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光州日記

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光州ビエンナーレ2000

3月28日(火)

 前日の昼ごろ成田を発ち、ソウル経由で5時すぎ光州に到着。タクシーでホテルへ。飛行機もホテルも資生堂の樋口さんに任せっぱなしにしたので、宿に着くまでは3年前と同じビエンナーレ会場近くのプリンスホテルだとは知らなかった。同行したのは樋口さんのほか、同じく資生堂の西村さん、NTT ICCの小松崎さん、水戸芸術館の浅井さん、中国文化研究者の牧さん。そのうち4人はこの1〜2年にパパになった。このほか、金沢市現代美術館の長谷川さんや国際交流基金の古市さん、建畠さんらも同じホテルだった。夕飯は、前回見つけたホテル近くの店で海鮮鍋を。飲んで食ってひとり1600円ほど。
 朝はホテルの定食。テーブルにキムチの皿が並ぶ。いざ会場へ。まずはビエンナーレ館の事務局に寄ってプレスパスをもらおうとするが、だれが担当なのかさっぱりわからずタライまわしにされたあげく、歩いて10分ほど離れた教育弘報館へ行けといわれる。なるほど「弘報」は「広報」なのだ。しかしここでも押し問答になり、思わず「あなたたちは日本で報道されたくないのか!? 」と気色ばんだら、ようやく身分証明書と引き換えにプレスパスをもらえた。たしか前回もこんなことがあったはずだ。担当はそのつど変わるから、たぶん次回もこうだろう。気を取り直してさっそく弘報館の展示「人間と性」から。ジャニン・アントニ、ナン・ゴールディン、キム・スージャ、森村泰昌らが出品するほか、日中韓の春画のコーナーもあって秘宝館の雰囲気も。
 ビエンナーレ館に戻って地域別展示を見る。順路に沿って、「アジア」「北米」「韓国・オセアニア」「ヨーロッパ・アフリカ」「中南米」と分かれ、最後に特別展「芸術と人権」があり、その合間に位置づけの曖昧な「特別コーナー」が設けられている。今回は金大中大統領の日本文化開放政策が奏功したのか、「アジア」コミッショナーに谷新、「芸術と人権」コミッショナーに針生一郎と、企画側に初めて日本人がふたり入った。ちなみに「北米」はトーマス・フィンケルパール、「ヨーロッパ・アフリカ」はルネ・ブロック、あとは韓国人のコミッショナーだ。
 会場を入るとまず「特別コーナー」として、フランス在住の中国人作家ヤン・ペイミンによるモノクロームの肖像画群がお出迎え。「アジア」は戸谷成雄の巨大な木彫、グ・ウェンダによる人間の髪で編んだ国旗、マ・リューミンのセルフポートレート、ナリニ・マラニのビデオインスタレーションなどが目を引く。次の「北米」はユニークだ。作品は具象画と肖像写真ばかりで、チャック・クロースを除いてなじみの薄い顔ぶれ。しかもところどころに鏡が掛けられ、なんか変だと思ったら、セルフポートレートの特集なのだ。
 ユニークといえば「ヨーロッパ・アフリカ」もそう。トルコ・イランを含む「ヨーロッパ・アフリカ」という括りも大胆だが、肝心のヨーロッパはなんと北欧だけの出品で、いわゆる西欧先進国の有名作家はひとりも入っていないのだ。おそらくギャラの問題もあったに違いないが、こうした国際展には欠かせない欧米の大御所を抜きにしても、いや抜いたからこそというべきかもしれないが、十分に楽しめる展示になっている。それを補うつもりなのか、あちこちに分散した「特別コーナー」ではジュゼッペ・ペノーネやアントニー・ゴームリーらが出品。
 近所の中華料理屋で中華とも韓国料理ともつかないチャーハンを食って、「韓国・オセアニア」に戻る。韓国は30〜40代を中心とする若手作家が多く、光州民主化運動を描いた水墨画からCG映像までバラエティに富んだ選択になっている。「中南米」も未知の作家が多いが、侵略と同化の歴史的背景を踏まえ、みずからのアイデンティティを問うインスタレーションに的を絞っていた。
 最後の「芸術と人権」は針生一郎ならではの、そして光州ならではの企画といえる。なぜなら、本来は昨年開催するはずのビエンナーレを1年延ばしたのは、2000年という区切りのいい年にあわせたのと同時に、いわゆる光州事件から20周年という記念すべき年でもあるからだ。針生さんによれば、当初はキーファーハーケを軸にする計画だったというが、結局ハーケは出品できず、キーファーも旧作1点のみ。そのため東アジア中心の展示となった。裏返せば、東アジアではこの主題には事欠かないということでもある。作品の質としては首をかしげたくなるようなものも含まれているが、日本の美術館では展示できない山下菊二の天皇の肖像画や、従軍慰安婦を描いたジュン・ウォンチュルの絵など、ドキッとする作品も。
 はーちかれた。みんなで近所の喫茶店に。カフェではなく、あくまで昭和30年代風の喫茶店。夕食はいつのまにか、中心街のホテルに泊まっている嘉藤笑子さんたち「熟女グループ」(ぼくがいったのではない)と合コンしようという話に。彼女たちのホテルに着いたら話がどんどん大きくなり、アジアの作家たちも含めて30人規模に膨れ上がってしまった。店で海鮮鍋をつついていると、さらに欧米のキュレーターやら評論家も合流して、しまいには立ち飲みのパブ状態。

