いい感じに次の世紀も迎えられるに違いないと楽観しているのはわたしだけだろうか。

関連記事・サイト

大阪港に近い大規模な倉庫のギャラリー:ギャラリーヤマグチ

北九州市立美術館 所蔵作品 田中敦子

garerie ou 堀尾貞治

TOWN ART GALLERY 木村友紀展/ハンカチ……原久子

関西特集 関西の比較的若いアーティストの事……白沢 正 4月1日号(1998)

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