3月29日(水)

 ホテルで朝食。昨晩遅くまで飲んだせいか、だれも下りてこない。今日がビエンナーレのオープニング。10時にロビーで待ち合わせ、ホテル近くの市立美術館から見ていく。ここでは特別展として「韓日現代美術の断面」と「北朝鮮美術の昨日と今日」をやっている。「韓日」のほうは70年代っぽいモノクロームの絵画・彫刻ばかりで、日本はもの派が中心。この時代は世界中がミニマルだったけど、韓国の作家はいまだにつくりつづけているのに、日本の多くの作家は70年代前後の旧作を出している。この違いはなんだ。「北朝鮮」のほうは社会主義リアリズムと山岳風景ばかりで、なんというか時間が止まったみたい。不気味だったのは、ちっちゃな貝殻を並べてつくったラファエロの聖母子像や「モナリザ」の像。
 ひとりスタンドでサンドイッチをほおばっていると、パルコキノシタがカラオケパフォーマンスを始めた。と思ったら、近くで休んでいたおっちゃんたちがいっしょに唄い踊りだしたのにはびっくり。ドクメンタの会場でも行ったパルコによれば、こんなこと世界中でここだけだという。再度ビエンナーレ館をじっくり見学。昨日はまだ展示や照明が終わってなかった作品も、さすがに今日は完璧。3時からマ・リューミンのパフォーマンス。全裸で登場したマが椅子に座って眠りこけ、その隣の椅子に観客が次々と座って記念撮影していく。あとで聞いたら、マは睡眠薬を飲んでいたそうだ。彼はほれぼれするほどの美青年なので、監視のねーちゃんたちまで寄ってきてすごい人だかり。こらこら押すなって。
 ところで、前回はなかったのに、今年は賞があるのだそうだ。大賞はイラン出身でニューヨーク在住のシリン・ネシャト、アジア大賞は戸谷成雄、特別賞にはセレテル・ダグヴァドルジュ(モンゴル)とチェン・ジェレン(台湾)のふたり、美術記者賞にはキム・ホウスク(韓国)が選ばれた。
 さて夕飯。2晩つづけて海鮮鍋だったので、今夜は焼き肉に。ホテルのフロントに聞いたら、近くの別のホテル内に焼き肉屋があるという。ホテル内の高級店じゃなくて、もっと安っぽい焼き肉屋はないかと聞くと、わざわざそこに電話をかけてくれて安いという。いや値段の問題じゃなくて、もっと庶民的で汚い店がいいと食い下がろうとしたが、あきらめた。なかなかニュアンスは伝わらないもんだ。でも実際に行ってみたら、きれいだけど庶民的な店だった。明日は朝7時半の飛行機なので、5時に起きなければ。早めに寝る。

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光州ビエンナーレ2000
会場・事務局:韓国 光州広域市北区竜鳳洞山151-10
会期:2000年3月29日〜6月7日
HP:http://www.kwangjubiennale.org/
問い合わせ:biennale@www.kwangjubiennale.org

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